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    ogawa_m_a

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    ogawa_m_a

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    何かあったりんねくんと、なにもないにきくんのSS後のおはなし。ニキ燐だけどにきくんを抱きたがるりんねくんがいます

    アパートの階段を上る音。それを聞きながら、僕は玄関に迎えに出る。いつもよりずっと重い足音。もしかして何かあったのかな。
    最近、燐音くんの立場は良くない。どんどん後ろ盾がなくなって、どんどんお仕事がなくなって。唯一のレギュラーだった地方のラジオも、先月末で終わってしまった。燐音くんは僕に愚痴を言わない。ただ、悔しくて苦しくて落ち込んでるのはにおいで分かる。メンタルってやっぱり、体調に影響しちゃうから。あと、お酒の量も増えたし。滅多にないけど、酔って泣いちゃう日だってある。僕にさえ弱みを見せたがらない燐音くんが、どれだけ我慢しているのかは想像もできない。僕にだけはかっこつけなくてもいいのに、それは燐音くんには一生理解できないのかも。
    ピンポン、とチャイムを鳴らしながら玄関扉が開く。「おかえり」と言いかけて、ぎょっとした。
    「ニキ」
    燐音くんはぐしゃぐしゃに泣いていた。
    何があったんだろう。燐音くん、今日は久しぶりの撮影に事務所のひとと行ったはずなんだけど。嫌なことがあったのかな。それともクビになっちゃった? ついに、要らないっていわれちゃったのかな?
    お腹の奥がむかつく。燐音くん、僕と出会ってからすごくすごく頑張ってきた。何も知らない異邦人だったけど、すごく頑張って色々と学んで、そして夢の世界に飛び込んだ。その努力の分を、取り戻したとは思えない。燐音くんはまだまだこれからなんだ。それなのに。
    僕の名前を呼んだ燐音くんが、ひぐひぐとしゃくりあげながら抱き着いてくる。そのまま玄関先に押し倒されたけれど、頭は打たなかった。燐音くんが頭を抱いていてくれたから。そっと痩せた背中を撫でる。痩せた。元々細いのに、今はごつごつの背骨が手に触る。セックスするときに、いつも骨が当たって痛くはないかと気になってしまう。まあ、こんな状況でたくさんごはんを食べて、太ってくれ、とはなかなか言えないけど。生きてくれているだけで、まあ、いいっちゃいいんだけど。
    ぼたぼたと僕の上に涙を落としながら、燐音くんは呻くように言う。
    「ニキ、抱かせてくれ」
    おお、そう来たか。
    「いいっすけど、とりあえずどいて」
    今まで、僕たち、セックスはしてたけど、僕が燐音くんに入れるばっかりだった。それは多分深い意味なんてなくて、ただ燐音くんが変な自己犠牲の精神を見せたから。それだけ。僕が苦しい思いをしないように、セックスを気持ちよくできるように、だから燐音くんは受け入れる側を選んだんだと思う。だけど、それだけだよ。燐音くんはそう思ってないみたいだけど、僕は別にどうしても燐音くんを抱きたい、そっちしかやりたくない、ってわけじゃない。
    「ごはん、できてるっすから。冷めちゃう」
    だけど、こんなふうにすることじゃないと思ってる。燐音くん、誰かに傷付けられちゃったのかな。だからむしゃくしゃしてこんなことを言うのかな。それとも、拒絶されたくて仕方がないのかな。燐音くんってそういうところがある。自分から傷付きにいくところ。自傷のひとつなんだろう、悲しくて悔しくて世界に必要とされたくて、だからこそ世界に背中を向けてしまう。その燐音くんの最後の拠り所である僕にさえ、拒絶されたいときなのかもしれない。
    「……なんで」
    だけど、僕は燐音くんのことを拒んだりはしないから。否定して、傷付けることもないから。
    うう、と泣き声を漏らして、燐音くんは首を振る。涙が僕の顔まで濡らしてゆく。
    「なんでいいんだよ」
    「え?」
    聞こえていたけど、聞き返す。もっと燐音くんの声を聞きたいから。燐音くんがかっこつけて僕には話さない彼の中身を、聞きたいからさ。
    嗚咽の合間に、燐音くんは涙を落としながら僕を睨む。
    「お前、初めてだろ。怖かったり嫌だったりしねェのかよ」
    「ん〜? だって、燐音くんにだって初めてはあったっしょ」
    燐音くんは怖かったのかな。痛かったのかな。痛かったのは痛かったんだろうな。初めてのとき、ずっと辛そうにしてたもん。だったら悪いことしたな、と思う。まあ、あれはあれで良かったし、今は今でいいんすけどね。
    さて、そろそろごはんにしようかな。
    「何があったかは話さなくていいっすけど、お顔は洗ってきて。べしょべしょっすよ」
    「……ッ、う」
    ほっぺを撫でてあげると、燐音くんは肩を震わせて泣き出した。それに確信する。多分、燐音くんの言いたいことはそんなことじゃなくて。したいことも、そんなんじゃなくて。
    「ね、ほんとはどうしたいっすか?」
    尋ねると、燐音くんは泣きながら黙り込む。ぐしぐしと涙を拭って身体を起こしてしまったから、僕も起き上がった。僕に跨って泣きじゃくる燐音くんを抱き締めて、よしよし、とあやしてやる。まだ靴も脱いでないじゃん、燐音くん。ごはんにしよう、大丈夫、ここには僕がいるし、まあ頼りないかもしんないっすけど、燐音くんがたくさん持ってる荷物のひとつやふたつは手伝ってあげられるからさ。
    「…………はら、へった」
    しばらく黙っていた燐音くんが、やっとそれだけ呟く。うん、でも、よかった。お腹が空くなら、ごはんが食べられるなら、生きられるっすからね。
    「なはは! じゃあごはん大盛りにするっすね! はい、うがいもしてきてよ」
    「ん」
    頷いた燐音くんが、のろのろと立ち上がる。ゆっくりと洗面所に行く彼を見送って、僕も再び台所に立った。
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