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    大事にされていることを理解する6.0後の光♂+ラハ
    ヒカセンは見た目の描写ありません

    Love from触手の大振り。大剣を盾がわりに構える。この後はたいていブレスがくるから距離をあけて。吐ききったところに距離を詰めて。う、まだ臭い!横に薙ぎ払い、足止めして。大丈夫、身体が覚えてる。

    手を、足を、思いっきり動かせるのが嬉しい。ウルティマ・トゥーレで死にかけた(実際いちど死んでたって怒られた)のがよほど堪えたらしく、バルデシオン分館で療養という名の半軟禁を命じられてからはや数週間。鈍った身体を徐々に慣らして、お目付け役を連れて行くなら、という条件つきで、やっとオールド・シャーレアンの外に出ることを許されたのが数時間前。
    先だってひどい被害をうけたラザハンの状況を様子見にきたついでに、パーラカの里周辺でモルボルが増えて困ってるので討伐してほしい、という依頼を受けた。終末の騒動で人も魔物もたくさん星海に還ってしまったから、生態系のバランスが崩れかけてるのかもしれない。特定の種が増えすぎるとよくないから、ある程度は間引かないといけない。らしい。

    暑いな。ラザハンにくるなら鎧を着る武器なんか選ぶんじゃなかった。夜のような漆黒の大剣はずしりと重くて、振るうたびに汗がふきでてくる。このモルボル、やたら硬くないか?いや、俺の振りがまだ甘いのか。太い触手の大振りを剣でいなす。衝撃で腕がびりびり痺れてきたところに、「お目付役」のあたたかなエーテルがとんでくる。

    「もう少しだ!」
    「助かる!」

    モルボルの巨体のうしろ、すこし離れた位置で水晶の杖を構えるグ・ラハもびっしょり汗をかいていた。そうだよな、暑いよな。はやく終わらせて水を浴びにいこう。

    斬り下ろし、逆袈裟に。そのまま回転の力をのせて振り下ろされてきた触手を断ち切る。あとひと押し。落ち着いて。また大技を出す気配があるから、一度守りに徹して……

    「あ」

    やらかした。いま身を護るためのエーテルを練るだけの余力がない。近頃は白銀の盾ばかり握っていたから、大剣の使いかたが、たぶん、いろんなところですこしずつズレたんだ。
    ブレスを耐える手段がない。後ろに引くにも遅い。たぶん、いまこれくらったら立てない。ハイデリンがいないいま、力尽きたらどうなるか分からない。

    いや、いちど「死んだら」グ・ラハが人間に「戻して」くれる。半分やけっぱちになったところに、すごい勢いで特大の回復魔法が飛んできた。

    「ブレイク!」

    詠唱を聞いた瞬間、ほとんど反射で思いっきり大剣を叩きつけると、動きを止められたモルボルの巨体が力を失い、土煙をあげて沈んだ。

    「ラハ、助かっ……」
    「大丈夫か!?怪我は!?」
    「うわっ」

    きっちりと倒しきったことを確認してから顔をあげると、息を荒げたグ・ラハの顔が目の前にあって思わずのけぞった。近い、というか距離詰めてくるのはやいな。答える間もなくグ・ラハの両手が忙しなく甲冑のそこかしこを検めていく。

    「だ、大丈夫だって、お前のおかげでなんともないよ」
    「あんたの大丈夫は信用ならないんだって!一度里に戻って鎧脱いでちゃんと……」
    「ほんとに、痛いとこはない」

    なんにも隠してなんかない。さっきの過剰なほどの回復魔法でさっぱり元気になったのだから。確りと目をあわせて答えると、ようやく肩の力を抜いたグ・ラハの身体がぐらりと傾いたので慌てて肩を支える。水晶公のときならまだしも、生身の状態であんな回復とアラグの魔法を立て続けにに使うからだ。

    「よかった……」
    「大袈裟だな、心配な…」
    「大袈裟なんかじゃない!」

    悲痛なほどの叫びに思わず目を瞠る。紅い瞳も相まって、至近距離でグ・ラハの凄んだ顔はちょっと、だいぶ、迫力があった。

    「あんたのことはどれだけ過保護になったって足りないぐらいだって分かった」

    どれだけ心配したところで、俺たちは到底あんたに力が及ばないから。

    苦しそうに俯いたグ・ラハのつむじを見つめる。耳はすっかりへたっていて、どうすべきか、何と返せばいいのかも分からなくて、ただすこしだけ肩を抱く手に力をこめた。

    宇宙の果てより帰還してから、よく見る光景だった。まだ調子が戻らなくて足元がふらついたり、熱がぶり返したりしたときに仲間たちが見せる、とても苦しそうな顔。

    所詮、自分は換えのきく存在だと思っていた。

    英雄と呼ばれるに至った過去の決戦でも、光の加護をもつ他の冒険者と共に乗り込んだ。暁の面々のように学がある訳でもない。ちょっと力が強くて、ハイデリンの加護を受けているだけの、ただの冒険者でしかないのだ。自分が倒れても、きっと代わりを見つけるだろうと、そう思っていた。

    けれど、すこし自分がふらついた姿を見せるだけで、仲間たちは苦しそうな顔をする。まるで自分が傷付けたみたいに。これまでは平気だと笑えばそのまま身を引いていたのに、いまはみんな同じことをいう。

    「せめて、心配くらいはさせてくれ」

    すごく、大事にされている。さすがに分かってきた。きっと自分が暁の仲間を尊敬し、護りたいと思う気持ち以上に、自分のことを敬い、ひとりの人間として大事に思ってくれている。それが嬉しくて、すこし居心地が悪くて、なんだかむずむずする。

    エーテル切れを起こしかけてふらついているグ・ラハを手近な岩に座らせると、膝をついて両手を包み、下から顔を覗き込んだ。

    「えっと……」
    「……?」
    「無茶してごめん。それから、心配してくれてありがとう。もうすこし、無理しないようにする」

    こんなとき口下手にまかせて勢いでなんとかしてきたのが悔やまれる。子どもだってもうすこしうまく言えるんじゃないだろうか。

    頬が熱をもってきたのを自覚しながら、それでもじっと目をあわせて待つ。まだふらふらと頭を揺らしているグ・ラハは、大きく目を見開いたあと、すこし疲れたみたいな顔をして笑った。

    「もうすこしじゃなくて、もっと自分のことを大事にしてくれ」

    嬉しそうな顔によかった、間違っていなかったのだと息をつく。けれど、ちょっと即答する自信はなかったので、努力するとちいさく返せば掠れた声で笑われた。

    もう大丈夫、というグ・ラハと連れ立って里への帰路を辿る。きっとシャーレアンに戻れば今日のことは報告されて、たぶん何人かに怒られるんだろう。それがちょっと怖くて、けれどもう嫌ではなかった。

    散々滞在して嫌気がさしはじめていたあの分館に、はやく帰りたいなと思った。
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