Water lily Paradox サンプル猫が目の前を横切った気がした。
しっぽの長い真っ白な猫だ。しかし部屋の窓は閉まっており見回してもその姿は見あたらない。
彼と同じタイミングで迎えた我が家の猫様はおそらく姉が用意したリビングの指定席で寛いで居るはずだ。そもそもウチの猫は背中からしっぽにかけて大きなトラ模様が入っている。
今見たのはそう、彼の家にいるあの白猫によく似ていた。真昼の日差しを受けキラキラと輝く毛並みは眩しく膨らんで、目蓋の裏に焼き付いた残像が消えない。
柳は何か胸の奥で疼くものを押し込めるようにベッドへと寝転んだ。枕に顔を埋めながら無意識に枕元にあるケースへ手を伸ばす。硬いプラスチックのそれに触れているとザワつく何かがやんわりと包まれ静まるのだ。
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