桜花、巡り逢ひて『次の春、桜が咲く頃、必ずお前を迎えに来る。だからもう少しだけ辛抱してくれ』
『……絶対だよ、約束』
『ああ、約束だ。何があっても、だ。だからほら__』
どこからか、懐かしいような声が聞こえる。あれ、俺、大事なこと、忘れてる気がする。なんだっけ。
「あ……、行かなきゃ」
◈___
宵の帳が降り、赤い提灯が華やかに灯った花街に、今夜も賑わいが訪れた。
「ちょいとそこの黒髪のお兄さん、うちのところへいらっしゃいな」
「綺麗なお顔を見せて頂戴よ」
煌びやかな着物や簪を身に纏った花魁達が甘い声で誘う。そんな声を一瞥してにこり、と少し微笑みかけてやればそこらできゃあ、なんて歓声が上がる。
歓声を受けてもなお憂いを帯びたような表情の主、ヴォックスは、はぁ、と1つ大きなため息をついた。遊廓なんぞに来ていても、このところなんとも気分が晴れない。
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