かんゆば 口づけにまぎれて艶やかな黒髪に指を絡ませると、まだ少し濡れていた。どうせ汗をかいてまたシャワーを浴びるんだし、と言っても毎度きちんとドライヤーをあてる男にしては珍しい。そしていつもと違う湿った指通りに、今日一日抱いていた違和感が確信に変わる。
この人、なにかずっと考えごとをしている! 半年ぶりの恋人(つまり神田のこと)との再会、そして逢瀬だというのに!
ありったけの慕情を込めて、会えない間も片時だってあなたを想わないことなんてありませんでしたよと思い知らせるような、それでいて謙虚で慎ましい感じでいくつも落とした口づけの幾つかに、弓場も口づけを返して応える。ちゅ、ちゅ、と小鳥が木の実を啄むような可愛いキスだった。しかし、どこかぼやっとしている。すう、と指先から血の気が引いていくような感覚に襲われる。
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