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    マミコ

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    マミコ

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    思いついたネタを小話みたいにして残すことがあるんですけど、まぁまぁ長く打ったのが残っていて、漫画にすることもないかなと思ったので。
    拙いし途中文にするの飽きたな感もあるしで、恥ずかしくなったら消します。誰か清書してください…

    歳の差エール(30×17)自暴自棄になっていた。
    幼い頃から、顔も知らない犯罪者の子どもと罵られ、鬼の子だと厭われ、世界を憎み、自分を疎み、だからといって死ぬ覚悟もないまま、ただ泥を啜って生きてきた。
    いつの間にか踏み入っていた裏の世界で、ヘマをしてボロ雑巾以下になって道端に文字通り落ちていた。
    土砂降りだった雨は止んでいるが、ぬかるんではねた泥や血や何かでぐちゃぐちゃなおれを、誰も見つけたりはしない。

    腹も減っているが指一本動かせず体も冷え、ただこのまま死を迎えるだけかと、薄目で見つめていた雨の跡が残る水溜まりに、小さな黄色い長靴が現れた。

    「でけェいぬがいる!」
    「…犬じゃ、ねェ」
    好奇心旺盛な、履いている長靴と同じくらい明るい声が降りてきた。
    咄嗟に、掠れた潰れ声で否定をしたが、聞こえただろうか。子どもの年齢はわからないが、7歳くらいの長靴とお揃いの黄色いレインコートを着た黒髪の子ども。周りに大人はいないようだが、一人だろうか。大人を呼ばれるのも面倒だ。子どもは好きではない。何も出来ないうえにうるさい、守られて然るべきだと思い思われ、世界は眩しいと信じて疑わない。
    よりにもよって厄介な存在に見つけられてしまったと苛々しながらも、意識はしだいに遠のいていき、最後に覚えているのは

    「おまえ、すていぬなら、うちくるか?」


    それから、気がつけば10年が経ち、あの日自分を拾った子ども、ルフィは17歳になり、学生生活を謳歌している。
    ルフィには父親がいるが、活動家らしく世界を飛び回っており、代わりに祖父が引き取ってはいるものの、こちらも政治関係の仕事をしていて不在がちのため近所の知り合いに世話されていた。こんなに小さいのにほぼ一人の生活をしていて、寂しくはないのかと聞いたことがある。
    「きょうからエースがいるから、さみしくねぇ!」
    その言葉を聞いてから、捨て犬ならぬエースは、今までの生活から足を洗い、この小さな子どものために真っ当に生きることを誓った。
    自分のことは兄と呼べ、お前はおれの弟だと言ったが、ルフィは普通に名前で呼んでくる。別に気にしてはいない。むしろ今までこんなに名前を呼ばれたことがあったかというくらい、エース、エースとひっついてくるのが、むず痒くも嬉しかった。
    仕事も見つけ、三十路を迎えた今、二人暮らしで精一杯の毎日だが順調に兄弟として生きてこられたのは、ルフィがいたからだ。

    「あのな、おれ好きな奴いるんだけど」
    そんな最愛の弟の突然の爆弾発言に全身の血の気が引いた。危うく洗い物の皿を落としたが、頑丈でよかった。
    思春期としてはむしろ遅いくらいかもしれない。けれど今までこの無垢な弟にそんな気配は微塵もなかった。
    どの女だ、男だ。引いた全身の血が一気に燃え上がり沸騰した。落ち着け、落ち着け。
    「あー……もうすぐ、あれか、バレンタインか。もしかしてチョコ渡したいとか?学校のやつ?どいつだ?」
    「んー、そんなとこ」
    あくまで兄として冷静さを表面上は保ちつつ、何とかルフィから情報を引き出そうとしたが濁された。

    そもそも、元を正せば他人の自分に弟の相手を選ぶ権利はない。しかし現保護者として、家族として、大切な弟を託せる相手なのか見極めなければいけない。
    (いつか、こんな日が来るかもしれないとは、覚悟していた)
    数年前、夜中に弟に泣きながら起こされ、下着に漏らしてしまったと告白されたあの時から。
    馬鹿な弟のことだから学校の保健の授業だって寝ていたのだろう。初めての精通、しかも夢精に戸惑い、兄に縋った。
    その様子が面白くて可笑しくて、笑いながら説明してやりながら替えの下着を渡した。その夜はもう14になる弟をあやしながら一緒に寝た。いつまでも甘えん坊でいけない。
    弟の背中を優しく一定のリズムで叩きながら、ルフィだって、誰か女を孕ませられる年齢になったのだとしみじみ思う。可能性としては、男相手ということも、なくはないだろう。そう考えると、暗い気持ちが湧いた。
    弟が女を抱いている姿も、男に抱かれている姿も、嫌悪感しかなかった。
    ふと、頭の隅に一瞬湧いた考えを頭を振って否定し、寝ることに集中した。

    それから何度か弟を抱く夢を見て、後悔しながらも起きて反応している下半身を無心で沈めた。
    精通がきたということは自分で慰めることもあるのだろうか。その姿を妄想し、いきり勃つモノを扱き果てた後の虚しさたるや。
    (おれは、大切に育てた弟に、なんて感情を…)
    ルフィには真っ当に生きるべきで、そうなるよう育ててきたつもりだ。生まれにも、脛にも傷のある自分とは違い、太陽の下で笑って、自分じゃない誰かと歩んでいく。

    「エースはどんなチョコが好き?」
    「おれはチョコ嫌いだ」
    「えーっ、好きじゃん、おれの横取りとかしてた!」
    弟は近頃やたらとチョコの好みを聞いてくるようになった。ルフィのチョコを取るのは、反応が可愛いからだ。実際、チョコは好きでも嫌いでもない。
    来るバレンタインに向けて市場調査なのだとしたら、相手はもしや年上か。許さねェ誰だおれの弟を誑かしたやつは。
    あまりにしつこく聞いてくるので、凡そ好かれなそうな好みを伝えておいた。
    ルフィは万人に愛されるべき存在だが、誰かのものになってほしくないという矛盾した心を抱えながら、それでも準備に楽しそうな弟を兄として見ていた。

    気づけばすぐにバレンタインはやってきた。この歳になると日が経つのが早くていけない。
    弟は朝から心ここにあらずというか、楽しそうでいてどこか不安げで、調理実習をする家庭科のある金曜日だというのにそのことは頭から抜けているようだった。
    失敗すればいいのにという薄暗い気持ちを抱えながら弟を送り出し、自分も仕事をした。
    少し呆けていたのか、小さな失敗をいくつもしてしまい、今日はまっすぐ帰れとオヤジや仲間に言われ、帰宅した。

    「エース!バレンタインのチョコだ!」
    帰宅してただいまの挨拶もそこそこに、食い気味に弟がチョコを渡してきた。
    「…おれに?」
    「調理実習でつくった!」
    「あぁ…」
    少し期待に弾んだ心が、すんっと沈んだ。
    「それと、これは別」
    「え、」
    「エースにあげる」
    小さな包みのチョコとは別に、綺麗にラッピングされた箱を弟はおずおずと渡してきた。
    そうか、本命への告白に失敗したのか。
    おれの弟が振られるなんて考えられないが、薄く笑みを浮かべてしまうのを手で覆い隠した。
    (でも、知らない誰かは、こいつから好意を向けられていたのか)
    「エース、好き」
    「おぅ、残念だったろうけど、おれもお前が好きだぞ」ははっ
    「残念って、何が」
    「振られてきたんだろ?仕方ないから兄ちゃんに代わりに渡そうって」
    「ちげぇ!」
    「まぁまたチャンスあるだろうから、諦めずに」
    (口では兄らしいことが言えるのに、本当は今後もそんなチャンス来なければいいと)
    「ばか!おれが!エースに渡してェんだ!」
    「…?」
    「エースが、好きだから」
    ゆっくり弟の顔が近づいて、確かめるように唇を重ねてきた。
    拙い子どもの、触れるだけの口付け。スキンシップで、頬にしたことはお互い何度もある。
    「は?」
    情けない声しかでず、理解が追いつかない。
    「聞いただろ、エース何のチョコ好きかとか、色々」
    「いや、だって、おま、それは…」
    「おれの本命は、エースだけだ」
    調理実習のはおまけで、本命のは学校が終わったあとに友人の家で教わりながら作ったのだと。
    恥じらうような弟の表情をじっと見つめた。
    頬を薄紅に染めながら、背伸びをして腕をエースの首に回し、決意を込めた大きな目を閉じて再度唇を重ねてくる。
    (これは、夢か?)
    弟が、ルフィが自分を好きと言い、多分それは兄弟としてではなく、キスをするような、その先を強請るような、そんな関係を望んでいて。
    「いや…だめだ、おれはおっさんだし、お前は弟だし」
    「関係ねェ」
    「気の迷いだろ」
    「うるせェ!」
    頬をべちんと両手で挟まれ叱咜される。
    「おれ知ってんだからな、エースが夜中おれの名前呼んで、トイレで…もごっ」
    皆まで言わせず口を手で塞いだ。
    知られていた?この劣情を、汚い心を、この綺麗な子どもに…
    「おれだってもう子どもじゃねェんだ!意味わかってる。エースは、おれの兄ちゃんだけど、好きって思ったらダメなのか?」
    ダメと、言わなければ。
    そう言い、諭すのが兄だ。
    でも、この真剣な眼差しを跳ね除けられるほど、出来た人間ではなかった。葛藤なんてほんの数分。
    「ダメじゃ、ねェ」
    そう返すと、嬉しそうに破顔した弟の顎をそっと掴み、腰を引き寄せ、今度はこちらから大人のキスをした。
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