「俺さあ、死ぬのが怖いんだよね。」
「それは…人間は誰だって、いや、生物として至極真っ当な感覚だろうな。」
「死そのものってより、皆んなに忘れられるのが怖い。死んで、そこらへんに転がってる石と同じモノになって、冷たい地面に埋められて、いつかは俺という存在が綺麗さっぱり忘れられる日が来るって事だろ?ヴォックスは?死ぬの怖くないの?」
「そうだな。そう思っていた時期も確かにあったが、もうそう思うには些か長く生きすぎてしまったかもな。死、というか俺のような者にとっては消滅、といったほうが正しいか。」
「消滅?」
「消滅。消えるんだよ。跡形もなく、な。死んだ後自分達がどうなるのか俺たち自身もよく分かっていないが、体の方は完全に消滅する。」
「何ソレ、なおさら嫌じゃん。」
「体が残ってても処理に困るだろう。悪魔が神妙な顔して葬式あげるわけにもいかんしな。」
「それ笑える」
「だろう?それにそもそも寿命が長いからな。あまり死というものに馴染みが無いのかもしれん。だからアレだな、未だに人の死には慣れない。」
「そんなもんか。」
「今でも夢に見るさ。愛しい子らが、救えなかった者達が、己の腕の中で息絶えてゆくその様を。無論、悲しいことばかり、というわけでもないが。」
「そんな事してて苦しくなんない?」
「まだ思い出せるだけ幸せさ。最早共に過ごした場所も、記録も残っていない人らの記憶と共に生きられるのだから。」
「本当の死とは皆に忘れられる事ってヤツ?」
「そうかもな。」
「フ〜ン。俺が死んだら皆連れて行ってやろうか?」
「遠慮しておく。俺が抱え込むって決めたのさ。俺が死ぬその日まで共に生き続けるってな」
「重っ。拗らせてんね〜」
「言っておくがお前も例外ではないぞ。忘れられたくないんだろう?願ったり叶ったりじゃないか。」
「そこまでしろとは言ってねえよ。」