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    piyokostory

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    piyokostory

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    ドルパロまろすいちゃんシリーズ

    Superstar 空気が冷たく澄んできたとを感じる冬。
     都心の光害に負けない強い星だけがよく見える夜に雑誌の撮影が予想よりも早く終わった清麿がいそいそと家路に向かっていた。
     「ただいま」
     セキュリティがしっかしてるマンションの部屋の玄関を開けながら挨拶するがシーンと静まり返った沈黙だけがおりた。
     いつもなら同居している水心子がすぐにやってきて「おかえり!」と笑顔で迎えに来てくれるのにそれがない。水心子のスケジュールでは午後からオフだから先に帰ってると思ったのに……水心子が待ってない家が寂しいと思うなんて小さい子どもみたいだ。
     清麿は寂しさを感じながら靴を脱ぐと廊下の向このリビングの扉が少し開いてて、細く長い光もれていることに気づいた。
     ――――水心子、帰ってきてたんだ。
     家に水心子がいてくれただけで寂しさはどこかへと飛び消えて、変わりにあたたかいものが込み上げる。
     もしかしたら、発売したばかりのアイドル情報雑誌を読むのに夢中になって帰ってきた清麿のことに気付いてないかもしれない。
     水心子は趣味のアイドル情報収集に没頭すると周りがみえなくなる。その時の水心子はとても楽しそうなので邪魔をしないようにしてるが……その間は自分のことを構ってくれなくてつまらない。そんな小さな不満を抱いている清麿は閃いた。
     そうだ。こっそりと近づいて驚かせよう。
     素直な水心子のことだから目をまんまるにしてすごく驚くかも。
     好きな子の反応をみてみたいといういたずらっ子のような笑顔を浮かべる清麿であった。
     なるべく物音をたてないように廊下を進んでリビングの扉からこっそりと中を覗く。
     すぐに見えるリビングの炬燵には水心子はいなかった。
     ふわりと鼻腔をくすぐるのは食欲をそそるスパイスの香りが漂ってきて、夕飯のカレーを作っているんだとすぐにわかった。
     リビングの奥は水心子と一緒に料理しても圧迫感を感じさせない広々としたオープンキッチンがあり、流し台の前にあるカウンターテーブルに置かれた水心子のスマホからは音楽が流れていた。
     音楽は清麿が半年前に初めて出したソロ曲。
     初めて歌詞作りに挑戦して、目の前の大切な人に向けて作った思い出の曲。
     それのボーカルオフのメロディーだけの曲に合わせて水心子の声が優しく鳴る。

     ラララー、ララー、ラララララーラー……
     
     大きめの鍋に入ったカレーをかき混ぜている後ろ姿しかみれないけれど、曲に合わせて歌う水心子から清麿の曲が大好きだという気持ちが伝わってきて、心の中がくすぐったい。
     清麿はさっきまで驚かそうとしたことも忘れて水心子の楽しそうな鼻歌に耳を傾けた。
     

    「よし。こんなものかな」
     スマホから流れてた曲が終わるとの同時にカレー鍋の火を止めた水心子。
     今日のカレーは小竜から教えてもらった隠し味が入っている。清麿は何かわかるかな。
     そんなことを考えていたら後ろからパチパチと楽しげな拍手が鳴り響く。
     いつの間にかニコニコ笑顔の清麿がそこにいたことに水心子は猫のように驚き大きく跳び跳ねた。
    「き、き、清麿!いつから……!?」
     水心子の顔がみるみると赤くなる。
     誰もいないと油断してノリノリで歌っているところを見られた恥ずかしさもあるがそれ以上に清麿の曲を歌っていたことを清麿本人に聞かれてたこの気まずさはなんといえばいいのか…。
     頭の中がぐるぐるとしている水心子に清麿は嬉しそうな笑顔を崩さない。
    「けっこう始めの方から聞いてたって言ったらどうする?」
    「うわぁぁ!そういうのは早めの段階で声かけて止めてくれ!恥ずかしいじゃないか!清麿のいじわる!」
    「いじわるじゃないよ。とっても素敵な歌声だから止められなかっただけ。ねぇ。もう一回歌って!もっと水心子の歌を聞きたいな!」
     期待の眼差しをきらきらと向けながらおねだりをする清麿であった。
    「無理!今日はもうおしまい!!」
     その視線に耐えきれなくなった水心子が大きな襟元がついた部屋着で顔を隠してしまう。
     照れ隠しする水心子も可愛い。
     普段から水心子は清麿のソロ曲がすごく好きだといってくれるが、今日は最高の形でそれを実感できたことが嬉しくてたまらない清麿の気分があがってて……ついつい欲張りになってしまう。
    「じゃあ、僕も一緒に歌うから!それなら大丈夫でしょ」
    「ええ…。大丈夫とか大丈夫じゃないの話じゃない気がするけど……」
    「ほら、いくよ」
     水心子からのゴニョゴニョした言い分を華麗にスルーしながら清麿は水心子のスマホに表示されている曲の再生ボタンを押す。
     流れてくる穏やかで優しいメロディーに合わせて清麿はのびやかに歌い始める。
     歌う清麿の姿をみて、さっきまでのやり取りは忘れたようにぽーっとした熱がこもる瞳で見惚れている水心子。
     水心子はアイドルの清麿が大好きで「清麿の大ファンです!」と熱量を込めたファン全開のテンションになる。そんな水心子は面白くて見ていて飽きないが、同時に複雑な気分にもなっていた。
     だって、まさか最大のライバルがアイドルやっている自分自身になるとは……手強すぎる。
     清麿は苦笑しながらも水心子にアイコンタクトを送る。
      
     ――――――ほら、水心子も一緒に歌ってよ。

     それを正確に汲み取ったらしい水心子は我に返り戸惑ったようだが……笑顔いっぱいの清麿が作る断りにくい雰囲気に負けて、清麿の歌声に隣り合わせるように声を出していく。

     ラララー、ララー、ララララララー……
     ラー、ラララー、ラララーラーー
     
     やがて二人の声が重なり、生まれるハーモニー。
     優しい光が溢れて詰まったような空気が部屋に満たされる。


     ■■■
     
     曲が終わり、一緒に歌えた喜びに満たされた心地よい余韻に浸る。
     水心子も途中から楽しそうに歌ってくれた。息を弾ませる水心子と目があって清麿はおだやかに目元をなごませる。
     清麿は水心子を優しく抱き締めて、まだしてなかった恒例の挨拶を改めてする。 
    「遅くなったけれど……ただいま!水心子!」
    「清麿、おかえり!」
     水心子も背中に腕をまわして抱き締めながら返してくれる。 
     こんな穏やかな時間をこれからも水心子と共有できたらいいなぁ。
     ささやかな幸せを想像する清麿の腕で水心子はもぞもぞ動いて顔をあげる。
    「やっぱり清麿の歌はすっごくかっこいい!いくらでも聞いていたい!」
    「水心子に喜んでもらえるならいくらでも君のために歌うよ」
     水心子が「キザな台詞だなぁ」っと面白そうに笑うが清麿は本気の本気でそう言っている。
     それに気づかない水心子がひとしきり笑ったあとに清麿に話しかける。
     内緒話するように少し小声で……。
    「……明日、いよいよ僕もソロ曲のレコーディングに初めて挑戦するんだけど……」
    「知ってるよ。水心子が一生懸命に歌詞を書いて、いっぱい練習してるの近くでみえきたから。完成した水心子のソロ曲聞けるのがとっても楽しみだよ」
     清麿と同じように初めて歌詞作りから曲に関わることになった水心子。あっさりと歌いたいテーマが思い浮かんでさらさらと歌詞を書き始めた清麿と違って水心子は、ああでもない。こうでもないと苦戦しながら締め切りギリギリまで粘って書いていた。
     その歌詞を元に作られた初めてのデモ曲を一緒に聞いた時はかっこよくてまさに理想を追いかけて突き進んでいく水心子にぴったりなものだと清麿は思った。
    「僕は皆みたいにアイドルの才能もないし、尖った個性もなくて、いつも周りに助けられてここまできたから……初めて一人で歌うのは正直少しだけ不安だったりする……ここだけの話だけど」
     隣に清麿も仲間もいない正真正銘の一人だけの実力が試されるソロ曲。
     リーダーの安定のようにダンスが上手いわけでもない。小竜みたいに周りを楽しませるトークが得意なわけでもない。肥前みたいに楽器が得意だと自信もって言える特技があるわけでもない。清麿みたいに歌が上手くて笑顔を振りまくことができない。
     人前に立つ緊張を隠すために生まれたクールで堅物なキャラを作り演じながらなんとかアイドルをやっていけてると水心子は思っている。
     いくら練習しても緊張して間違える時もあるし、まだまだアイドルとしても未熟者で助けられてばかりだ…。
     水心子は清麿や周りのアイドルたちはベタ褒めで高い評価をするのにアイドルとしての自分には厳しく評価が低い。向上心の高さ故かもしれないが……見ていてもどかしい。 
    「水心子なら絶対に大丈夫だよ。アイドル活動に真剣に向き合って努力をしてる水心子のことを僕は尊敬しているし、水心子はアイドルとして誰にも負けないぐらい強く輝いてるって一番のファンとして何度だって断言するよ」
     水心子はデビューしたての頃よりも歌もダンスも格段に上手くなってきている。
     周りのメンバーに負けないように練習に励み急成長していく水心子の熱に引っ張られるように周りのメンバーも真剣に練習に打ち込む空気を作ってユニット全体のパフォーマンスをあげる一因を作り出すすごいところがある。
     それに緊張を隠すためにできたクールで堅物なキャラだとしてもそれも今では十分アイドルとしての強い個性と武器にになってる。
     クールでかっこいい水心子だけでなく時折見せる素直な行動や笑顔が可愛い水心子がたまらない!……と、水心子のギャップやられるファンが増えてきている。
     ちなみに水心子がうっかりと素の自分を出すたびに「僕だけの水心子だから見ちゃ駄目!」とファンに対してマウントしようとする清麿を安定たちが全力で止めていることを水心子だけが知らない……。
    「そう言ってくれてありがとう。昔から清麿は僕に甘すぎるからほどほどに受け止めないと逆に駄目になっちゃいそうだよ」
    「水心子が自分に厳しすぎるから甘やかさせてよ。全部まるごと受け止めてほしい」
    「過度の甘やかしはよくない。それに僕には清麿の歌があるからきっと明日も大丈夫。乗り越えられる」
    「僕の歌だけでいいの?」
     首を傾ける清麿に水心子は大きく頷く。
     それから清麿の歌のすごさを語りたくてたまらないっと笑う。
    「清麿の歌は一番星みたいなんだよ。下を向いて歩いてる人が星を見上げるように背筋を伸ばしてまた頑張ろうって思える歌……だから、僕も僕の曲を聞いてくれた人が少しでも前向きになれるように願いながら歌いたい」
     屈託なく笑う水心子を見て、清麿は迷わずに歌詞を書き続けた日を思い出した。
     君に辛いことや悲しいことがあってもそれが少しでも軽くなりますように。
     自信が持てずに落ち込む時があっても明日に向かって一歩踏み出せる勇気を持てますように。
     どうかこの歌が少しでも君の笑顔につながるものになりますように。
     そんな風に込めた歌詞願いは伝わった。
     水心子に知られたらがっかりされるかもしれないけれど、清麿は大多数の人に向けて歌詞を書いたり、歌ってない。
     ただ目の前の届けたい大切な人に向けてまっすぐ歌うだけ。
     そしたら、それが巡りめぐって大勢の人に届いて……水心子が喜んでくれるものに出来た。
     今、清麿は人生で一番アイドルになってよかったと強く思えた。
     目頭が熱くなって込み上げるものに耐えながら笑う。
    「水心子ならできるに決まってる。だって、水心子は僕にとっての一番星なんだから」
     高校の頃、将来の夢もやりたいこともなかった清麿に「アイドルになればいいのに」っと思いもよらない道を照らして背中を押してくれたすごい一番星。
    「え!なんで泣きそうになってんだ?どこか痛くなったか?」
     うっすらを涙を浮かべる清麿に水心子は驚いて心配そうに頭を撫でる。
     小さな子ども相手みたいな仕草がくすぐったい。
    「痛くないよ。ただ歌の力ってすごいなって感動してただけ……僕もこれからもっとたくさん歌い続けたいな」
     清麿はこれからのことを水心子に語る。
     こんな風に明るく未来を想像できるのも水心子のおかげだと思うと愛おしさが込み上げる。
     そんな清麿からの眼差しを受けた水心子は頬を赤らめて視線をあてもなく迷わせてから……何かを決意したように清麿のことを見つめ返した。 
    「……あのさ、実はもう一つずっと清麿に伝えたいことがあって……笑わないで聞いてほしくて……」
    「なに?水心子からどんなこと言われても僕は笑わないよ」
     緊張した様子でしどろもどろになる水心子に清麿は根気よく待った。
    「僕はアイドルの清麿のことがファンとしてずっと好きだったけれど……それとは別にアイドルじゃない時のいつもの清麿のことが好……」

     
    『安定だよ!早く電話でないと首落とすよ!安定だよ!早く電話でないと……』

     
     リーダーの安定がメンバー全員のスマホに強制的に設定したやや物騒な着信ボイスが部屋中に盛大に鳴り響く。
     水心子はすぐに清麿から離れてスマホを掴んで耳元にあてる。
    「も、もしもし!?」
    「うわっ!すっごい慌てた声!もしかして、清麿となにか取り込み中だった?ごめんね!」
    「別に清麿とは何も取り込みしてない!本当に何もなかったから安心してくれ!」
     力強くそう何度も言うと逆に何かあったと疑われるのではないだろうか……と、清麿はそう思ったが黙った。
     水心子はさっき清麿に言おうとしたことを思い出すと恥ずかしさで倒れそうになるのを必死に我慢した。
     ちなみに、清麿は水心子と甘い良い雰囲気だったし、水心子からすごく大切なことを聞けそうだったのをタイミング悪く邪魔されて恨めしくて……電話の向こうの人物を睨んでいた。
    「そ、それならいいけど……僕らの活躍が評価されたらしくて『踊るトビウオ御殿』の出演オファーがきたんだよって報告したくて電話したんだ!」
    「え!あの今話題の有名人が呼ばれるという超人気トーク番組に私たちが!?しかし、芸能界の大御所で司会を務めるトビウオさんはトークの鬼と呼ばれて恐れられている人物だ。少しでもつまらない話だと判断されたらバッサリと出番をカットされて終わるという噂がある……果たしてトーク番組未経験の私たちが出演しても大丈夫だろうか…」
    「だからさ、バッサリと出番を切られない作戦会議のためにこれから水心子たちの家でするよ!あ、トビウオ経験者の清光もつれていくからよろしくね」
    「了解した。そうだ。夕飯にカレーを作ってあるのだが、よかったら安定たちも食べるか?」
    「カレー!ちょうどカレー食べたい気分だったからご馳走になれたら嬉しいな!あと、これから食後のケーキ買ってくるけど何がいい?」
    「ショートケーキがいい!……あ、いや、私はなんでもいい。安定たちに任せる」
    「オフだから無理に取り繕ろうとしなくてもいいのに。水心子がショートケーキなら清麿も同じものでいいよね!じゃ、また30分後に!」

     
     用件をさくさくと話して満足した安定からの通話が切れてツーツーと静かな機械音が響いた。
    「…………水心子、さっきの話の続きだけど……」
    「それはまた後日でもいいか。これから安定たちが迎える準備をしてカツオ御殿の作戦会議が始まる。これはメンバー全員、気を引き締めて挑まなければならない仕事だな!」
     控えめに話しかけた清麿の方へ勢いよく向き直った水心子の瞳が燃えている。
     彼はたまに強敵を前にすればするほど熱くなる心を持つ少年漫画の主人公みたいな時がある。僕の水心子が今日も最高にかっこいい。
    「そうだよねー…」
     逆に清麿は冷めた声音で遠い目をした。アイドルとして実力を評価されてもらえる仕事は大事なのはわかってる。清麿たちのアイドルユニットの知名度をあげられる大きなチャンスとなればなおのことやる気を出さなくてはならない。
     いつでもすぐにアイドル活動モードに入れる水心子を見習わないといけないと清麿は頭ではわかってても水心子からの重大な言葉が直接聞けずに終わったダメージが大きい。簡単には気分は切り替えられない。
     大きなため息がでそうになるのを必死に堪える清麿の手を水心子はそっと優しく握る。
    「……いろいろと落ち着いたら今度こそちゃんと言うって約束するから……一緒に頑張ろう」
     そういって残されたもう片方の腕で小さくガッツポーズする水心子によって清麿のやる気スイッチは簡単に押されるのであった。
    「水心子の可愛さが何もかもずるい!もちろん!全力で頑張るよ!!」
     それから二人は協力して、これからくるメンバーたちとカレーを食べながら作戦会議の準備を急いでするのであった。
      
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