2024年ドラルクお誕生日おめでとう!「ちーっす。ロナルドさん、何かくださいよー」
今日は月が空に大きく輝いていて忙しくなりそうだから早めにギルドに行っておくか、と早めに事務所を出た途端厄介な人間に絡まれたので退治人は自分の選択をかなり後悔したのであった。
「武々夫にやるものなんてあるわけねえだろ」
「マジっすか。腹減ってません?晩飯食いに行きましょう!そして奢ってください!」
「だからそんなことするわけねえだろって言ってんだろ!」
「あーあー、ドラルクさんなら気前よく奢ってくれたのになー。コンビの相方がケチだなんてなー」
「は?ドラ公が?アイツものを食べられないだろ」
驚くロナルドに武々夫は同居しているのに知らないことなんてあるゥ〜?と見る人をムカつかせる表情をして得意げに言いだした。
「俺もドラルクさんに教わるまで知らなかったんですけど、この街案外吸血鬼向けのメニュー用意してるお店あるんスよねー。生血屋はちょっとアレっスけど、人間も一緒に飲み食いできる居酒屋とかカフェとかー」
「へえ?」
「よかったら場所教えますよ。そして奢ってください!」
「奢らねえって言ってんだろ!」
街を行く大柄の吸血鬼。手に花びらをたっぷり詰めた大きなビニール袋を携えている。大ぶりのマントの下には裸の体、股間はビニール袋の花びらと同じピンク色の小さな花が集まり隠されている。彼の名は……
「吸血鬼ゼンラニウム!」
吸血鬼対策課の制服を身に包んだ女性に声をかけられても吸血鬼はひるまない。むしろにこやかに応じている。
「ムン、吸対の少女。息災なようで何より」
「ヒナイチだ。その手にしているものは一体なんだ?」
「これはフレーバーティーの材料だ。今から依頼してきたカフェに届けに行くところだ」
「ゼンラニウムの花を必要とするカフェがあるのか」
驚く少女に吸血鬼は、一緒に行こうとうながす。
カフェの手前でヒナイチは、カフェから出て行く知人男性二人を見かけた。
「あれは……ロナルド、と武々夫か?」
お茶でもしていたのだろうか。気軽に挨拶するのには少し距離があった。
「ムン!花を届けにきたぞ」
「いつもありがとうございます。よろしければケーキなど」
「我は経口の食品は必要としないのだ。よろしければ彼女に」
「私に?!チン!勤務中にケーキを、それも買うのではなくもらうわけには」
日頃ロナルド吸血鬼退治事務所で監視対象の吸血鬼にオヤツをたかってはいるものの、さすがに外では憚られる。恐縮している警察官に柔らかい雰囲気のダンピールの店長は優しく微笑んで返した。
「こちらこそすみません。いつかプライベートなときにいらしていただけたら嬉しいです」
「はい、ぜひ。ステキなカフェですね。……吸血鬼用のケーキなんてあるんですか!」
「はい。できるだけ人間も吸血鬼も食べられるメニューを充実させようと思っておりまして」
ヒナイチの頭の中に日頃美味しいケーキを食べさせてくれる吸血鬼の姿が浮かんだ。近く彼の誕生日があるはずだ。
「吸血鬼の知人の誕生日ケーキを依頼することは可能だろうか」
「もちろんですよ、先ほどもそのようなご依頼を頂戴したばかりです」
「ありがたい。では明日非番なので改めて注文しに参ります」
「こちらこそ嬉しいです。お待ちいたしておりますね」
ダンピールの店長はいかにも心から喜びを感じていますと言わんばかりの満面の笑みで、ヒナイチとゼンラニウムにお辞儀をしていた。
「あれ?ヒナイチじゃん。こんなところで会うなんて」
「それはこちらのセリフだぞロナルド。こんなおしゃれなカフェの前でだなんて」
「ねえそれどういう意味?!」
予約したケーキを引き取りに来たロナルドは、妹のような存在に雑にあしらわれてウェーンとなった。そんなロナルドを放置して、ヒナイチはカフェのテイクアウトカウンターに声をかける。
「すみません、今日の予約のケーキを引き取りに参りました」
「お待ちしておりました。こちらになります。お知り合いの吸血鬼の方にお誕生日おめでとうと」
「伝えておく。ありがとう」
「えっ、ヒナイチ、おまえ……」
ロナルドはその場に固まった。彼女がケーキを買ってまで祝いたい、今日が誕生日の吸血鬼なんて一人しか思い当たらない。そしてその吸血鬼には自分もケーキを注文しているのだ。
「どうしたロナルド。ああ、ここのケーキは人間も吸血鬼も食べられるそうだ。ドラルクは今年も私たちのためのケーキを焼いてくれているんだろうが、いつも人間だけが食べられる味つけにされているから、今年は彼も一緒に食べられたらなと思ってな」
「……えーと、俺もなんだよな、そういうのをさ」
「まさかとは思うが、ロナルドもここで注文を?」
かくして事務所のテーブルの上に、ホールケーキが3つ並ぶこととなった……んじゃないかと想像しました。
おしまい