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    金も時間もない

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    金も時間もない

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    福乱
    人を斬っていた🐺が知り得なかったものを
    沢山知っている👓の話

    👓から貰ったものを大切にしてる🐺が見たかった

    ⚠🌸やしきアナウンスのネタバレが一部あります

    ##文スト

    ビー玉箱「福沢が乱歩に貰ったものをしまっておく箱」を
    「ビー玉箱」と呼んでいる。

    名前にビー玉と付いているが、入っているものは様々。五百円玉や貝殻、猫のぬいぐるみ……しまう前に食べてしまったが駄菓子なんかも入っていた。

    この箱は、乱歩がビー玉を福沢にあげた出来事に由来する。

    「福沢さん、ビー玉取って」
    周りから「探偵双人」と呼ばれるようになって間もない頃。
    学生服に身を包んだ乱歩は、福沢に買って貰ったラムネを再び差し出した。空き瓶には硝子玉が入っている。
    福沢は受け取った瓶の飲み口を回して外した。そのまま傾けるとビー玉が転がり出てくる。出てきた硝子の塊を布で軽く拭くと乱歩に返した。
    「わーい!ありがとう!」
    受け取った乱歩は、嬉しそうに中を覗きこんだ。福沢はその様子をまじまじと見つめた。
    「それ程にビー玉が好きか」
    「うん。好きだよ」
    乱歩が福沢に駆け寄り、めいっぱい手を上に伸ばす。福沢の目元にビー玉を近付けた。
    「光が反射して、硝子が色んな色になるでしょう。面白いんだ!」
    改めてよく見てみると、ビー玉は様々な色に変化しながら景色を映していた。自慢げにビー玉を掲げる乱歩だったが、黙ったままの福沢に気付き、乱歩が聞いた。
    「もしかしてビー玉覗いたことないの?」
    「然うだな」
    「勿体ない!こんなに面白いのに」
    空にかざしたビー玉は、透き通って多くの光を反射する。さっきまで濁った硝子の塊に見えていたが、ビー玉は別物のように見えた。
    「福沢さんなんだか嬉しそうだね」
    「綺麗だと思う」
    「ふぅん」
    僕にも見せて!と福沢の立っていた場所に乱歩が強引に押し入る。再びビー玉の中を覗くが、先程乱歩が見た景色とあまり変化はなかった。
    すると、乱歩が福沢の手を取った。乱歩の両手が離れると、福沢の手のひらには透き通ったビー玉が乗っている。
    「福沢さんにあげる!」
    宝石のようなビー玉を手に、福沢は驚いた顔をした。
    「良いのか」
    「そんなに嬉しそうにされたらね……大切にしてよね」
    「分かった。有難く受け取ろう」
    微笑む福沢を見て、乱歩は満足そうな顔をした。
    「これから僕、色んなもの福沢さんに持ってこようかなあ」
    福沢が知らないこのビー玉のような純粋無垢な宝物を、乱歩は他にも沢山知っているらしい。
    「福沢さん、受け取ってね」
    「楽しみにしている」
    「約束だよ!」

    この日からビー玉箱は誕生し、時が経つにつれて箱の中も賑やかになっていった。

    ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

    凄まじい足音が近付いて来ていた。
    部屋の中にいる福沢は顔を顰めた。額に手を当てて溜息をひとつ吐く。
    「社長ただいまー!」
    ドアを吹き飛ばすように、勢い良く浴衣姿の青年が部屋に入ってきた。
    「楽しかったか」
    「うん!」
    乱歩は浅草のとある遊園地に遊びに行って、今帰ってきたのだった。いつもは探偵帽子をかぶっている頭には狐の面が乗っており、楽しかったのが伺える。
    人が怖いと言って人見知りだった子供は、いつしか友を持っていた。子供のような彼だが、乱歩はあの日から確実に成長していた。福沢は嬉しいような寂しいような目で乱歩を見守る。
    「馬車に乗ったり、回転する仕掛けの遊具に乗ったり、まあ仕掛けはバレバレだったんだけど……あと的当てで……」
    乱歩が手提げの中に手を突っ込んで何かを探している。持って行ったのであろう駄菓子がぽろぽろと溢れ出ている。福沢は黙って落ちたそれを拾い上げた。
    あった!とお目当てのものが見つかり、布袋から手が飛び出す。
    乱歩は嬉しそうにそれを福沢に差し出した。

    「これ、お土産」

    微かだが福沢の顔が綻んだ。

    「ああ。有難う」

    あの日から、二人の周りは随分変わった。成長だってした。しかし、あの日の約束は変わらない。

    ビー玉箱の中はいっぱいになっていた。
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