※右手はしばらく死んでいた ──鍾離が頭を強く打った。命に別状はないようだが、お前の名前を連呼しているから会いに来い。
その日タルタリヤに届いたのは、簡潔にまとめれば、そのような内容の連絡だった。
「え、嫌だけど?」
しかしタルタリヤは動かなかった。明らかに面倒ごとの気配がする。加えて鍾離が頭を打っておかしくなる程度の存在なら、元より興味などないのだから──と、届いた連絡を無視して、雑務書類にペンを走らせる。
……まあ、残念ながらタルタリヤの予想は半分当たりで半分外れだった。
「公子殿!」
「うぇえ!?」
いつの間に北国銀行まで乗り込んできたのか、執務室のドアが容赦なく開かれた。目を向けない、という選択肢はさすがにない。けれどすぐ、そちらに視線をやったことを後悔した。
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