桜の花びらが落ちる前に掴むと恋が叶う。
そんな噂を聞いたルカに連れられ僕は春の麗らかさに包まれる街外れの並木道へと出掛けた。
春風に乗って桜の花びらが宙に舞う。
僕はその花びらを必死に追いかけた。
やっと掴み取ったと思った瞬間、それは手の中からするりとにげてしまう。まるで今の自分のように感じて感傷的になってしまう。
「ふふっ…」
「どうかしたの?」
「桜がついてる。綺麗」
そう言ってルカは僕の髪についた桜をとった。気安く綺麗だなんていわないでよ…もっと欲しくなるじゃないか。どんどん欲張りになっていく自分に嫌気がさす。期待したって無駄なのにね。
「ルカのお願い、叶うといいね」
そうやって心にも無いことを言うとルカは直視でき無いくらい眩しい瞳で僕を見つめた。
そんな顔しないでよ。ルカのお願いが一生叶わなければいいのになんて酷いことを考えるとまた胸が苦しくなった。
僕は君のこと好きなんだって、伝えてしまえたらどんなに楽だろう。だけどルカを困らせたくない。
だから、この気持ちは心の奥底にしまっておこう。いつかルカのことを忘れるまでは。
「じゃあ、帰ろっか…」
目的が果たせただろうとそう声をかけるとルカは僕を見てこう言った。
「俺は初めて会った時からシュウしか見てないよ。」
突然の告白に息をするのも忘れてしまいそうになる。
「それって…さ」
「俺、シュウのことが好きなんだ。シュウが他の人が好きなのは知ってる。だから伝えたかっただけ」
ルカは優しく笑ってそう言った。彼の目に映っていたのは僕だったんだ。僕だけを見てくれていたんだ。そのことに気が付くと自然と涙が溢れてくる。その姿にギョッと驚くルカに対して僕も気持ちを伝えた。
「僕が好きなのはルカ。君だよ」
するとルカは信じられないような顔をして僕を見た。
「本当?」
「うん…嘘なわけない」
それを聞いたルカの顔がみるみると赤くなっていくのを見て思わず笑ってしまう。そしてルカは何回か深呼吸をして、口を開いた。
「ねぇキス…していい?」
今度は僕が赤面してしまう番だった。恥ずかしくなって少し目をらして頷く。そんな僕にルカはそっとキスをした。触れるだけの優しいキス。唇を離すとルカは僕を抱き締めてくれた。
「ありがとう……嬉しい」
耳元で囁かれる言葉はとても甘くて、なんだかくすぐったかった。ルカの腕の中で僕は今までで一番幸せな時間を過ごした。