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    つきこ

    企画CSまとめ&センシティブ系まとめ

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    つきこ

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    雨神天泣尊を調べていた学者の手記私は宗教学を学んでいるしがない学者の端くれだった。愚かにも神を調べようとした人間の記録だとでも思って頂きたい。

    私は数ある文献の中で雨の神に興味を持ち、好奇心に駆られるままとある神社に取材に向かった。

    これは雨の神、雨神天泣尊を祀る神社の神主に聞いた話。

    雨神天泣尊は滅多に人前に姿を現さない。
    激しい豪雨の際にのみかの神は現れる。
    その姿はそれはそれは美しい狼の姿をしており、
    一眼見たら脳裏に焼き付いて離れない程だと言う。

    また、青年の姿で現れたと言う言い伝えもあるようだ。

    日照りが続き、旱魃に飢える人々の元に何処からか一人の青年が現れた。

    「辛かろう。苦しかろう。嗚呼なんと。悲しきかな。」

    頭に直接響くような、よく通る声で青年そう呟いて一粒、二粒と涙を流すとたちまち空は曇り、
    次第にザァっと強く雨が降った。
    人々は喜び空を見上げた。久方ぶりの雨に人々は暫く天を見続けた。
    そして再び青年に目をやるが、青年が居た場所には真珠のように美しい雫が数個、
    ポツリポツリと落ちているだけだった。

    と、神主は話してくれた。
    神主はこれらは全て言い伝えで、
    神主自身は神の姿を拝んだ事も、恩恵を与えてくださった事も未だ無い。
    だがしかし、雨神天泣尊は偉大で、恐るべき神様である事には間違いないと話された。

    そして、ここからは私が体験した話。

    一通り話も聞き終わり、いざ帰ろうと神社を出て山を下っていた所、
    急な雨が降り、私は方向を見失ってしまった。
    どうしたものかと辺りを闇雲に彷徨っていたところ。

    「おまえ。此方へ。早う来なさい。」

    と、何処からか声がした。周りの音も激しい雨音に掻き消される中、
    不思議な事にその声はハッキリと聞こえた。
    誰だ、と声を掛けたが返答は無かった。
    その代わりに、私の視界にうっすらと輝く狼が映り込んだ。
    その狼のなんと美しい事か。あまりの美しさに私は息を呑んだ。
    狼は私を一瞥すると雨の中に消えていった。
    どうしてもその姿をまた拝みたいと思った私は狼の後を追いかけようとした。
    草木を掻き分け、一歩踏み出すとなんとそこは神社に繋がる階段の手前に出た。
    驚いた事にそこは山の麓。私が乗ってきた車もあった。
    さっきまでいた所、迷う前までの記憶では神社から出て20分程下った所だった。
    その山は下るのに軽く見積もっても2時間はかかる。
    そして今。下った時間を計算しても2時間も経っていない。
    それどころか1時間も経っていないのだ。

    その瞬間、私はかの神に助けられたのだと悟った。
    かの神が助け舟を出してくださらなければ私はあの激しい雨の中、
    どうする事もできずに寒さに震え、凍え、飢え、一人野垂れ死んでいたかもしれない。

    この事を書こうと思ったのはかの神、
    雨神天泣尊はそれほどまでに慈悲深く、恐ろしく美しい事を伝えたかった。
    だがそれはかの神の断片に過ぎない。
    神を調べてまとめて、人間如きが知ったような顔をするなぞ烏滸がましいと知った。

    出来る事ならもう1度、もう1度だけでいい。
    かの神の御姿を拝みたいと、不敬と知りながらも願ってしまうのだ。

    そしてこれは私の最後のレポートとなるだろう。
    もうただただ、祈ることしか出来ない。
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