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    ゆきこおり

    @yukikori_
    レオいず固定/KnightsP

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    ゆきこおり

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    タイトル決まらない…
    パロ。
    設定とかはまたそのうちに。
    レオいずです。
    ご都合主義上等

    この世界には数多の種族が存在する。
    その中でも希少種とされている種族がいくつかある。
    海底深くに独自の文化を築き、深い海の底で暮らす海人。もちろん地上でも暮らせる彼らではあるが主体となる生活圏が海の底のため、陸上で見かけることが少ない。
    時には人の運命すら左右させる程の力を持つ魔法族。魔力持ちは種族間問わず多数存在するが世界の理を統べて捻じ曲げる力を持つ彼らは種を残すことに頓着しないが故にゆっくりとその数を減らし続けている。
    そして、取り分けて希少とされ、伝説上の存在とまで言われる胡蝶。 魔法族よりも強い魔力を持ち、生まれいずる全ての胡蝶は一様に美しく、他種族を魅了する。
    透き通るような美しい歌声に天上の舞、花が綻ぶような微笑みは誰をも虜にする。圧倒的に美しく強い種族である反面、魔力以外の強さはほぼ無く魔力を封じられてしまえば人間の赤子を捉えるよりも簡単。その昔、身勝手で傲慢な人間により、胡蝶はこの世界から姿を消した。



    「――なんて文献には書いてあったけどこれ、美化されすぎだよなぁ」

    ぱたん、と軽い音を立てて本を閉じたレオはそれをローテーブルの上へ置いてから部屋の奥にあるベッドへと視線を向ける。
    潜り込んだ布団から出ることなく、また答えもかえって来ないものの、微かに身じろいだ気配により自分の声が聞こえていることを悟ればレオは薄く口元を緩ませる。ゆっくりとベッドに近付けばまるで来ることを拒むかのようにレオの足元に氷の礫が数発打ち込まれた。
    そこを境目と判断し足を止めたレオは改めてベッドへと視線を向ける。本来の使用者であるレオを差し置いて占拠しているのは先日レオが拾ってきた――と言えばまだ聞こえがいいが――男だ。 彼を邸に、引いては部屋に入れることを相当渋った部下がいるのを知ってはいるもののレオに逆らえる者などこの邸内にはいなかった。

    「まだ手を焼いてるの、月ぴ~」

    軽いノックの音がすると同時に部屋の主の返答も待たずに訪問者は部屋の中へと入る。

    「そう言ってくれるなよ、リッツ。これでも1ヶ月前より近付けたんだぞ~?」
    「ふぅん?まぁいいんだけどさ。それより、みかりんが来てるんだけど。お使いって」

    部屋に通す?と漆黒の髪を揺らして首を傾げながら問い掛けたのはレオの腹心の一人でもある男。本来ならばレオの腹心になるような地位の男では無いにも関わらず彼に従うのはある種での反抗期なのだろう。

    「いや…応接室でいいよ。確かシュウが今度の夜会用の衣装がどうとか言ってたやつだろ?どうせ前と変わらんと思うけど」

    ちらりとベッドに視線を向けてからレオは返事を返す。了承したというように軽く手を振ってから凛月は部屋を後にする。他人を入れるにはあまりにも警戒心の強い男を抱え込んでいるなと頭の片隅で思いつつ、ベッドに背を向ければソファに投げおいたままの上着を手に取りそれに袖を通す。解いたままの肩に着くほどの長さの髪をテーブルに置いたままのリボンで雑に縛りひとつに纏めてから改めてベッドへと振り返る。
    レオと布団の中の男の二人きりの空間。漸くその状況で多少の身動ぎをしてくれるようになった。流石に命の危険性だけは本能的に理解しているのか、レオと二人きりならば水分だけでも口にしてくれるようになった。
    それでも一定以上縮まらない距離はレオにとってはもどかしくもある。無理矢理縮めれば命取りなのを理解しているため下手に手出しをしないでいるだけで。
    小さく息を吐き出してレオは指先でひとつ、空間をなぞるように円を描く。レオが赦したもの以外が、部屋の中を認識出来ないように、認識阻害の魔法を部屋全体へとかけたのだ。

    「…そんなにかからないで戻ると思う。けどおまえなら逃げられるだけの時間はあると思うよ。ただ認識阻害はこの部屋にしかかかってない。部屋を出れば格好の的になるのは覚悟していけよ」

    返事など期待しないでいつものようにベッドに向かって声をかけてから踵を返し、部屋を出ようとした瞬間、レオの背中に衝撃が走る。
    痛みはない、ただ何かがぶつかった、という感覚。
    驚いて振り返れば、布団から起き上がり端正な顔立ちを歪ませて彼なりに精一杯の力で投げたらしいクッションがレオの足元に落ちていた。それは、ベッドの中の男がこの邸に来て初めて見せた行為だった。

    「おま、え…」
    「いっつもそう!自由に見せかけて自由じゃない!あんたも他の奴らと何も変わらないただの人間ってことじゃん!それならお望み通り逃げてあげる!」

    レオが何かを言う前に一頻り声を荒らげて言葉を並べた後、その男は軽やかな足取りでベッドの傍の窓へと歩み寄れば、美しい笑みを湛えて窓から飛び降りていった。 一連を呆然と眺めていたレオではあるものの、男が窓より飛び降りた事に我に返れば弾かれたように走り出す。
    本邸ではなくタウンハウスにいる時期でよかったと内心思いつつもそれなりの有力者である自身の邸の広さは重々理解している。それと同時にあの男を狙う人間の多さも。追いつくまでどうか無事でいて、と願うレオの心持ちとは裏腹に、レオの元を逃げ出したその男は軽やかな足取りで宙を舞う様に屋根伝いにレオの邸から離れていく。
    幸い人々の頭上を越えているためにあまりに目についてはいないようではあるもののそこはそれ。 彼の行く手を阻むように現れたのは獣人だった。それもひと目で危険と分かる様相の獣人達だ。一瞬怯んだように脚を止めるも男は元来の気性の強さも相まって切れ長の美しい瞳で獣人達を睨む。

    「…なぁに、あんた達。そこどいてよね。俺、人探してて忙しいの」
    「絶滅した、なんて聞いてたが生き残りかぁ?それも純血っぽいな?ビスクドールみてぇなツラしてよぉ。綺麗なじょーちゃん?」

    噛み合わない話に苛立ちを隠さないまま大袈裟なまでに溜息を吐き出して、男は獣人を見渡す。

    「…俺は男だからねぇ?ほら、分かったらさっさとどいて」
    「男も女も関係ねぇよ、胡蝶なら高く売れる。傷つかず死にさえしなけりゃオレらが楽しんだ後でも、オレたちが一生遊んで暮らせる金が手に入る。侯爵だの伯爵だのなんて目じゃねぇぜ!」
    「…!触るなっ!」

    リーダー格の獣人の男の言葉にぞくりと身を震わせたのも束の間、いつの間にか己を囲む獣人たちに胡蝶、と呼ばれた男は身を震わせる。
    獣人達が持つのは小ナイフや拳銃などの物理的な武器と同時に何名かは僅かでも魔力があるのか魔石を持っている者もいる。魔法を使えば負けないという自負はあるものの下手に強い魔力を使えば周囲に自身の存在を教えることになる。一瞬の迷いが、判断を鈍らせた。

    「――っ!?」

    項に衝撃を覚えると同時に胡蝶の男は意識を手放した。


    頬を叩く冷たい雫に鬱陶しさを覚えて胡蝶の男が目を覚ましたのはあの出来事から数時間後。既に外はすっかり暗く夜の帳が降りた頃だった。しかし胡蝶の男がそれを知ることは無い。両手は手枷で繋がれ、足首にはそれぞれ重りの着いた足枷が別々についた状態で固い土の上に転がされていた。洞窟の中なのか、薄暗い周囲は微かな蝋燭の炎で照らされているだけに過ぎず外など到底見えるものではなかった。逃げなくては、と悟るも手枷も足枷も外れなかった。それどころか魔法を使おうとしても使えない事に胡蝶の男の焦りは強まる。 足か手か分からないが確実に魔力封じがされている。下卑た成金上がりの人間に捉えられた時と同じだと理解すると同時に絶望が襲う。恐らくこの洞窟は獣人たちの住処。 そして囚われた自分は慰みものにされた挙句、こいつらが飽きたら売り払われるのだ。自分たちの仲間が、祖先が辿ってきた歴史であり、自身がこれから辿る未来。想像するだけで血の気が失せると思うものの、逃げ出す術の無い自身に悔しさから唇を思い切り噛み締める。

    「随分大人しくなったじゃねぇか。魔力使えなきゃ弱っちぃもんなぁ?その美貌で弱っちぃなんざ、喰ってくれっていってるみたいなもんだろ」

    声の方へ視線を向ければ先程の獣人達の姿。リーダー格の男の浮かべる笑みはより下卑たもので、嫌でも視界に入る男の下半身は期待に膨らんでいるのが手に取るようにわかる。 異種族との交わりが自身に及ぼす危険性を理解している胡蝶の男は屈しないとばかりに目の前の獣人の男を睨めつける。 例え何があろうと矜持は折れさせないという強い意志を瞳に宿すもそれすらも獣人の男らにとっては楽しむものでしかない。肩に纏うマントをとめているボタンを獣人の持つ鋭利なナイフで外されて。己の肌を傷付けないようギリギリの強さで服を裂かれれば、透き通るような白い肌が露になる。腰の帯に獣人の男の手がかかったその時だった。一瞬動きが止まったと思うより早く獣人の男の身体がぐらりと揺らぐ。 倒れてくる、そう思うよりも早く獣人の男は胡蝶の男の目の前で横に吹っ飛んでいった。 代わりに落ちる影に誰かと視線上げれば、今しがた仕留めたばかりの獣人の男へまるで凍てつく氷のような冷ややかな翡翠の瞳を向ける、オレンジの髪の人間がそこにはいた。胡蝶の男はその人間を知っている。レオ、と呼ばれていた胡蝶の男を一ヶ月前に下卑た成金貴族の人間の元から攫った、人間。一ヶ月、一度も胡蝶の男に魔力封じをしなかった稀有な人間。そう思考が至った瞬間、胡蝶の男の瞳から次々と涙が溢れる。

    「…おまえなぁ…泣くくらい怖いなら一人で出ていくなよ。どれだけ探したと思ってんだ」
    「な…泣いてないっ!」
    「はいはい…おまえ、結構意地っ張りだな」
    「は!?そんなこと言うためにここに来たわけぇ!?」
    「違うよ。探したんだよ、おまえのこと。おれはおまえを縛る気はないけどさ、世間はそうはいかないだろ。万が一があるのは嫌だから」

    間に合ってよかった、そう小さな声で呟いたレオは柔らかく微笑む。

    「…魔法さえ使えれば…」
    「分かってるよ。でもおまえの魔力はこの近隣じゃ類をみない。使えば即座にバレる。…だから使わなかったんだろ」

    図星をつかれて言葉を失う胡蝶の男とは裏腹に笑みを浮かべたままレオは膝を着いて胡蝶の男の手枷と足枷に順に触れていく。冷ややかな金属のそれは固く胡蝶の男の柔らかな肌に幾度も当たったのだろう、手首と足首は痛々しく赤くなっている。それに一瞬悲しげに眉を下げた後、胡蝶の男が口を開くより早くレオは魔法封じのかかった手枷と足枷を順に外し、全て解錠した時だった。

    「テメェ…なにしやがる…!」

    先程やられたと思った獣人が立ち上がっていた。 睨みつける獣人の瞳は血走り纏う空気は禍々しい。獣人特有のリミッター解除状態…暴走状態だと胡蝶の男が身構える。

    「……なに?まだやりたりないの?」

    胡蝶の男に向ける柔らかな物腰とは正反対の冷ややかな声と、鋭く鋭利な空気を纏いレオは獣人へと視線を向ける。
    暴走状態の獣人に人間が適うはずがない。ましてや、まるでその辺を散歩してます、とでも言うような身軽な格好で武器をひとつも持たないレオが。
    さっきのはたまたまなのだと、自分がレオを守らなくてはと胡蝶の男が覚悟を決めるよりも早くレオが立ち上がる。

    「っ…あんたの敵う相手じゃ…!」
    「そこにいて。魔力封じ外したって言っても万全じゃないだろ?それ、外して二、三日は魔力が全開で使えないはずだから」

    万全ではなくても戦える、そう伝えようとするもレオはそれを制して獣人へと向き直る。

    「丸越の人間がオレに勝てると思うなっ」
    「…イーストエンドの子供ですら知ってるようなことを知らんって…どんだけ田舎からでてきたんだよ?少なくともおれの領地じゃないのは確かだな。ああ、レイたちのところとも違うか。あいつらならこんな躾のできてない野良犬放置なんてしないもんなぁ?」
    「誰が野良犬だっ!」

    煽るような言葉を選んで笑みと共に放つレオとは反対に簡単に怒りのリミッターが振り切れたらしい獣人はレオに向かって魔法を放つ。
    矢の形をした炎。真っ直ぐにレオのことを射抜こうとしたそれは、簡単にレオによって振り払われる。
    それも片手で。まるで児戯とばかりのそれに獣人が怯んだ刹那。

    「目を閉じていて」

    胡蝶の男にだけ聴こえる声でレオはそう告げる。わけも分からないままに思わず反射で胡蝶の男が瞳を閉じると同時に、レオは先程の獣人とは比べ物にならない強さの炎を纏う矢を放つ。真っ直ぐに捉えた獣人の男の胸へ容赦無く抉るように突き刺さる。獣人の男が悲鳴をあげる間もなく、事切れた獣人の男の骸を一瞥してからレオは立ち上がる。

    「おまえ、どうしたい?おれは屋敷に帰るけど」

    ――一緒に帰る?

    先程までの冷ややかさなど微塵も感じさせない、柔らかな笑みを浮かべて片手を差し出しながらそう告げたレオに一瞬の逡巡の後、その手を胡蝶は掴む。 人の体温より低いヒヤリとしたそれにレオは一瞬目を細めるも安心させるように笑みを浮かべてその手を引いて抱き寄せる。

    「!ちょっ、と…ぉ!?」
    「その乱れた服のままで歩かせる訳にはいかないだろ~?邸まで大人しくしてて。あと、気が向いたらでいいからさ、名前教えてくれよ。おまえって呼び方じゃ良くないだろ?」

    軽々と胡蝶を抱き上げて無理強いするつもりは無いというようにレオは告げる。 他の人間とは違うというのはしっかりと伝わるように誠実さを伝えるようにレオが言えば、胡蝶は視線をレオから外して小さく呟く。

    「…………………………………せないずみ……」
    「……!セナか!綺麗な名前だな!」
    「気安く呼ばないでよねぇ。あと!人前であんまり呼ばないで」

    レオの声で名前を呼ばれた胡蝶――泉は耳まで赤くなって言葉を紡ぐ。

    「わはっ、名前まで綺麗なんだなぁ。セナの名前は綺麗の歌~」

    鼻歌交じりに即興で歌いながらレオは泉を連れて邸への帰路へ着いた。
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