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    sm_mgrm

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    雨想SS
    お題「抱きしめる」をお借りしました。
    # 雨想版一週間ドロライ

    ##雨想

    意気地なしの大人 僕と雨彦さんは、いわゆる恋人という関係なのだと思う。今日のように僕が雨彦さんの家へ足を運んで、一緒にご飯を食べたり、各々好きなことをしたり、お互いそういう気持ちになれば、抱きしめて、手を重ねて、キスをしたり。でも、それだけ。その先を僕が望んでも、いつの間にか他の話題にすり替えられる。僕が気付いていないとは、きっとこの人も思っていないだろう。だけど距離を詰めさせてはくれないのだ。
     「じゃあ、そろそろ帰るねー」
     スマートフォンは22時を表示している。いつもこれくらいの時間になると雨彦さんは「送っていこうか」と問うてくる。それがなんだか子ども扱いされている気がして、僕はいつも断ってしまう。遠慮しますーという言葉にいつも少し残念そうにすることに気づいたときは、そんな顔するなら「帰さない」くらい言ってくれてもいいのにな、なんて思った。でもこれは雨彦さんのせいだけじゃなくて、「帰りたくない」が言えない僕のせいでもあるからお互い様なんだけれど。
     今日もいつものようにその言葉が返ってくると思っていたのに、いつまで経ってもその問いは僕に届かない。心がざわつき、こちらから雨彦さん?と声を掛ける。どうしたんだろう。僕なにかいつもと違うことしたっけ。頭をフル回転させて、自分の行動や言動を振り返る。そんな状態だったから、ゆらりと近づいてきていた大きな影に気づかず、いつの間にかその身体に飲み込まれていた。
     「ど……うしたのー?」
     痛いくらいに抱きしめられるのは、初めてだった。
     この人はいつも僕にやさしく触れるのだ。それがどういう風の吹き回しなのか、ぎゅうぎゅうときつく抱きしめられている。驚いて固まっているのも許してほしいなー、と誰宛でもない言い訳を心の中で呟いたりしているうちに、はっと何かに気づいたような吐息とともに雨彦さんの腕から力が抜けていく。
     だめ。なぜそう思ったのかわからないけれど、どうしてかこのまま離れてしまったらいけない気がした。僕は急いで雨彦さんの背中に腕を回して、思いっきり雨彦さんの胸に頭を埋めた。雨彦さんの身体がびくりと震えた。こんな雨彦さんは初めてかもしれない。初めての事ばっかりで、どうしていいかなんてわからない。きっと反応からして、雨彦さんだってわかってないと思う。僕はこのひとよりはやく動かないといけない気がして、頭に浮かんだ言葉が直接口から飛び出した。
     「僕、雨彦さんから離れる気なんてないからね」
     さっきの雨彦さんの力に負けないように、力いっぱいその身体を抱きしめた。できるだけ密着して、僕の心臓も雨彦さんの心臓みたいにどくどくと高鳴っていることが伝わるように。あわよくば、身体が一つになってしまえばいいな、なんて無理なことを願って。
     しばらくそうしていると雨彦さんの腕に力が戻った。ちょっと苦しくて痛いけれど、雨彦さんが僕を求めてくれている気がした。雨彦さんの体温も、匂いも、息遣いも、鼓動も、どれも好きで、離れたくない。でも、それと同じくらい、キスもしたいし、それ以上もしたい。でもそれは僕の気持ちであって、雨彦さんもそう思ってくれないと意味がない。ねえ、雨彦さん。くぐもった声でそう呼ぶと、腕が緩んで身体が少しずつ離れて名残惜しそうな瞳が目に入るが、依然として黙ったままだ。
     こんなふうに抱きしめて、こんな顔して、それでも言葉にしてくれないのか。この意気地なしの大人の代わりに、僕がその一線を越えてやる。
     「僕の事、欲しいって言って」
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