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    misakulish7

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    いおやま 「焦り」梅雨明けの発表は嘘だったのかと思うほどの豪雨。気楽な高校生は電車止まってるからゲーセン行こうぜカラオケがいいボーリングはと教室で騒がしい。夜まで続く予報にため息をつきながらスマホ画面を見た。
    「いおりんはゲーセン?カラオケ?ボーリング?」
    ボーリングなら俺といっしょ!と前の席に座る四葉さんは全くタイプが違うのにクラスメイトだからとなにかと声を掛けてくれる。嬉しいようなどこか居心地が悪いような、しかし彼ならどの返事でも気を悪くすることはないだろうという不思議な魅力がある。
    「行きません。私は徒歩圏内ですし用事もありますので。みなさんも交通情報をこまめにチェックしてあまり遅く鳴りすぎないように。」
    はーいいずみせんせーと男子生徒が茶化してくる。
    「え、こんな土砂降りのなかで出掛けんの?」
    「みなさんがそれ言います?相手がもう近くまで来ていますので、借りていた本もありますし。」
    「たしかに!」
    グループごとに人数確認や予約をとるなか、クラスでもめだつ女子が声を掛けてきた。
    「和泉くん。これあげる。この雨じゃ鞄に入れてても油断できないし。」
    手渡されたジップロック。そういえば先月、彼女はスマホを雨で壊してしまったと騒いでいた。ひどく落ち込んだ彼女はスマホやワイヤレスイヤホンなどの高価な物はジップロックに入れていると他の友人にも配っているようだ。借り物の本、入るかな?と手渡されたそれは密封こそ出来ないもののカバーとしては十分なサイズあった。
    「ありがとうございます。いくらでした?」
    「百均だからいーよ。この前グループワークで助けてもらったし。じゃあね。」
    カラオケグループに合流する後ろ姿を見送り、教室を後にした。
    走り出したい気持ちを抑え、自分の傘を取り出して薄暗い雨の中早足で歩く。
    彼はもういつものファミレスに居るらしい。早く、早く。


    「イチ、お疲れ。」
    待ち合わせだと伝えテーブル席を見渡していると男が手を上げて呼ぶ。
    二週間ぶりにあった二階堂さんはいつも通りで、でも緩む頬と乱れた呼吸を悟られないようひとつ深呼吸して前のソファに座った。
    「すごい雨ですね。」
    「な、午後の講義なくなったから早めに来られて良かったわ。」
    オーダーを取りに来た店員にドリンクバーを申し出るとついでに二階堂さんが空けた食器が下げられる。
    「腹減ってない?何か注文したら?」
    タッチパネルを引き寄せる彼に勉強会にきたのでと断りドリンクバーへ向かう。
    二週間に一度、二階堂さんと勉強をし始めて五年。小学六年生と高校二年生の組み合わせは周りからどう思われていただろう。自分があの時の二階堂さんと同じ歳になって、小学生の相手をするのは幼稚で面倒だっただろうと気づく。それでも私は。

    「コーヒー淹れてきました。」
    レポートの資料とノートパソコンを避けマグを並べる。書き込むためのボールペンはスーパーや雑貨屋で見かけないような上品なもので。
    自分の持ち込んだテキストやノート、どこにでも売っているメカニカルペンシルが追いつけない年齢差を突きつける。
    高校生と小学生、大学生と高校生。いくら年月を共に過ごしても追いつけない事実が悔しい。


    「お待たせしました。」
    軽快なタイピング音を聞きながらペンを走らせていると運ばれてきたのはピザ。
    「いえ、注文してしてま」
    「ありがとうございます。休憩しよ。学校の後で腹減ってるかと思って。」
    ほらほらと急かされて広げた教材を隅に追いやり代わりに二種類のピザとタバスコが目の前に並ぶ。
    「フォークで食べられるお菓子の方が勉強の片手間に摘めたのでは」
    「ケーキ屋の息子にお菓子出せるかよ。それに、イチと喋りたかったしさ。」
    二階堂さんの大学が決まり落ち着いた頃に私が告白。のらりくらりと躱されるも週二の勉強会は続き、その度に想いを伝え一年ほどでようやく成就したこの恋は周りと比べたらスローテンポかも知れない。しかし押し負けた二階堂さんの「清い交際」の条件を守り私は満足していた。
    「そういや本読んだ?」
    「あ、ありがとうございます。とても面白かったです。」
    歴史小説はあまり親しみがなかったが読みやすいからと言われた通り難なく読み終えた。二階堂さんが勧めてくれたから、彼の好きなもの通ってきたものに触れられるならと下心はあったがそれを差し置いても面白かった。
    「何これジップロック?」
    「クラスメイトからいただいたんです。土砂降りで濡れるといけないからと」
    はみ出した梱包に一瞬驚き、気にしなくていいのにと笑う二階堂さん。不恰好な本、テーブルに並ぶピザ。ここでも財力という年の差を感じる。どんなに断っても支払いは二階堂さんで、当初は一番安く腹に溜まるポテトしか注文しなかったのに。今ではデザートも食う?なんて金額も気にしている様子はない。
    「私も手伝いを増やしてもらおうかな」
    ぽつりと出た言葉は相談というつもりではなかったが「なに?なにか欲しいものでもあるの?」と二階堂さんに拾われた。モノではなく、金銭的余裕を持ちたいんですなんて言えるわけもなく、また年の差を金銭で埋められるわけではない浅はかな考えに高校生も物入りなんですよと誤魔化してため息とともに吐き出した。


    二週間溜めた話したかったこと、聞きたいこと、なんてことない日常を話していたらピザ二枚はあっという間になくなった。交際が始まってから定期考査期間以外の勉強会は名目だけで、どちらかが集中力が切れて飲食を始めるともう片方も手を止める。兄さんの話や新作ケーキの案が通ったこと、二階堂さんがアルバイト先で作った創作賄い料理が裏メニューで人気になっていること、放課後から薄暗くなるまでの短い時間はあっという間だ。家族に関係は明かしていないが勉強会のことは伝えているので日没が早い冬なんかはうちの店で勉強会をしてそのまま

    雨止んできたな、と二階堂さんが窓越しに空を見上げていると入店を告げるベルが鳴った。
    どうやら団体客がきたらしい。
    二階堂さんは私越しに入り口を見るとすっかり冷えたコーヒーを飲みきって突然帽子をかぶせた。
    「ちょっと、」
    「そろそろ出よっか。荷物まとめといて」
    今日こそ私が支払いますと財布を見せるとしーっと唇に指を押し当てられた。
    そのまま指は二階堂さんの唇へ。
    「ごちそーさん」
    お金を払わせてくれないくせに!
    今日も押し負けた、と大人しく二人分荷物をまとめ支払い手続きをしている二階堂さんの隣で二人の傘を探す。
    「あれ、和泉くん?」
    傘をたて忘れて戻ってきたらしい女性、ジップロックをくれたクラスメイトが目の前に居た。
    「和泉くんここで雨宿りしてたの?」
    「はい。みなさんカラオケは終わったんですか?」
    「そー、おしゃべりしたくなったし食べるならファミレスのほうが安いし!和泉くんいまから帰るところ?まだ雨降ってるしよかったらこっちに来ない?」
    「ごめんね、コイツのこと送るまでがお兄さんと保護者さんの約束だからさ、お嬢さんたちも遅くならないうちに帰りなね。」
    じゃあね、と手を引かれ挨拶もそこそこに店を出る。
    「二階堂さん、傘は」
    「小雨だしイチのに入れてよ。むりやり引き剥がして恥ずかしいのに取りに戻れるかって」
    行こ。と傘と二階堂さんの荷物を取られ肩がぶつかる距離で歩き出す。
    「……呆れた?」
    「どちらにですか?嫉妬と独占欲、どちらでも嬉しいです。」
    「やっぱりお見通しかぁ」
    ははっと笑いながらぶつかる腕。周りの目を気にして、わざとらしく腕や手をぶつけるのが私たちの腕組みや手繋ぎと同義だった。私からトンとぶつかれば二階堂さんからもぶつかり、小声で笑い合う。傘は顔を隠してくれる、いつもよりふらふらとぶつかり合った。

    「……公園寄りたい」
    徐々に歩くスピードが遅くなり、最短ルートとは違う角で曲がった二階堂さんが雨音にかき消されそうな声で呟く。
    「私も言おうと思っていました。」
    喋り足りないとき、二人きりになりたいとき、まだ帰りたくないとき、薄暗くなって人が滅多に居ない公園へ寄り道をする。念のため周囲をそっと見渡し……もちろん今日は土砂降りだったこともあり誰も居ない。動物の形を模した滑り台の下、トンネル部分にくすくすと笑って身体を縮込ませながら入る。
    「高校生が入ってきて、私が席移動を誘われると思って焦ったんですか?」
    「いちいち確認しなくていいっって!」
    ファミレスでも道中でも我慢していた分、隣り合って重なった指先を絡める。少し冷たい二階堂さんの手は心地よく、緩い力が込められ握り返す。
    「誘われてもこの時間が最優先ですよ。」
    真顔でそういうこというなよ!と赤く染まる頬に少し気が緩んだ。少し濡れたらしい眼鏡を外したのが好機と肩を引き寄せる。
    「二階堂さん」
    「ん……」
    軽く唇を重ねて額を合わせる。
    「あの子たちの誰かがイチのこと好きだったらとかクラス替えでかわいいなって思う子が居たらどうしようとかお兄さんだって気が気じゃないんですよ」
    観念した二階堂さんにちゅっ、ちゅっ、とお礼を渡しながら頬の緩みが抑えられない。
    「私たちは、上手くやっていけそうですね」
    憧れていた人は、存外そこまで大人ではなかったようだ。
    「ね、二階堂さん。清い関係ってまだセーフですか?」
    「……ん。もうちょっと進んでも大丈夫、かな」
    回された腕に引き寄せられるまままた唇を食む。二人の不安と焦りごと全部飲み込んでやろう。
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