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    タイトルの通り、悪魔×天使パロ。書きたいところだけ。少々ngro要素もあるので注意。

    【くにちぎ/kncg】悪魔kn×天使cg世界には天界と魔界、そして人間界がある。基本的には互いに干渉し合わないが、長年天界と魔界は小さな衝突を繰り返し、互いの同胞を増やすべく天使は悪魔を浄化し悪魔は天使を堕天させていた。そして浄化された悪魔は魔界から疎まれ、堕天した天使は天界から弾かれる。浄化した天使や堕天させた悪魔が対象を殊に気に入ればそれぞれの世界に連れ帰ることもあるものの、出自が異なればどうしても居心地は悪い。天界や魔界に馴染めない彼らはそれぞれの象徴たる羽を剥奪されて人間界へと堕とされる。人間となれば短い寿命に縛られて消える運命だ。だからこそ天使と悪魔は互いの存在を警戒し合っていた。
    ただし、浄化や堕天をしていない天使や悪魔が人間界に存在しないかと言えば答えは否である。人間は欲深い。その欲を糧とするのもまた悪魔である。悪魔に憑かれた人間はただでさえ短い寿命を吸われて早々に死に至る。そして死してなお魂が天に還ることはない。悪魔に喰われて消滅し悪魔の一部となり魔界の力を強めることになる。その均衡の歪みを正すべく、一定数の天使もまた人間に扮して悪魔の動向を伺うのである。
    花が綻ぶ季節の夜に人間界で出会った二人もまた、人ならざる者同士だった。

    (こんなお人好し、人間でもそうそういねえよ。これで悪魔だったら裸で逆立ちしたっていいくらいだ)
    (この人間に好まれる美形、いかにも悪魔が扮する外見だ。我儘で周りを使ったり振り回したりしてるあたり、人間を手中に収める手段を知り尽くしている)

    新年度の都心部のマンモス大学に所属した二人の人ならざる者同士は、早速サークルの新入生歓迎会に駆り出されていた。簡単に取り込みやすい人間は若くて無謀なスポーツ系のサークルに多い。飲み会の参加人数も多く、品定めをして欲を吐く相手を捕まえる目的の者も一定数いる。よって人ならざる者同士がこのような場で鉢合わせすることも珍しくはなかった。
    余程の例外を除き、人間であるかないかくらいは気配で互いに察知できる。ただし天使か悪魔かまでは初見で判断することは相当に困難だ。天使のような顔をして人間を貪る悪魔もいれば、悪魔に扮して油断させて浄化にかかる天使もいる。天使同士や悪魔同士が出会うことも度々あるが、さすがに広大な天界や魔界の全ての同胞を把握しているわけではないので誰もが知り得る高位の存在以外はまずは腹の探り合いから始まるのが常である。しかし今回顔を合わせた二人──人間名では國神錬介と千切豹馬──は早々に判断を下した。
    飲み会が始まってから積極的にオーダーを取り、周囲のグラスの空き状況も確認し、体調の悪そうな者を見つけるとすぐにフォローにかかる、料理がくれば手際よく取り分けてさりげなく空いた皿を店員が下げやすい位置にまとめておく。そんな國神の動きを千切はしっかりと観察していた。人間に扮するためとはいえど、ここまでの善良な行動を取り続けることは悪魔にとっては相当なストレスだ。しかし負の感情が一切彼からは漏れ出てこない。これで悪魔であれば感服するレベルだ、と考えながら一気にグラスを煽る。見かけは悪くない。サッカーサークルに所属するとはいえ身体も他に比べれば相当に仕上がっている。それでいてこの気立ての良さなのだから、すっかり女子たちはきゃあきゃあと國神に夢中だ。それでいて彼女たちの話をあえて振って先輩を立てることを忘れない。嫌味なくここまでしてのけるのだから天使であると考えていいだろう。それにこれだけの大人数が入り乱れている場において、多くの新入生は平気で酒をがぶ飲みしている。それなのに國神だけはいくら先輩に勧められようがのらりくらりと固辞している。実に真面目なことだ。だからといって同期が飲もうが無闇に止めたりはしない。敵を作らないタイプだ。平和主義なのは当然ながら天使に多く見られる例だ。
    「千切、グラス空いたのか?ならこっちに渡せよ」
    「おー、サンキュ。もう一杯追加で」
    「お前はそろそろ水にしとけ、飲み過ぎだ」
    それでもうまいタイミングでブレーキをかけてくる。國神の返答に不満なのかぶつくさと文句を溢す千切だが、その美貌に大勢の女子がポケーッと見惚れている。女子だけではない、男までもが数名目を奪われている。
    (こいつは同胞だろうな。この感じからするとインキュバスか?)
    さりげなく千切に視線を向けつつも國神は思案する。狩場で悪魔と鉢合うことはたまにあることだが、獲物が重なった場合は同士討ちが始まる例もある。近頃天使が悪魔を浄化する例が多く見られているためこれ以上悪魔を減らすわけにもいかない。
    (あいつが誰を狙ってるのかわかりゃ無闇にやり合わなくて済むんだが)
    千切は席に座ってから一度も自分で動くことはなかった。新入生で歓迎される立場とはいえ、平気でがぶがぶ酒を飲むし先輩から注いでもらったと思えば食べ終わった皿を下げることもない。しかしそれすら魅力に思わせる美貌と美しい立ち振る舞い。千切に邪な目を向けている人間はざっと見回しただけでも男女関係なく相当数いた。
    (しかし相手が不味かったらすぐ乗り換えるのも悪魔だ。そん時にあいつの獲物に手ェ出して拗れんのも面倒だな)
    そう考えた國神は決断する。今夜は狩りを見送って、まずは千切と話を擦り合わせる。今後生活圏が被ることを考えれば衝突のリスクは最初に減らしておいた方がいい。
    (ま、腹は減っているが……狩りは急がねえしな。まだ何とかなるだろう)
    國神の最たる目的は別にあった。同胞の玲王である。彼は魔界でも相当な高位の悪魔だった。悪魔は位が高ければ高いほど闇に溶け込むような美しい漆黒の羽をもつ。全ての光を閉ざすような玲王の羽に目を奪われたのはもう何十年前になるだろうか。
    しかし数ヶ月前。「たまには人間でも喰ってくるわ」と魔界を抜け出したきり戻ってこなくなった。魔族は定期的に他者の生気を吸わねば消滅してしまうため捕食に出かけることは珍しくない。だが、消息もわからないとあれば浄化されたとしか考えられなかった。あの深い闇を纏った玲王が浄化?國神には到底信じられなかった。そんな中、魔王から数名の悪魔に玲王を見つけて連れ戻すようにと命が下った。國神もその一人だった。その際に魔王と契約をした。任務を達成すれば何でも願いを叶えてやると。捜索の最中に喰った人間を気に入って堕天させたら魔界で受け入れることでも、魔界で永遠の快楽を享受し続けることでさえ。魔族は契約を最も重視する。例え口約束であろうと契約は絶対だ。それほどに玲王は魔王のお気に入りの悪魔である。
    (契約は一対一だったから他に誰が人間界に降りてきてるか知らねえんだよな。千切も玲王探しの一員か探ってみるか)
    そう考えて、うまく立ち回り千切と二人きりになることに成功した。随分とあっさりしたものだったが、おそらく千切も同様のことを考えていたのだろう。國神の誘導に軽々と乗ってくれた。何人かの女性に誘われていたが「ちょっと飲み過ぎたから」とわざとらしくふらついて國神の腕へと絡みつくようにもたれかかった。男をその気にさせるこういう仕草も悪魔の手腕の一つだ。男型の悪魔は基本的に女を好むが、時折男の精液を好んで栄養源にする者もいる。千切もそのタイプなのかもしれない。腕に絡みつく感触とともに胸の奥にざわつくような熱を覚えつつ、國神は仮住まいとしていた安アパートの一室へと千切を連れ込んだ。

    「酔ってねえだろ」
    「あ、さすがにバレた?」
    玄関を閉めて人目がなくなった途端にけろっと舌を出す千切はとてつもなく魅力的だった。國神の中で千切インキュバス説が濃厚なものとなる。観察する視線を外さぬまま國神は千切を奥の部屋へと促す。一般的な一人暮らしの大学生らしいワンルームのシンプルな空間には未だ余計なものはなく、ベッドを中心に最低限の生活用品があるのみだ。
    「それで。國神も仲間探し?」
    「ああ。やっぱり千切もそうか」
    「面倒だけど仕方ないからさ。あいつすぐフラフラどっか行くんだもんな〜」
    「行動的なのは違いねえな」
    遠慮なくベッドに腰掛けた千切の隣に苦笑しつつ座る。視線のやや下に揺れる赤毛がなんとも美しい。これでは人間なぞ簡単に堕とせるだろう。
    「悪いな、声かけて。目星つけてただろ」
    「目星って?」
    「誘われてたろ、女子たちに」
    「あー。ま、そっちより國神の方に興味あったし?」
    ずいと迫られて思わず少しのけぞってしまう。意思の強い眼光がまた魅力的だ。國神は喉が鳴りそうになるのをぐっと堪えて、一つ提案してみることにした。
    「羽」
    「ん?」
    「羽、見せ合わねえ?」
    魔族の間では親睦を深めるときに互いの羽を見せ合う。その闇の深さで互いの上下関係を確認する意味合いもある。千切が上位の悪魔だった場合、あまり舐めた態度をとっていると後々面倒なことになる。それに単純に興味があった。千切の色を見てみたい。そんな欲求が國神を取り巻いていた。
    「……そうだな。俺も見てみたいし。國神の色」
    まるで心を読まれたかのような言葉に、再び國神の胸が大きく脈打つ。玲王の羽を見た時の緊張とはまた違う感覚。一方で嫌な感じはしなかった。
    「それじゃ、せーので」
    「ああ」
    「「せーの」」
    狭い空間を覆い尽くすように大きな羽が二対、向き合うように広げられた。互いの羽を目の当たりにした國神と千切は同時に息を呑む。

    「天使?」
    「悪魔?」

    まさに同時だった。同時に正反対の存在を口にした。
    國神の眼前は白で覆い尽くされていた。やや赤みかかった白。大天使ではない。それでも清廉な色は光を放ちもう片側の闇を照らしていた。
    千切の眼前は闇で覆い尽くされていた。完全な黒ではない。夕焼けを思い起こすような色が黒に混じって所々に見え隠れする。闇を美しいと思ったのは初めてだった。しかし決して下位の悪魔ではない。闇が光を塗り潰し、じわじわと部屋を暗くしていった。
    「──っ!?」
    最初に動いたのは千切だった。とてつもない速度で國神の背後に周り黒い羽を掴む。清浄な力は闇を打ち消し黒を白く焼いていく。
    「ぐ……っ!この、」
    「わ、っ!?」
    熱湯を被ったかのような痛みに思わず力任せに振り払う。飛ばされた千切は壁に衝突する前に柔らかな羽を広げ勢いを殺したが、その羽の大きさが災いした。狭いワンルームの部屋では羽は収まり切らず、奇妙な角度で右の羽を強く打ち付けてしまう。
    「っ、痛……!」
    「話を聞け!」
    そのまま乗り上げて床に押さえつけると、痛みを堪えながら強い眼光がキッと睨み上げてくる。ぞくりと下腹部が反応しそうになる。無理もない。天使は場合によっては人間よりも相当に美味いのだ。國神は人間界に降りてきてから未だに一度もいわゆる【食事】をしていなかった。このまま喰えたらどんなに満たされるだろうか。
    「國神、っ……!騙したな!?」
    「こっちのセリフだ!お前みたいなワガママお嬢様、天使だと思うわけがないだろ!?」
    「お前こそ!あんな甲斐甲斐しい悪魔がいてたまるかっ!お前が悪魔ならこの世界の八割は悪魔だろっ!!」
    ぎゃあぎゃあと言い合うが、すぐ隣の壁がドンと鳴って直後に静寂が訪れる。ついここが人間界の安アパートだったことを失念してしまっていた。互いに押し黙る。
    「……場所を変える。じっとしていろ」
    「は……?闇に引き込む気かよっ、俺が空間を作る、」
    「天使の作る空間は眩しくて視界すら効かねえんだよ。大体今は俺が優勢だ。いいな?」
    有無を言わさず千切が背を預けている床がずぷりと沈み込んだ。闇に溶け込むように二人分の人影が部屋から消え、明滅していた室内の灯りもぷつりと切れて暗くなった。

    前も後も上も下もない。ただの暗闇で千切は拗ねたようにそっぽを向いていた。その都度國神がその前に回るという謎のやり取りはもう十回は繰り返されていた。
    「話はわかった。國神は玲王って仲間の悪魔を探しに来たってことな」
    「ああ。千切が探してるのは凪、だったか」
    「浄化の仕事一切しないぐうたら。だから天界から蹴り落としたらぱったり帰ってこなくなった」
    「……お前ら、本当に天使か?」
    「うるせー。余計なお世話だ」
    國神は面食らう。こんな天使は初めて見た。大抵天使とは清く正しい、人間界の言葉を借りるならいわゆる【学級委員長タイプ】というのが定番なのだが。再び千切が背を向けてしまうので、國神はいそいそとその前に回った。
    「俺はその凪って天使は知らない」
    「俺も玲王なんて知らないな」
    「仕方ねえ。ここは似た目的同士ってことで」
    「待て。お前、人を喰うだろ」
    さっさと丸く収めてしまおうという國神の魂胆はぶち切られた。こういうところはやはり天使か、抜かりない。互いの姿しか確認できない暗闇の中で、大きく広げられた天使の羽が新しい光源となって國神を照らす。
    「おいっ、眩しいだろうがっ」
    「悪魔に喰われた人間はみるみる堕落して死ぬ。それを見過ごしたら俺も天使として罰を受けるからな」
    羽の光がより強く闇を溶かし始める。いざというときに臨時的に人間界と隔絶するために備わっている力だが、やはり天使とは相性が悪い。光を受けたところから火傷をするような痛みが広がりながら國神を焼く。本来天使が行う浄化とは、悪魔を諭して改心させることで行われる。心が白くなれば光を受けても痛苦は受けないで浄化される。しかし心が黒いままでは相当な痛苦となって悪魔を苦しめる。だから多くの天使はまず悪魔と対峙すると悟らせにかかるものなのだが。千切は見かけによらず強引な力任せタイプのようだ。
    「や、めろっ!!」
    たまらず國神も悪魔の羽を出して闇を放出する。力は互角、しかしやや千切の方が強い。根比べとなればいずれは消耗して負ける。数秒のうちに思考を巡らせ國神が動く。あの羽の力の発動をまずは止めなければ。しかし千切は恐ろしく速かった。こちらの狙いを読んだ上で到底追いつけない速さで闇の中を飛行する。この闇の空間には果てがない。これではいたちごっこだ。
    (考えろ……!ここを切り抜けねえと玲王探しどころじゃねえぞ)
    目障りな光が走り抜けていくのを目で追いながらチャンスを伺う。すると突如千切が飛行のバランスを崩した。
    「っ……!」
    「捕まえたぞ!」
    先ほど痛めた右の羽が言うことを聞かなくなったらしい。わずかに体勢を崩したところに飛び込んで、背後から力任せに押さえ込む。白い羽は自らの黒い羽で覆うように封じれば、まばゆい光は闇に塗り替えられてみるみる弱まっていった。
    「くそ、離せ!」
    「千切。一つ提案」
    「悪魔と交渉なんかするか!」
    「まあ聞けって。お前にも悪い話じゃねえから」
    するりと大きな手が服の下に入り込み脇腹を撫でる。熱を帯びた接触には慣れていないのだろうか、千切は小さな声をあげると存外あっさりとおとなしくなった。人ならざる者としての格だけで見れば千切が上だが、単純な腕っぷしや対峙した際の立ち回り次第では十分に國神でも対抗できる。それを実感したのだろう。
    「俺は玲王を、お前は凪を探したい。それは確かだな」
    「……ああ」
    「それで俺は玲王を探す間、どうしても生気がいる。適当な人間を引っ掛けて喰うつもりだったが」
    人間を喰らうなら原則は一人を数年かけて喰い殺すのが一番単純で楽だ。いわゆる恋仲になってしまえば大抵悪魔に魅入られた人間は肉体に魂を留められなくなるまで従順になる。悪魔の中には大勢をつまみ食いしていく者もいるが、人間界ではそのやり方は一定の地域に留まりづらくなるというデメリットがある。ある程度地域を絞れている今回はなるべくそうなるのは避けたい。同胞探しくらいであればそう長くはかからないだろうから、引っ掛けた人間が死なない程度に捕食していけばいい。そう思っていたが。
    「人間なら週一くらい必要だが、天使なら多分月一くらいで済む」
    「……おい」
    「さすがに察しがつくか?」
    途端に暴れ始める千切がなんだか保護したての野良猫のようで可愛らしい。つい笑ってしまうとばかにされたと思ったのだろうか、口汚く罵ってくる。こんなに気性の粗い天使は初めてだ。國神は魔界でも「お前は本来天界に誕生するはずが間違えて魔界に来たような奴だな」と散々言われるような存在ではあるが、胸の奥底にはちきんとどす黒いものが潜在している。それを他者に見せびらかすことなど決してしないだけだ。
    「まあ、交渉決裂ならそれでもいい。さっきの飲み会の帰り際に連絡先渡してきた女もいたからな」
    「おまっ……いつの間に!」
    「もう大学内で何人か唾つけてるのもいる。そいつら全員守りながら同胞探しができるのか?お前に」
    恨めしげに見上げてくる意志の強い瞳。これを濁らせたらどんなに愉しいだろう、なんて考えてしまう。思いの外気に入ったこの赤い天使なら堕天させて手元に置いておくのもいいかもしれない。
    「チッ……なら交換条件だ」
    「おっと、本気で悪魔と交渉か?神サマに知られたらすげえ叱られるんじゃね?」
    「ウルセー、お前は凪のめんどくささを知らねえんだよ。定期的に生気を渡せばいいんだろ。ならくれてやるから、凪探しに協力しろ」
    イエス以外の答えは許さない、と言わんばかりに胸ぐらを掴まれて脅すような声色で迫られる。凪ってのはそんなに面倒な天使なのか。それとも余程高位の存在で、見つけ出すにはなりふり構っていられないのか。そもそも凪を天界から蹴り落としたのが千切だとのことだからそれなりに責任を感じているのかもしれない。様々な可能性を浮かべつつも、國神は現状優位なのは自分の方だと結論づける。これなら多少無茶も押し付けられるだろう。
    「なんで俺の条件を呑む気になった?」
    「……お前が確かに悪魔だと確信したから。そいつを利用できるなら俺の生気渡すくらい呑める」
    「俺が悪魔だったらこの世の八割は悪魔だったんじゃなかったのか?」
    「天使みてえな笑顔で言うことはちゃっかり悪魔じゃねえかこの性悪!」
    どうにも笑いが堪えきれずにゲラゲラ笑ってしまえば、千切は顔を真っ赤にして怒り始める。可愛らしくもあるが、あまり揶揄っては臍を曲げて面倒なことになる気質なのだろう。注意は必要だな、と國神は自分に言い聞かせる。
    「悪かった。じゃ、交渉成立だな」
    「國神」
    「ん?」
    「お前、何者だ」
    優しい顔で近づいてくる人間に警戒を解かない野良猫のような瞳が向けられる。その瞳に映った悪魔は困ったように頬を掻いた。
    「何者って、一般的な悪魔だけど」
    「俺を人間じゃないと一発で見破った悪魔はお前が初めてだ」
    「……」
    「俺は速さと擬態は他の天使よりもずば抜けてる。凪よりも上だと言い切れる」
    失敗したなと國神は唸った。ここであまりに警戒されてしまっては今後結局動きづらくなる。なんとか誤魔化そうと決めると、千切の腕を引いて闇を破った。周囲の景色が一瞬で変化し元の安アパートへと戻る。部屋には壊れた照明が沈黙を保っていた。
    「あー、こりゃ明日買い直さねえとな」
    「おいっ」
    「しーっ、騒ぐとまた叱られるぞ」
    壁を指し示されると千切は推し黙るしかなかった。互いに羽をしまうと途端に千切の身体がベッドに押し倒される。抗議の声を上げようとした口は咄嗟に大きな手で塞がれてしまう。
    「隣の奴、あんまイラつくと扉蹴破ってクレーム入れに来るんだよな」
    「っ……!」
    「あんま声あげると見られちまうぞ。あ、そもそもじっとしてないとさっきの女に電話するから。いつでも連絡してって言われたし」
    挑発していると、口を塞いでいた手の甲に爪を立てられて撥ねつけられてしまう。こりゃ凶暴な肉食獣だな、なんて考える國神をぎっと睨みあげた千切が、声を抑えながらも自由になった唇を動かしていく。
    「やれよ。相当腹減ってるみたいだからな、お前。気粗くなってんのもそのせいだろ」
    「……気ィ粗いか?」
    「飲み会の時と比べればどう見ても余裕ない。やっぱ悪魔にしては変わってるな、限界まで抑えてたんだろ」
    「……」
    「言っとくけど、悪魔とヤったところで俺は堕天しねえから。むしろ手のひらで転がしてやるよ」
    押し倒されているくせにフンと偉そうにふんぞり返る奇妙な天使を前にすると、実際彼が指摘するように飢餓状態に片足を突っ込んでいるにも関わらず國神の心が幾分凪いだ。やはり千切は侮れない。一人を真っ直ぐと見つめると真実をも見抜く目を持っているのではないかと思うくらいに鋭い。
    むすりと拗ねたような表情を見せた後、千切の瞳が閉じられていく。思い切りの良さも人一倍だなだなんて考えながら、導かれるように薄く開かれた唇に喰らい付いた。熱く柔らかな感触とともに膨大な生気が唾液を通じて伝わってくる。枯れてひび割れた土地が水を得て潤っていくように魔力がたっぷりと全身に満ちていく。やはり天使のもつ生気は人間の比ではない。キスだけでこの快感か。
    「おいっ、ちょっ、國神っ」
    何やら呼ばれているような気もしたが、捕食モードに入ってしまえば止まらないのが悪魔だ。飢えた身体は本能に従って目の前の生気を奪おうとする。
    「やっぱちょっと待ったっ、でかいこと言ったけど俺、こういうの初めてでっ」
    頭の奥で何かがぷつりと切れた後、國神の意識が戻ったのは朝方に自然と目が覚めたときだった。

    ぐったりと深く眠る千切は國神同様裸のままで、白い肌にはべったりとあらゆる体液がへばりついて乾いてしまっている。所々に鬱血痕も見られ、それをつけた張本人が自分であるという記憶は國神からすっかりと抜け落ちている。その代わりにすっかりと満ちた魔力が心身に余裕すら持たせている。ベランダの窓を開けると忌々しいほどに清々しい朝の風が舞い込んできた。
    試しに目を閉じて集中してみる。たっぷりと満ちた魔力を惜しげもなく利用すれば今まででは捉えられなかった力を感じ取ることができた。ここから電車で数駅の距離といったところだろうか。遠いながらも弱々しく、それでも確かに以前に見惚れた覚えのある漆黒の気配を感じとる。しかしすぐそばにある別の気配は。まるで光が闇に塗りつぶされるように、闇が光に、いや闇に、閉ざされている?
    「おい國神」
    「うおっ!?」
    突然背後からどんと衝撃を受けて集中の糸がぷつりと切れる。一瞬繋がった同胞との縁も手放してしまい、少々恨みがましく視線を背後に移す。乱れたままの赤髪をそのままに背中に貼り付いた天使はぐりぐりと額を押し付けてくる。
    「腹減ったんだけど」
    「へっ?」
    「お前、まさか散々人の生気吸い取っといて放置するつもりじゃねえだろうな」
    ぎろりと睨み上げてくる顔は迫力があって天使とは程遠い。いや、美人だ。美しさに変わりはないのだが、昨夜組み敷かれて慣れない行為にしおらしく啼いていた人物と同一だとは俄かに信じがたい。
    「えーと……お嬢様は何をお望みで?」
    「食パン」
    「あー、俺米派だからうちにパンは」
    「買ってこい」
    そう告げると千切はずかずかと浴室へと向かっていく。一瞬面食らってしまったが、我に返ると慌ててその背を追いかけて扉が閉められてしまう前になんとか追いつき悪魔のような天使に縋った。
    「せめて……!俺もシャワーを浴びてからっ……!」
    「……仕方ねーな」
    さすがにいかにも事後ですといった姿で外を出歩くわけにもいかない。狭い浴室でなぜか男二人が身体を縮こまらせてシャワーを浴びることになったが、千切は浴室環境を見て「テキトーすぎんだろ」とぶつくさ文句を垂れている。どうやら身体のケアにはこだわりがあるらしい。國神が髪を洗う傍らで浴槽に腰を掛けて文句の合間に問いを投げかけてくる。
    「さっき、仲間を探してたろ。見つけたのか」
    「おおよその位置は絞れたが、誰かさんのお陰でコンタクトは失敗したな」
    「見つかったならよかったじゃん」
    しれっと悪気なくそんなことを言う辺り、憎らしくもあり愛おしくも感じる。こんなにも掻き乱されるのは天使の浄化の力が潜在的に働いているのではないかと思うほどだ。
    「ただ、その近くに妙な気配があったんだよな」
    「妙な気配って?」
    「うまく言い表せねえが……光、いや……闇を闇で塗り潰すような」
    「はあ!?」
    そこまで言うと途端に千切が反応した。立ち上がるとそのまま國神に接近する。ただでさえ狭い浴室の壁に背をつける形で追いやられてしまった。あ、可愛いな。脳裏に昨夜の記憶が蘇り、ついそう考えて前屈みになってしまう。シャワーの音に紛れてちゅ、とリップ音が響いた。直後に國神の腹に衝撃が走る。
    「──ぐえっ!?」
    「いきなり何すんだこの変態悪魔!案外油断も隙もねえな!」
    「て、天使が暴力振るっていいのかよっ……」
    「うるせえ、悪事へのお仕置きだ!とにかく今の話にあった気配ってのはきっと凪だ。探るぞ」
    蹲る國神の背を椅子がわりにどしりと腰を下ろした千切は、早々に見つけ出した手がかりに機嫌を良くしたらしい。まるで芸を成功させた犬を飼い主が褒めるように、國神の特徴的な暖色の髪をわしわしと撫でる。
    「よし、飯食ったら早速行くぞ」
    「はあ?今日は午前から講義あるだろ」
    「んなもんサボりだサボり!さっさと凪と玲王?だったかを見つけるぞ。あ、夕飯はハンバーグでよろしく」
    「居座る気かよ!」
    「当たり前だろ?國神の行動も見張んねえとだし。絶倫悪魔が人間に無闇に手出さねえとも限らねえからな」
    「いや、昨夜は究極に腹が減ってたからと言いますか」
    「とにかく!凪探しも國神にくっついてた方がラクに進みそうだし。しばらくの間よろしく〜」
    早くパン買ってこいよ、とのお言葉とともに浴室から追い出される。國神はとんでもないお荷物を背負ってしまったかもしれないと頭を抱えたが、一方で思考の大半を千切で占められてしまっている自覚もある。これではまるで恋煩いではないかとまで考えてタオルで髪をガシガシ掻いてそれ以上の思考を消す。とにかく当面の栄養源を得られたのは大きい。
    着替えて外に出てから、上着のポケットに何かが入っている感触を覚える。歩みを止めぬままそれを取り出せば、昨夜女から受け取った連絡先を記した紙が現れた。國神はそれをグシャリと握り潰すと辿り着いたコンビニの屑篭に放った。餌候補はなるべくキープしておくものだが、もはや千切以外を喰う気がしなくなっていた。汚れのない天使はやはり美味かった。あの味を知ってしまったらそこらの人間で満足などできるわけがない。
    「玲王は……相当な美食家だったか」
    ボソリと尋ね人の名を口にする。例の凪とやらは千切の口ぶりからして相当な曲者だ。もし出会っていたとしたら玲王が興味を持ってもおかしくはない。お役目のことを考えていたものの、陳列棚からパンを手に取ると國神の思考は一気に赤い髪の天使へと移り変わっていく。羽も綺麗だった。もう一度見たいとは思うが、思えば昨夜打ちつけた右羽は問題ないだろうか。帰ったら確認しておかなければならない。
    「──千切豹馬、か」
    早朝の空気に紡がれた声は溶けて消えていく。家路を急ぐ悪魔の足取りはどこか軽かった。
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    DOODLEタイトルの通り、悪魔×天使パロ。書きたいところだけ。少々ngro要素もあるので注意。
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    フォロワーさまの「あのコーデで丁半博打をするホシグマさん」というツイートを見て書きたくなりました。絶対似合いますよね。
    龍鬼八八華合戦*本作は「真庭語/西尾維新」のパロディです。

    うへえ、と扉を開けたリーは悲鳴とも悲嘆とも付かない声を上げた。それが失言と気づいて口を抑えても、吐いた言葉は戻らない。
    デスクと二人分の椅子だけが置かれている室内で、ホシグマはにこりと仕事向けの笑みを浮かべる。
    「こんにちは。お久しぶりです、リー先生」
    「いやあ、どうも、ご無沙汰してます――ホシグマさん」
    口にこそ出さないもの、その瞳は雄弁に語っている。何故あなたがここにいるんですか、と。
    一部のオペレーターは入職時に明らかに実力を秘匿している。総合テストはクリアさえすればいいというのが現在のロドスの方針だが、やり方を調整する必要があるのではないか――というのが、先日行われた会議で人事部が出した結論だった。その会議の発端となったのがリーであり、故に人事部が模索している新形式の入職試験、その試運転テストに召集されたのも、やはりリーだった。
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