大概理性が緩い自覚はある。 しっとりと汗ばんでいる肌の上を濡れたタオルが滑っていく。火照っている身体から熱ごと拭われながら、英司はタオル生地の感触に身じろいだ。喉から少し悩ましい声がこぼれてしまうが抑えたい理性より億劫さが勝る。
「すまん、痛かったか」
自分の体をこうした張本人が気遣わしげに英司の顔を覗き込む。いいえ、だいじょうぶですと掠れた声で答える。舌が上手く回らない。そうか、と言うと政はそのまま後処理を再開させた。
明日、いや日付がもう変わっているから今日か。今日は二人揃って休みである。ここ最近政のアルバイトと本業が鮨詰めになっていた上、英司も大口の取引があり家の中ですらあまり会えなかったのだ。時折、政が通り魔のように口付けて行くが逆に接触らしい接触はそれだけで、仕事の内容だけに全て終わるまでお互い話すこともできなかった。それが全て片付いたのが昨日の話で、英司も政も早い話が限界だったのだ。求めたのはどちらから、等ではない。二人で飯を食らい烏の行水よろしくろくに湯船で温まりもせず、かなり早い時間からタオルだけ巻いた姿でベッドに縺れ込んだ。政はいつも以上にねちっこかったし、挿入してからは激しかった。英司も声を我慢せず、またコンドームの箱を途中でベッドから遠い場所へ放り投げそのまま寄越せと強請った。お互いが己の要求を投げつけ、お互いの要求を全て受け入れていた。
そんなことをしたものだから、英司は立つ事はおろか身じろぐ事もできない。そうなると政は上機嫌で英司に世話を焼き始めるのだ。
一体、あれだけ腰を振っておいて何処にそんな体力が残っているんだか。まだ少し溶けている頭でそんな無粋なことを考えた。普段好き好んで頭に詰めれるだけ詰めている知識なんてものは、事後ろくに出てこない。ストレートに思ったことが口からついて出る。普段なら口が滑った、とも思うのだろう。何度も繰り返すが現在の英司は少々理性が外れている。そこまで思い至らない。
政も政で、英司がそう言う状態になっているのでその言葉に気分を害することはない。寧ろ、久々に見たこの英司が可愛くて仕方ない。口の端が緩んだ気がしたし、気のせいではなく本当に緩んだ顔になっていた。
「まあ、負担をかけて申し訳ないとは思ってる」
「そうじゃなくてですね、いっしょにやすみましょうってはなしをしているんですよ」
少しむっとした顔で、舌足らずに、支離滅裂に要求してくる。怠いのだろう、腕を伸ばしてくることはないのだが、タオルを握る手に自分の手を這わせてきている。どうやら政の腕を引っ張りたいらしい。
そんなに可愛い真似をされたら、もう一度、今度こそ抱き潰してしまいそうだ。
一瞬凶悪な欲求に呑まれかける。だが、これ以上無体を働きたくないのも本当なので自制する。
「もう少し綺麗にしたら休むから」
「……いまからは、だめなんですかね」
おれがさそってるのに。
不機嫌そうな表情から、少し落ち込んだものに変わってきた英司に政は苦笑しながら参りました、と両手を上げる。
最低限、英司が後で辛くならない分だけ急いで片付けて同じ布団に潜り込む。嬉しそうに擦り寄ってきた英司を抱き締めながらキスをする。
戯れに触れて、じゃれて、そして眠る。
明日は二人でうんとだらしなく過ごそうか。