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    去年の今頃に卒論出したテンションでそのまま学校帰りに島行ってノリと勢いで書いた封神です

    冬の青の島で「ここは静かで綺麗だね」遠くの海を眺めながらあの忌々しいハンターの弟が呟く。
    早く昴流を探さなければならないのにハンターの弟、封真が一行に自分を離さない。
    今すぐ顔を引き裂いて無理矢理逃げてしまおうかと身をよじるも背後から両手を塞がれそれも叶わない。
    薄暗い夜明けの港らしき場所には人気はおらず気がつけば薄暗い路地に押し込まれた。
    「なんのつもりだ」
    「強いて言うならここで会ったのも何かの縁、かな」
    「巫山戯るな」
    あの東京という場所からの1件から少しして昴流と共にあの世界を離れ、そしてこの世界の昴流とは違う地点に降り立った。
    原因は不明、だけど幸いにも昴流がこの世界に、近くにいることは分かる事が唯一の救いだった。
    しかしその直後あのハンターの弟が背後からやってきた瞬間その救いも絶望に変わったような感覚がした。


    「離せ」
    「あの子居場所まで連れてってあげようか」
    「どうして知っている」
    「今回の侑子さんの頼まれ物の1つが昴の近くにあってね」

    そのせいであの子、眠っちゃった

    思考回路がこいつを殺すという感覚に支配され衝動のままに爪を伸ばし切りつけようとするも
    腕を背後から押さえつけられ口を塞がれる。
    暫く抵抗するがこんな事をしている暇など無いと諦め力を抜くとあっさりと封真は力を緩めた。

    「あ、やっと諦めてくれた」
    「昴流はどこだ、答えろ」
    「そう急かさないでよ神威、昴流は今この場所から反対方向の港にある宿の一室に寝かせてるよ。海が見える綺麗な場所、ちょっと不便だけどね」
    「……」
    「ああ、でも今行っても起きないよ」


    「……どうすればいい、答えろ」
    「僕の目的の品がこの場所の複数箇所に散らばってるからそれを集めれば目覚めるよ」
    「……忌々しい」
    「そう言わないで、俺としては役得なんだから」
    そう言った封真は俺の手を取り何処から、何時から用意していたのか分からない車に無理矢理押し込んだ。
    封真の隣、ベルトに固定された身体は激しく動かそうとするが動かない。
    「神威、シートベルトしないと危ないから大人しくしてて」
    「なんのつもりだ」
    「手伝ってよ、その方が早く目が覚めるよ?昴流。俺は侑子さんの頼まれ物を集めたい、神威は昴流を目覚めさせたい。一石二鳥だと思わない?協力してよ」
    「……」
    「交渉成立だね、じゃあ出発しようか。あ、これレンタカーだから壊さないでくれると助かるかな。一応魔法具付けて頑丈にはしたけど念の為、ね」


    けたたましい音と共に車が発信する。
    今にも逃げたしたい気持ちは十分にあれど昴流の手がかりが無い以上無闇矢鱈に探しに出るよりも今は従った方が良い。
    何が協力だ、明らかな人質だ。そう思いながらせめてもの抵抗に封真の顔から目を背け広く大きく光る海を眺める。
    ついさっきまで過ごした東京はこんなに綺麗な海所か水槽の飲み水1つで争いが生まれていた居たのにね、と昴流なら言うんだろうなとふと考える。さっさと封真の思惑を達成させて昴流を迎えて次の世界か、別の場所に移動しなければ。

    「次の所に移動しなきゃ、って考えてる?」
    「……」
    「そう怒らないでくれる?俺が虐めてるみたいだからさ」
    「…昴流を人質にしている」
    「人聞き悪いなぁ、協力って言ってよ」

    車は止まらない、ひたすらに海の見える道を走りその近辺には人気は無い。
    あるのは広大な海と山だけで時折船が通る以外に代わり映えのない景色だった。


    暫くして車はある建物の前に到着した、一見街並みが広がる場所だが入口に書かれる数字や案内の人間から建物だろうと検討をつけた。

    「これ着て降りて、神威」
    「必要ない」
    「うん、知ってる。でもこの季節にコートも着ない人間は変に目立つ」

    外観に気を取られていた視界が灰色のコートに覆われる。
    腰のベルトを外し俺の手を引いた封真に車から下ろされ建物内へと足を進めた。

    「大人2枚」
    『かしこまりました』

    建物内はあの東京とは違う街並みが広がっていたが人の気配は見当たらない。恐らく人工的なものだろうと検討をつけ封真を見る。
    ポケットから羅針盤のようなものを取り出した封真はこっちに来てと軽快な声を出した後何かを思い出したかのように俺の手を掴んだ。


    「暴れられて壊されても困るから手はきっちり繋いでおくね」

    指と指を絡み合わせる繋ぎ。
    あの建物で誰かが言っていた所詮恋人繋ぎ。
    それを恋人ではない、ましてや忌々しいハンターの弟たる封真と共に行っている事実に慌てて腕を振りほどこうとするが全く離れない。

    「暴れないで」
    痛みを軽く感じるほど強く握られる。
    そうしている間にも足を止めることは無く少し歩いた長細い建物内に足を踏み入れた時異様な気配に顔をしかめた。

    「あ、やっぱり気づいた」
    「なんだ、これは」
    「侑子さんの頼まれ物の魔法具の欠片だよ、この島に散らばってる。で、それを回収するのが今回の俺の仕事って訳」
    「……欠片か」
    「羽みたい?」

    こちらの心境を読み取ったような笑顔を見せる封真に舌打ちを1つ。


    そして気がつく、人の気配が無さすぎる事に。

    「予想通り、かな。魔法具が作用してるみたいだね」
    「説明しろ」
    「そう急かさないでよ、神威。侑子さん曰く、この魔法具は欠片になって落ちた場所に全てを模倣した全く違う空間を作る。
    そして入れるのは魔力のある人間、そして意志を持った人間ではない魂を宿す者ここまで言ったら神威でも分かるよね?」

    リスクを侵し俺を利用する意味、無意味に塞がれた手、成程、それらが繋がった。
    「空間に入る為に俺を利用した」
    「俺に魔力が無くても適正のある神威と手を繋げは1つにカウントされると思ったけど予想が当たってよかったよ」

    歩き進めた先には小さな机が幾つか並び、真ん中には大きな机が1つ置かれていた。昴流と世界を渡る中で見かけた学校の教室に似ている。


    「昔の小学校って感じだね」
    「…違いが分かるのか」
    「まぁね」

    何処か遠くを見つめる封真を横目に魔法具を見つめる。
    封真が探していた棒状のような物は昴流が1度興味を惹かれていた立体パズルの欠片を模したような姿をしてそこに佇んでいる。
    しかし、あの羽根には遠く及ばないものの、それでも強い魔力を感じた。
    思わず手が伸びる、その瞬間視界が歪み、込み上げる吐き気に空いている片手で口元を覆い、気がつけば身体の上半身から自分のものでは無い熱を感じ取った。

    「『あの魔法具は個体の相性によっては近づくと強い眠気や吐き気を催す者も居るの。人ならざる者は特に強い傾向があるわ』
    って侑子さんが言ってたから神威は触れないでって言おうとしたんだけど…」
    「………これがずっと続くのか」
    「専用のケースに入れたら魔法具の効果は封じ込められるらしいから安心してよ」



    胡散臭い笑みに苛立ちが募る。
    上半身を抱きとめられながら目眩に耐えていると急激に湧き出る外の人の気配や段々と薄れていく不快感に封真が魔法具を回収した事を実感する。
    腕で身体を押しのけ封真から距離を取り手を話そうとするも全く解ける気配は無かった。
    恋人繋ぎから形状は変わったが。

    「離せ」
    「言ったでしょ、暴れないようにって」

    そう言って出口、と言っても入口と同じな場所に足を進める。
    途中、魚に餌をやる人間が居た。餌を求めて彷徨う姿は何処か自分と重なった気がした。


    「ここ、独特の匂いが凄いね」

    そう思わない?と再び手を取られ道なりに歩く。
    着いた先は先程とは打って変わって機械音や車の音が目立つ建物が多く立ち並んでいて、周囲には何やら甘いような塩気のあるような形容しがたい香りが漂い、確かに封真のいう独特の匂いだった。

    「……さっさと済ませる」
    「まぁそう焦らないでよ」

    ヘラヘラとした表情のまま先程同様建物の内部に入る。
    人の気配は全くない嫌な気配だけが漂う辺りを見回しながら顔を顰めると封真は俺の顎を持ち上げ唇に手を添えた。
    顔を勢いよく持ち上げられ視界が封真の瞳と交わる。
    なんのつもりだと問い詰めようと口を開くよりも先に封真の口が開いた。

    「顔色はまだ悪くない、神威は昴流と違って近寄らなきゃ大丈夫みたいだね」


    「離せ」

    繋がれていない残りの手で勢い良く封真の手を払う。
    ヘラヘラと笑みだけを残す封真に舌打ちをしながら爪を伸ばしさっさと向かえと殺気を出すと笑顔を崩さないまま封真は奥へと足を進めた。

    「みつけた」
    「………」
    「神威?」
    「……さっさと行くぞ」

    胸の内から湧き出る不快感に空いている手を強く握ってしまう。
    先程感じた強烈な吐き気や目眩は起こらないものの少しばかり近いような不快感が襲いかかるがそれも直ぐに消え去り封真が魔法具を回収したのだと悟った。

    「顔色、ちょっと悪いね」
    「…誰のせいだと」
    「さぁね」



    こっちおいでと無理矢理に手を引かれる。最早抵抗すれば無駄な労力を使用するのは明白で、癪だが大人しく付き従うことにした。
    昴流の事もあると自分に言い聞かせるが、無論納得はするはずもない。
    全てが終わったらその顔に傷の一つや二つ再び付けて二度と会わない事を願いながら次の世界へ行ってやると心に決める。
    そう、思考回路を飛ばしていると不意に口元にひやりとしたものが触れ思わず爪が伸びる。
    そのまま跳ね除けようと攻撃態勢に入ろうとする自分の手はいつの間にか解かれた封真の片手に遮られ、そのまま人気のない裏手に背中を押し付けられた。
    反対の手には何やら茶色い物体が1つ、恐らく先程の冷たく甘いもの。

    「暴れないでよ、神威」
    「誰のせいだと思っているんだ」
    「はは、これ美味しかったから神威にも食べて欲しくて」

    ここの名産品使ったお菓子なんだって。
    悪びれもなく発せられる言葉に思わず舌打ちが漏れる。


    唇から温度が奪われ口内には甘さと塩気が混ざった味がする。
    目立つからとコートを羽織らされたのにこの寒空の中こんなに冷たい菓子を手に持つのは良いのかと理不尽さに問い詰めたくなるのを抑え一向に下ろされない菓子を受け取る。
    ここで受け取らなかったら後々面倒だと感じ取った為だ。
    意味深な笑みだけを浮かべながらこちらを見る封真に居心地の悪さを感じ、渋々1口舐めるとやはり塩気と甘さが目立つ。

    「……」
    「美味しい?」
    「……別に」

    なら、もう一口食べても良いよね?
    その声が聞こえた瞬間手を無理矢理動かされ菓子の半分が封真の口内に押し込まれた。

    「やっぱり買ってよかった」
    「自分のを買えばいいだろう」
    「神威に食べさせて貰った方が美味しいから」



    悪びれも無く放たれる言葉にやはり出てくるのは舌打ちだけで、液状に垂れる菓子を下から上に掬い舐め取りながら食べ進めていくと封真の大きなため息と共に車が動いた。

    「神威、俺の前以外でそれ食べないでね」
    「……いきなりなんだ」
    「んー俺以外が見たら殺しちゃいそうというか…」

    訳が分からない、昴流と合流できたら聞いてみるかと記憶しながら食べ終わる。
    昴流が見たら怒りそうだなと思いながら手を舐めていると誘ってるわけじゃ無いならこれ使って拭いて欲しいなと笑顔で濡れた紙を渡された。



    車内が無言に包まれながら到着した場所は沢山の樹木がひしめき合う公園だった。

    「凄い数の木だね」
    「……見ればわかる」
    「沢山の木に広い海、本当にあの東京とは大違いだ」

    そう思わない?と笑顔で言い放つ封真に何処か薄ら寒さを感じ、無言で視線を横に向けるとふと白い風車の立つ建物が見えた。

    「あそこに行く前に少し寄りたい場所があるから来て」

    その言葉に次の目的地があそこにあると悟り走り出そうとするのを封真に抱きとめられる。
    片腕で動きを封じられそのまま腰に手を当てられ無理矢理に歩幅を合わせて歩かされる。
    そして少し歩いた生い茂る木の一角に身体を押し付けられ見上げると満面の笑みを浮かべながら俺を見下ろす封真で視界が覆われた

    「次、俺の傍から離れたら何するか分からないからやめてね、神威」


    昴流が今この男の手の内にある事を忘れかけていた自分の腕に爪を立てる。
    今日という日だけは吸血鬼の治癒能力をこの身に宿す自分に苛立ちを感じた。

    「……」
    「こっち来て」

    なすがままに手を引かれた場所土産物のような商品がひしめき合う場所で、封真が商品を手に取り残味する傍らで無言を貫く。
    気になるのあったら言ってね、と言われるものの全てが同じようなものに見え昴流ならどういう風に興味を示して顔に出るのかばかりを考えてしまい唐突に昴流が東京で眠ってしまっていた、自分の隣に居なかったあの時間を思い出して何処か胸が凍るような思いがした。

    「昴流の事考えてる?」
    「…だったらどうする」
    「妬いちゃうなぁ、今は俺とデート中なのに」

    再び腰を抱かれ、これ後で食べようねとひとつの木の実が入った瓶を手に取った封真の唇が額に押し当てられる。



    頬を赤らめる店員にこの子食わず嫌いなんだ、他にオススメ無いかな?と訪ねる封真の持つ袋に少しばかり商品が増え、そのまま荷物を手に提げたまま俺と封真は風車へと足を進めた。

    「見て神威、この葉っぱだけハート形だよ」

    封真が迷わず手で葉を毟る。唯の葉だというのに何故そうも嬉しそうに笑えるのか理解が出来ない。

    「昴流ならここではしゃいでそう、って思ってない?」

    こちらを見透かした顔で封真が問掛ける。
    引き込まれるような瞳をこちらに向けながら許可も無しに俺の手を取る姿は最早、あたかも何年も共に過ごしていたと言わんばかりの態度で、それに抵抗しない自分自身もあたかもその通りだと肯定するような態度であったようだと今更ながら考えながらなすがままに風車へと足を進めた。



    「回収も終わったしとりあえず宿行こうか」

    収まらない吐き気にえずきながら屈辱的ではあるが何とか封真に支えられながら車の中に戻る。
    空間に入った瞬間今までの比では無いくらいに嫌な気配を感じた。魔法具が自分の足元に転がっていたからだった。
    慌てた様子の封真が即座に魔法具を回収したもののしばらく吐き気は収まらず少しばかり風車の傍で体調を整えようとしたが、結局ほんの少しだけマシになったような気がしただけで封真の肩に支えられて車の中に乗り込むのが精一杯であった。

    「少し寝てて、ちょっとはマシになると思うよ」
    「断る…」
    「だよねー」
    じゃあ少しだけでも目つぶっててとタオルを渡される。
    視界が遮断されほんの少しだけマシになったが改めてなんてものを此奴に依頼したのだと今は居ないあの次元の魔女に悪態をつきたくなる。


    「それにしても、やっぱり侑子さんが希望するだけあってなかなか強力な魔法具だね。神威がこんなに弱るなんて」

    運転席でハンドルを握り前を見つめながらなんて事ないように封真が呟く姿に本気で殺意が湧く。思うように動かない身体を心底恨めしく思いながら舌打ちをして早く宿に着くように柄にもなく祈る。
    昴流がそこにいる予感が何処と無くして1秒でも早く顔を見たいと願いながら体調の回復に専念していると、着いたよという声とともに扉が空き従業員らしき人間の声と混ざり合う。
    外の空気を吸い込むと幾分か体調は元に戻っていたようで何事も無く、封真の手も借りずに立ち上がると既に部屋が用意されているのか従業員に一瞥もせず進んでいく封真に連れられた。

    「昴流!!」

    ベッドの上で眠る昴流に思わず駆け寄る。仰向けで、まるで東京の地下の貯水槽に眠っていた時のように眉ひとつ動かさない昴流の脈を取る。


    口元に耳を当てると薄ら呼吸音が聞こえ安堵から力が抜けた。

    「昴流…」
    「…神威?」
    「…起きてたのか」
    「今…でも凄く…眠くて」
    「…寝ていろ」
    「でも…」
    「…大丈夫だ」
    「…うん…おやすみ…」

    再び眠りにつく昴流を眺めその頭を軽く撫でる。

    「…残りの魔法具の在処を教えろ」
    「今日は無理」
    「何故」
    「満潮で道が沈んでる。暗いから明日の引き潮の時に渡らなきゃ」




    今日は諦めてと笑顔で封真が言い放つ。
    昴流を一刻でも目覚めさせたいと思うが外は闇に覆われ、封真の言葉から海が関係している以上ここで動くのは得策では無いと悟り傍にあった椅子に腰掛ける。
    封真がとりあえずこれに着替えてと布らしきものを渡されるがこれをどうしろと目線で訴えかけると納得したように封真が布を受け取った。

    「とりあえずコートと服脱いで」

    なんてことないように言い放つ目の前の男に爪が伸びる。
    何を言ってるんだと問い掛け直したいが相変わらず胡散臭い笑みを浮かべニコニコと表情を崩さない。

    「断る」
    「さすがにその服の上からこれはね」
    「別に構わない」
    「俺が目立つから困るよ」

    大人しくしててと隣に置かれたベッドに倒される。手足をもがき爪を伸ばして切りつけようとするも腕を押さえつけられ頬にかすり傷をおわせるので精一杯だ。

    「俺が脱がすか、自分で脱ぐかどっちか選んで」
    「断る!!」
    「ここで暴れられたら俺、兄さんに弁償代貸してもらわなきゃならないけど?」

    今バレるの困るでしょ?と何ともないような顔で言うこの男に舌を噛みちぎってやろうかとすら考える。
    だが封真はそれを見透かしたように指を口の中に入れ、時間切れと俺の服の裾に手をかけた。

    「これどうやって脱ぐんだろ」
    「はな…せ!!」
    「あ、ここから脱ぐのか」
    「やめ…ろ!!」
    「神威ってやっぱり肌白いね、昴流もだし吸血鬼ってみんなやっぱり肌白いのかな?今度兄さんに聞いてみよ」
    「ふざけ…るな!!!」


    手足を動かす衝動でベッドがギシギシと音を立てる。
    ちょっと大人しくしててと両手を圧迫していた膝を片手に持ち替え暴れる両足を両膝で押さえつけられる。口に入れられた手は軽く紙で拭き取られそのままなすがままに服を剥ぎ取られた。

    「はい、とりあえず脱げたから次はこれに腕を通して」

    身体を無理矢理起こされ布に腕を通させられる。そのまま背後から抱きつかれる形で紐で布を固定させられとりあえず蹴りくらいは入れても良いと足を振りかざすが軽くかわされ、神威と俺の寝床はこっちと身体を抱き上げられ隣の部屋のベッドに降ろされた。

    「俺も着替えるね、ああ、ここの宿空調設備きちんとしてるみたいだから薄着でも大丈夫だよ」

    予想以上の体力の消耗に疲弊する。身体的では無くて精神的な疲労が身体を襲う。


    こいつは何を考えているんだと今日1日の間に何度感じたか分からない。
    この1件が終わったら絶対殺すとこれ程までに人間に対して心に誓った1日は無かった程自分の何かが侵される感覚に気持ち悪さを覚える。
    その元凶たる本人は何事も無かったように自分と同じ衣服を身にまとい、とりあえず食事に行こうよとまたしても半ば無理矢理に手を引き部屋を後にした。

    「やっとまともなご飯食べれるね」

    ほら、しばらくあの蛇みたいなやつの肉とかばっかりだったからさ、等と平然と言いながら目の前の米を口に放り込む。
    最初は食べないと抵抗しようとしたがニコニコと微笑む目が今すぐ食べろと自分を追い立てるようでどこか居心地の悪さを感じながら同じように適当に目に付いた魚を口に放り込んだ。

    「あ、神威お箸使えるんだ」




    もしかしてあの都庁の奴らに習ったの?なんて聞く封真の手元は都庁の面々のこの箸の使い方を自分に教えたものと同じよう、いやもしかするとそれ以上かもしれない捌き方で箸が置かれ此奴がそれだけの物を求められる場所に居たのかを物語るようであった。

    「……お前も使えるだろ」
    「まぁ、侑子さんの頼まれ物手に入れる時にお偉いさんと食事したりする時も多いからねぇ」

    その国々で作法覚え直すの結構しんどいんだよ?なんて溜息をつく封真を柄にもなく見つめる。
    あの忌々しいハンターの弟で、都庁と敵対するタワーのリーダーで、今は……今は何だ?と自分に問いかける。

    「神威って1口小さいよね」

    前言撤回、此奴は昴流に睨まれそうな人種だ。



    此奴のような発言をした人間はどうも昴流は気に食わないようで何時も昴流が睨んでいたし血を吸おうとすると「ダメ!!!神威!!近づいちゃダメ!!」といつもの隙だらけのような顔を一変させる。何が基準か俺には分からないがとりあえず昴流が気に入らないのならそれに従おうといつも放っていた、何処と無く目の前のこいつの発言に似ている。

    「神威、今失礼な事考えてる?」
    「…お前のような奴が近づいた時昴流が焦った顔をしたのを思い出しただけだ」
    「変質者と一緒にされるのは十分失礼な気もするけどね」
    「…へんしつ…しゃ?」
    「後で教えてあげようか?」

    本能的に断る、いらないと早口で捲し立てる。何故だか分からないが何処と無く悪寒がする。
    あの魔法具に近づいた時とはまた違った感覚にやはりこの国に降り立ったのは厄災かと考え込んだ。

    「神威、意外と食べるんだね」
    「……別に」



    既に日が落ち暗闇となった部屋を眺める。俺はちょっとお風呂入ってくるけど神威は部屋から出ないでねと笑顔で言い放ち鍵を取られやることも無く昴流を眺める。
    明日、時間になればさっさと残りの魔法具を回収して、国を出て、先程の出来事を昴流に伝えようと心に決めながら遠くで響く波の音に耳を傾けた。
    あの東京とは何もかもが違う、水が潤い、食が満たされ、住居も数多に存在する平和な国。
    幾つもの国を回っているとこの国のように正反対な場所に出ることもあって、それを見るたび昴流はどこか悲しそうな顔をしていた。
    まるで自分の事のように他人に胸を痛める奴で、自分にできることをどこかで探そうとするやつだった。

    「…早く、目覚めさせる」

    眠り続けた昴流を待つ日々が脳裏に浮かぶ。
    今回は魔法具を回収すれば良いだけだ、あの羽の時のように永遠と待つような事にはならない。そう自分に言い聞かせ再び外の海に耳を傾けた。



    「おはよう、良く眠れた?」

    朝日が差し込み窓の外から1面の海が見える朝、身体を不意に揺すられ反射的に攻撃を仕掛ける。
    蹴りをあっさりと躱しよく眠れたか自分に問いかける目の前の男を一瞥した後、即座に布を床に落とし着慣れた黒い衣服を身に纏う。
    そのまま手を引かれ昨夜と同じ場所で用意された朝食に口をつける。
    肉や卵や魚等、多数の食事に口をつけながら昨夜もずっと眠り続けた昴流の顔を思い出して早くこの場を立ち去らねばという衝動に駆られて手を進めていると、ふとこちらを見つめていた封真が口を開いた。

    「急いで食べても干潮までまだ時間あるから意味ないよ」

    せっかちだなぁと呟く封真を横目にほんの少しだけ食べるペースを抑える。
    1秒でも早く昴流の元へ行きたいが食事は味わって食べろと昴流に言われたからだと自分に言い聞かせながら、汁物の椀に手をつけた。


    封真が車を走らせ到着したのは宿からすぐ側の小島が見える道のような場所だった。
    早朝で、今は寒い気候も相まって人が少なく辺りを見回しても自分達以外誰も居なかった。

    「あこその島に魔法具があるよ」

    走り出したい、早く昴流を目覚めさせたい、その想いが己の足を目的地へと進める。
    1歩ずつ1歩ずつ、封真に手を引かれ歩いているとふと封真がこちらを見て笑みをひとつ。

    「ここ、恋人の聖地って言われてるんだってさ。俺達にピッタリだと思わない?」
    「無駄口を叩くな、さっさと歩け」

    予想以上の下らなさに蹴りをひとつ入れ足を進める。
    丁度小島壁付近に足を踏み入れた時、あの既に何度も味わった不快感を感じ、魔法具の空間の中に入った事を認識した。



    「神威、ちょっと体調悪いけど頑張って耐えてくれる?」

    魔法具、あっちの立入禁止区域にあるみたいだから。
    あっけらかんと封真が発言した内容に少しばかり戸惑いが顔に現れたと認識した時には既に、俺の体が、足が、胴が、手が全て宙に浮き、目の前にはニコニコこちらを見る封真だけが映っていた。

    「ちょっと足場悪いからしばらく大人しくしてて」

    頬に、体に潮風が叩きつけられる。それが今、目の前の男に抱えられている現実を突きつけられるようだった。

    「遠目から見ただけだけど本当に足場悪いね」

    最早慣れ親しんだ感覚に座り込みそうになるのを封真に支えられる。




    腰をひねり逃げ出そうとしたが笑顔で封じられた。

    「下、海で濡れてるから座るのはちょっと、ね」

    勘弁してよと笑みを零しながら封真は俺を不安定な岩の上に下ろす。

    「これで全部、かな」

    その言葉を聞いた瞬間昴流の顔が頭に思い浮かんだ。
    これで全て、という事は昴流が眠り続ける原因が全て無くなったという事だ。
    ならば、早く昴流の元へ行かなければと考える前に足が動いた瞬間

    「次は何するか分かんないって言ったよね?神威」

    四肢を岩に押し付けられ唇に柔らかい何かが当てられた


    「ここ立ち入り禁止だから見つかる心配無いね」

    ある意味ラッキーかな?なんて呑気に話す封真を突き飛ばす。
    唇に生ぬるい感覚が残って思わず服の袖で何度も擦った。

    「…殺す!」
    「逃げようとする神威が悪いんだよ?」
    「用は全て済んだ!ここにいる意味も無いだろう!」
    「だからって逃げようとした理由にはならないでしょ」

    俺が良いって言ってないんだからど手を岩壁に縛るように押し付けられながら両足の間に封真の足が差し込まれより距離が近くなる。
    再び唇が塞がれ舌を絡め取られ噛みちぎってやろうとするも残りの手で顎を固定され歯を立てることすら叶わなかった。
    波の音に混ざって水音が反響し唾液が足場に滴り落ちる。
    封真の唇が離れたのは遠くから人の声が聞こえ始めた頃だった。



    「昴流!」
    「おはよう、神威」

    昴流はホテルの窓から海を眺め静かに、呟くように微笑みかける、思わず駆け寄り体調に異常が無いか確認していると昴流の柔らかな手が頬に触れた。

    「心配かけてごめんね」
    「…気にするな」
    「ずっと神威の事待たせてたのにまた眠っちゃったから…」
    「…あの羽の時よりも…ずっとマシだ」
    「神威…」
    「本当に仲がいいね」

    おはよう昴流と声がする方を向けば壁に重心を預け立つ封真が居て、その手の中には特殊な入れ物に入れられた魔法具を持っていた。

    「俺の用事はこれで終わりだけど、昴流と神威は次の世界行くの?」
    「当たり前だ、昴流が目覚めたならここにいる意味も無い」


    「つれないなぁ、あんな事した仲なのに」

    それに裸だって見た中でしょ?そう言いながら封真がそっと自身の唇を撫でた瞬間俺の視界の全てが昴流に染った。

    「神威に何をしたんですか!!!」
    「んーちょっと協力して貰っただけだよ?色々と」

    昴流が爪をのばしとてつもない剣幕で封真と対峙する。
    温厚な昴流が激情するという滅多に見ない姿にほんの少し戸惑いながらもその腕から抜け出そうと身をよじると昴流の腕に更に力が込められた。

    「昴流と仲がいいのは微笑ましいけどちょっと妬いちゃうなぁ、さっきのお仕置もう1回したいけど持つかな?腰砕けちゃった?」
    「今すぐ黙って下さい」
    「昴流って神威が絡んだらそんな顔も出来るんだ」



    今度星史郎兄さんに教えてあげようかなと笑いながら首筋に伸ばされた爪を軽々と避ける封真と滅多に見ない程の昴流の激情具合に先程まで己が感じていた目の前の男を殺したいという欲がここで騒ぎになってあのハンターに勘づかれる前に昴流を連れて逃げなければという思考回路に塗りつぶされていく。

    『神威さっきから殺す殺すって言ってるけど今ここで俺を殺したら星史郎兄さん来ちゃうかもしれないけど良いの?昴流が目覚めてる保証まだ無いのに』

    その言葉に踊らされ手出ししなかった事を少しばかり悔やみながら今は昴流を止めることが先だと再び走り出そうとする昴流の背後に抱きつく。
    目を見開いてなんでと呟くよう昴流の耳元で早く次の世界に行きたいと囁くと昴流の目から怒りが消えた。

    「そうだね…神威はずっと頑張ってくれたんだよね…早く行こう」



    昴流の身体が再び封真の方へ向く、先程までのやり取りなど全くなかったかのように昴流と自分のコートを渡す封真を一瞥し奪い取るようにコートを受け取ると素早い動きで先程まで俺が着ていた封真のコートを剥ぎ取りソファへと置いた。

    「……神威に手を出した貴方を許す事はしません…ですが神威をこれ以上悲しませたく無いのとあの場所で眠ってしまった僕を宿まで運んで下さった恩もあります……今回は見逃しますが次はありません…」
    「じゃあ次はきちんと許可を取らないとね」

    昴流が1呼吸、ため息を着くように息を吐き行こう、神威と呟く。
    転移を発動させまたはぐれては堪らないと昴流の肩を抱いた瞬間空いた俺の手に何か袋のようなものが握らされた。

    「お土産、オリーブ漬けとオリーブのチョコレートだって」

    次会った時に感想聞かせてよ神威、そのつぶやきを最後に封真の姿は見えなくなった。
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