レムナンとSQがバトルしてるだけ自室で読書にふけっていると、一冊読み終わった時には夕方になっていた。
本を読み始めると夢中になりすぎてしまい周りの音も何も感じなくなってしまう癖は、もう直すことを諦めた。
それでも許してくれる人達が居てくれるおかげで、ね。
読み終わった本を棚に戻した時、窓の外でチカチカと魔力が光っているのが見えて僕は訝しんだ。
窓を開けてみると、模擬戦用のゴムナイフを装備したレムナンと、普段用のブーツを履いたSQがなぜか戦っていた。
肩慣らしの練習試合かとも思ったが、その形相はなにやら不穏に歪んでいる……
SQは持ち味の脚力でダッと距離を詰め、右ストレートをレムナンの顔面目掛けて殴りかかる。
レムナンは軽々とそれを受け止めるが、それはSQの計算通り……
その手と右足を軸に、体を後方にひねり左足で背面踵落としを差し込んできた。
彼女は足での攻撃を好み、その威力と精度はメンバー内で1番上だ。
その一撃はレムナンの首に定められ、もしアレが入ったら……まぁ首折れて死ぬだろうね。
もちろん、それでレムナンがやられないのは誰もが分かっていることだ。
彼は右手に携えたダガーナイフでSQの蹴りを受け止めていた。
そして自身の右手とSQ自身の足で死角となっているであろう左手にたずさえたカランビットナイフでSQの軸足を一閃薙ぐ。
だがその攻撃はSQに読まれていた。死角があれば攻撃をされるというセオリーは、むしろ簡単に避けられると同義だ。
SQはレムナンのナイフに受け止められた左足に体重を移動させるように右足で地面を蹴り、その細身をひねってレムナンの横っ面に蹴りを入れようとした。
それはさすがに受けきれないレムナンはSQの左足を受け止めていたナイフに力を入れ、身を引きつつ彼女を押し返す。
軸足を外されてバランスを保てなくなったSQはふっ飛ばされながらも片手を地面に着いた一瞬でバランスを取り戻し、空中でくるんと回って着地するも、彼の力に押された反動でズサッと砂埃があがるような低い姿勢の着地となった。
長い赤髪が反動に揺れ、払うように顔を上げた瞬間。髪の隙間を縫うほどに正確な位置にレムナンのカランビットナイフが飛んでくる。
一瞬反応が遅れ、手での防御も回避も間に合わない。
SQはナイフが頬を掠めたのか、まるで頬を叩かれた時のように頭が揺れて髪を乱す。
模擬戦用のゴムナイフだから当たっても切れないが、みみず腫くらいにはなるだろう。
そんなものはステラの回復魔法で1分とかからず治るのだが……
さすがにこれはSQの負傷でバトル終了かと思いきや、ゆっくりと上げられたSQの顔に僕らは驚愕する。
レムナンのナイフを、歯で噛んで受け止めていた……
SQはいつの間にあんな野性的な戦闘スタイルを身に付けたんだ?
そういうのはコメットの専売特許だったと思うんだけど……
「SQ、変わったね」
「おや、居たのかいジナ」
「うん。だってあの結界張ってるの、私だから」
「あぁ本当だ、結界あるね。ところでアイツらは何をしているンだい?」
「んー……、親子喧嘩?」
「僕が聞いてるのは喧嘩の内容だよ」
すっとぼけたジナに聞いてもらちがあかなそうだね。
ジナの結界内で始まった喧嘩なら、そんなヤバそうな内容じゃないんだろうけど……
視線を再びレムナンとSQに戻すと、SQは立ち上がってレムナンのナイフを手にしたままその甲で口を拭っていた。
その時の獲物を射殺すような視線は親子そっくりだよ……。
再び殴り合いが始まりそうな二人に、僕は声をかけた。
もうそろそろ止めてやらないと、ステラの雷が落ちるからね。
「君たち、いったい 何をやってるンだい?」
「……いっ、たい……?」
「たい……そうです……。タイです」
「は?」
「今晩の鯛は塩焼き!!ジナは焼き魚が好きなの!!」
「絶対に鯛茶漬けです!!イートフェチ1年生のラキオさんでも食べられるものにしてください!!」
「…………」
「……私は、どっちも好き。ラキオは?」
「そうだね、僕は……」
夕飯の献立でガチ喧嘩をしていたバカどもの親子丼でも頂こうかなぁ……っ!
愛銃に捕縛弾の魔力を込めて二人に撃ち、捕まえたバカ親子を調理場に投げ入れた。
ちなみに夕飯は鯛の塩焼きも鯛茶漬けもどっちも出てきた。
end.