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    nekonekota

    @nekonekotaの成人向け絵隔離兼デモエクファンアート置き場です 創作ルーキー勢

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    nekonekota

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    ノツグラバレンタインSS

    ##ノーツ
    ##グラウ
    ##ノツグラ

    まあるい、朝「……ん、おはようございます、ルーキーさ……」

     朝起きると、隣で寝ているはずの彼女が消えていた。
     あらかたトイレにでも行っているのだろうと思い布団をかぶり直したが、待てど暮らせど戻ってこない。

    「……いや。おかしい」

     そもそも僕より彼女が早起きをする事自体が珍しい事だ。いつもなら僕が声をかけると胸元から可愛い唸り声が返ってくるのが常なのに……と考えたところで、急激に意識が覚醒し頭がフル回転する。さっと血の気が引いて指先が冷たくなるのをやり過ごしながら、枕元に彼女のスマートフォンがない事を確認して電話を架けた。
     呼び出し音が空しく鳴り続ける中家じゅうを捜索し、玄関先に彼女の靴がない事を確認したところでこの世の終わりのような気持ちになる。

    「まさか……出て、行ったんですか……?」

     問いかけに答えは返ってこない。置手紙もない。『ただいま電話に出ることができません……』無機質な女性の声がスマートフォンのスピーカーから流れ、やがて電話が切れた。
     メッセージアプリで「今どこにいますか?」「何かありましたか?」と矢継ぎ早にメッセージを送り、同時にクローゼットや部屋の棚、ルーキーさんの机の中を確認する。
     どうやら荷物をまとめて出て行ったわけではなさそうだ。どういうことだ……?誰かに呼び出されて…?

    「心当たり……は、ない、けど……」

     さしあたって思い当たることはないが、ただ、強いて言えば、本当に強いて言えばだけれど、時々少し手ひどく抱いてしまう夜が……なくも、ない。それを気にして……いや、それにしてもそんな理由で彼女が僕の前から姿を消すなんて有り得ない。と思いたい。第一、そういうのも割と好きそうではあるような……? ……待て、そんなことはどうでもいい。
     ただ、ルーキーさんに危険が及んでいる可能性は捨てきれない。メッセージに既読がつかない事に頭の中が不安と焦燥感でいっぱいになる。普段彼女が親しくしている人間ならば何か知っているかもしれない。まさか異性に会いに行っただなんて考えたくもないが、非常事態だ。手当たり次第に共通の友人へ『ルーキーさんと今朝から連絡が付きません。何かご存じでしたら連絡を頂けますか』と、できるだけ丁寧にメッセージを送った。
     帰宅したら連絡をください。とだけ書いたメモを置いて、上着を羽織って家を出る。まだ寝起きの顔や手指に、冷たい空気が容赦なく突き刺さるようだった。

    「とりあえず駅かな……」

     思案している間にも、ルーキーさんへ電話を架け続ける。一体どこへ行ってしまったんだろう。
     もし、もしもこのまま帰って来なかったら———

    「ノーツさん!?」

    「……え、……」

     冷気と不安で指先の感覚がなくなるかと思った時、視界の外から素っ頓狂な声が聴こえた。それは、今僕が比喩ではなく自分の何を差し出してでも聴きたかった彼女の声で。

    「ルーキー……さん?」

    「し、し、心配かけてごめんなさい……!」

     夢か幻かと瞬きをする僕に駆け寄る彼女は、何やら右手に紙袋を持っている。

    「どこへ行っていたんですか? 一体僕がどれだけ心配したと……」

     安堵と同時に思わず語気が強まるのを抑えきれず、はっと口をつぐむ。すっかり委縮したルーキーさんは、いつもより二回りほど小さくなっているように見えた。そんな様子にいささか脱力して、とにかく無事でよかったと伝えて帰路につく。
     家までの道すがら、彼女はぽつりぽつりと経緯を話し始めた。

    「実は……今日、駅前のドーナツ屋さんでバレンタインデー限定のドーナツが売り出される日で……」

    「バレンタイン……? あ、そうか今日は……」

     すっかり忘れていた。今日は2月14日、バレンタインデーだ。

    「朝いちばんに並んで、手に入れてノーツさんが起きる前に帰ってこようと思っていたんですが……思ったより、列が長くって……」

     連絡頂いたのも見れてなくて、ごめんなさい、と先ほどにも増してしゅんとするルーキーさんが、手に持った紙袋をぎゅっと握りしめた。どうやら、僕を驚かせようとベッドをこっそり抜け出して駅まで出かけたらしい。うつむくルーキーさんとその心遣いに、先ほどの憔悴しきった僕の中の僕がまるで成仏するように雲散霧消していく。
     よく見ると二人分には紙袋がいささか大きすぎる気がしたが、見なかったことにした。

    「心遣いはすごく嬉しいですが、あまり心配をかけないでくださいね」

    「はい……本当にごめんなさい……」

    「ふふ。もういいですよ。帰ったらあったかいアップルティーを淹れましょう」

    「……はい!」

     紙袋を持っていない方の手を取って、上着のポケットに招き入れる。冷え切った彼女の指が、おずおずと僕の手を握り返してきた。
     さて、ホワイトデーはどんなお返しをしてやろうかな……と思案しつつ、友人たちへ送ってしまったメッセージの後処理に追われるほんの少し先の未来から目を逸らした。
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