『その目に射抜かれて』AS▲▲『その目に射抜かれて』A S▲▲
「スペノボ様、わたくしモニター室へ少し行ってまいりますね♪」
何時もの飄々としたお顔で書類の山に囲まれている私にそう告げて部屋を出て行かれました。その言葉を聞いて私は何時もの事なので「どうぞ」と言うと視線を書類の方へ向けた、ドアの閉まる音と同時に手を動かした。
静かな部屋にボールペンの走る音だけが聞こえる。
紙はインクを吸い1枚また1枚と書類の山を切り崩していく。
「ふぅー」
思わず溢れた声、壁にかけられた時計を見た。
(戻ってきませんね⋯どうせサボる口実ならいっその事休憩しますといえばよろしくのに、なんて考えだすと若干の⋯否かなり私ムカついてきました!!そうです!ここはちゃんと注意するべきです!!)
キャスター付きの椅子から勢いよく立ち上がるとそのまま早足でモニター室へ向かった。
深夜の通路をカッカッカッと歩き目的のドアまで来るとノブに手をかけ一気にドアノブを回し一言注意を!!
しようとした手を止めた。
もし、もしも本当にバトルのお勉強をなさっていたのならご迷惑になるのではありませんか?
そんな事を考えてドアノブはそーっと回しゆっくりとドアを開け中を覗いてみた。
部屋の中は電気が付いておらずいくつかあるバトルレコードに録画されている映像を観るモニターが一台だけが映像を映し出している。
そのモニターの前にいる人物は私には気づいていない程集中しているのか画面から外れない。
画面の中のバトルに時折指示を出しているのか唇が動く。
画面を見る目を私は知っている。
初めてあの方のバトルを見たのはクダリ様とのダブルバトルの時でした。
互いを信頼し言わずとも息の合った連携、お二人とも何処か楽しそうなのにその目は目の前の相手を射抜く様な熱い目に私も心が熱くなったのを今でも覚えております。
その目が今モニター画面に向けられている。
私はそっと部屋を出た。
そして今度はゆっくりと書類の待つ部屋へ歩き出した。
「終わったら飲みにでもお誘いしてみましょうか」
つい溢れた声は若干高揚している様でした。
「嬉しいですね、スペノボ様からのお誘い」
不意に耳元で囁く様な声に飛び上がった
「おお!?え?あ!アニノボ様?!うわ!!」
突然の事に驚き前のめりにコケそうになるも
「スペノボ様?!」
腕を掴まれ倒れそうな体をもう片方の腕で支えてもらい大の大人が転ぶのを阻止してもらった。
「あ、ありがとうございます」
体制を立て直そうとする体を包み込む様にぎゅっと抱きしめられた。
「ふがぁ!ア!アニノボ様?!もう大丈夫です!一人で立てますので!」モゴモゴと抱きしめられたまま答える。
「嬉しいですね♪わたくしを心配してきてくださったんですか?それに抱きついてくださるなんて」語尾にハートでも付いている様に笑う貴方に私は
「抱きしめたのは貴方の方では無いですか!!」
と言うのが普段の二人のやりとりですが今この時の私はあの目を見てしまって気持ちが高揚していたのでしょう
「そうですね、こうして貴方に抱きしめられるのは嫌い、では無いですよ、もうすぐ退勤時間ですね飲みに行きますか?」
「おや?フフッ行きましょう、行きましょう、わたくし雰囲気のいいお店を見つけましたので是非スペノボ様行きましょう」
楽しそうに笑う貴方を見ている私の表情はきっと⋯
end