意気地なしの大人 僕と雨彦さんは、いわゆる恋人という関係なのだと思う。今日のように僕が雨彦さんの家へ足を運んで、一緒にご飯を食べたり、各々好きなことをしたり、お互いそういう気持ちになれば、抱きしめて、手を重ねて、キスをしたり。でも、それだけ。その先を僕が望んでも、いつの間にか他の話題にすり替えられる。僕が気付いていないとは、きっとこの人も思っていないだろう。だけど距離を詰めさせてはくれないのだ。
「じゃあ、そろそろ帰るねー」
スマートフォンは22時を表示している。いつもこれくらいの時間になると雨彦さんは「送っていこうか」と問うてくる。それがなんだか子ども扱いされている気がして、僕はいつも断ってしまう。遠慮しますーという言葉にいつも少し残念そうにすることに気づいたときは、そんな顔するなら「帰さない」くらい言ってくれてもいいのにな、なんて思った。でもこれは雨彦さんのせいだけじゃなくて、「帰りたくない」が言えない僕のせいでもあるからお互い様なんだけれど。
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