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    本丸のみんなにお付き合いの報告をする燭へしの話です。
    ※色々と甘い
    ※長谷部愛され
    ※花丸に似た本丸の話です

    前回投稿した話と同じ本丸かもしれない
    だとしたら順序が大きく反対ですな、はっはっは

    本丸にお付き合いの報告をする燭へしの話「主くん、喜んでくれてよかったね」

    外からは鳥の声や風の音しか聞こえない、シンとした夜だ。
    布団の上に寝そべる長谷部の手を握りながら、彼と向かい合うように横たわった燭台切は穏やかに言った。

    「ああ。刀同士のこんな関係を認めてくれるなど…つくづく懐の広い主だな」

    そう返す長谷部の表情は普段よりも幾分か柔らかい。

    二振は先日、めでたく恋刀となった。人の身になって初めて感じる、甘く、楽しく、時に苦しい恋心というものに悩みながらも気持ちを育んできた。幸いお互いの気持ちは通じたが自分たちは何よりもまず刀剣男士で、主の所有物である。今後本丸で恋刀同士として生活をしていくためにも、最初に主へと報告をしたのだった。
    主の反応は非常に快活なものだった。元が刀であるとはいえ今は人の身。皆には楽しんで生きてほしいがモットーの彼は、まず二振りが恋をしたということを大層喜んでくれた。
    さらにはその気持ちが通じ合うということは実は当然ではなく、尊いこと。楽しいばかりではないだろうが是非良い関係を築いていってほしいこと。そしてなかなかの古株で、本丸の中心メンバーでもある長谷部と燭台切がそういった関係になることで、今後他の刀達も同じように恋刀の表明をできるのではないかと、まあ色々と話をされた。
    応援してるよ、とこの上ない言葉を賜って長谷部の部屋へと戻ってきたのだ。

    「さて、明日はいよいよ皆にお披露目だね」
    「…………ああ」
    「ふふ、緊張する?」
    「緊張というか…。あいつらに伝えるのは、なんだかその…」
    「…恥ずかしい?」

    長谷部は答えない。
    沈黙を肯定と受け取った燭台切は、たしかに少し照れくさいよねと小さく笑った。
    主に交際の許可を貰い、次に控えているのは本丸の仲間たちへの挨拶だ。長谷部は主の代理として本丸の運営に携わることが多いし、燭台切も仲間たちのフォローをよく行っている。主も言っていた通り本丸の中心メンバーと言える二振りのため、内密に交際をすることはおそらく難しい。そして何より、二振りの大切な大切な仲間たちにはどうか自分たちの口から直接報告をしたかった。
    とはいえ、仲間への報告は主への挨拶とは話が違う。気のいい連中とはいえ、一癖も二癖もある者達ばかりなのだ。からかう者に囃し立てる者と、こちらが困ってしまうような反応をする者達が多々いるだろう…ああでも、素直に喜ばれてもそれはそれで恥ずかしいような。
    皆の反応を予測し、長谷部が無意識に息をつくと燭台切がまた口を開いた。

    「まあ、一筋縄ではいかないだろうね」

    その言葉に長谷部は小さく目を見開く。それはまるで、許可が降りないだろうというような言い方だった。
    しかしその反応もおかしくはない。自分たちは刀剣男士だ、その責務は歴史を守ること。人の真似事をしながら和気あいあいと生活する必要などそもそもないし、ましてや人間のように恋をして恋刀という存在を作るなど言語道断……という考えの者がいてもおかしくはない。かつての長谷部の考えだってそれに近かった。
    しかし人間味を大事にしてくれる主の本丸に顕現され、仲間達と暮らすうちに、人が抱える気持ちや心といったものと向き合うを大切さを知った。仲間の存在の尊さも、だ。だから、できれば。冷やかされたっていいから、仲間にも自分たちの関係を受け入れてほしい。

    長谷部の表情が少々強張ったのを、燭台切は見逃さなかった。

    「緊張させちゃったかな、ごめんね」
    「……反対されるだろうか」
    「ううん大丈夫、みんなきっと祝ってくれるよ……ただ、一波乱起こりそうだなって」
    「はらん」

    言いながら燭台切はゆったりと長谷部の頬を撫でる。薄い苦笑いを浮かべながらも、今日も今日とて彼の顔の造形は美しかった。長谷部を見つめる瞳は熱く、吐く声は甘く、言動は優しい。燭台切が好きだという気持ちで胸がいっぱいになり、そして長谷部はハッと勢いよく体を起こした。

    「うわっ、どうしたの長谷部くん」
    「起こるぞ、一波乱!」
    「えっなにが」

    ぱちくりと、これまた綺麗な形の隻眼を見開く燭台切に叫ぶ。
    そう、燭台切ってば非の打ち所のない刀なのだ。刀剣男子としての強さに問題が無いのは勿論。眉目秀麗で、周囲への気遣いも抜群。他刀との接し方がフランクで穏やかなこともあり彼を頼る刀は多い。料理も得意で皆の胃袋だって掴んでしまっている。
    一方長谷部と言えば、この本丸の雷親父だというのが皆の印象であろう。堅物、主命バカ、はり切り主命長谷部など、あれこれ呼ばれた回数数知れずだ。片や皆が「あっ燭台切さんだ!」と近づく伊達男。片や皆が「わ、長谷部さんだ逃げろ!」と離れていく雷親父。
    そんな、本丸の太陽のような燭台切と嫌われ者の自分が恋刀になったと皆に伝えるのだ。そりゃあ、お前に燭台切さんは渡さない!!…なんてことを言われるのは目に見るより明らかであった。
    そこまで考えて思わず拳をギュッと固く握りしめた長谷部を、自身も体を起こした燭台切が後ろから抱きかかえる。

    「はーせーべーくん。どうしちゃったの?」

    長谷部を抱きしめる腕も、耳元で囁く声も温かくて優しい。誰だってこの男を好きになる。
    だからなんだ、もう長谷部の燭台切なのである。誰よりも燭台切を頼って、誰よりも燭台切を大好きな自信が長谷部にはあった。
    思い立ったように長谷部はキッと振り返り、燭台切を力強く見つめる。

    「誰がなんと言おうと、もうお前は俺のものだ!」

    この想いの強さは主への忠誠心にだって匹敵するくらい硬くて強いのだ、俺の想いは砕けない。とやかく言われるなら、どれだけ自分の気持ちが大きいかを伝え返してやる。誰よりも燭台切への想いが強いことを何度だって皆に伝えて、そして認めさせてやる。
    ……という決意を込めてそう叫んだのだが。
    長谷部の言葉を真正面から受け止めた燭台切は形の良い瞳を大きく見開くと、黒い手袋をつけた片手で顔を覆ってしまう。

    「…熱烈。ほんとに君はかっこいいね長谷部くん」
    「事実を述べたまでだ。誰がなんと言ってこようと必ず認めさせてやる」
    「ふふ、同意見だよ」

    そう言い、手を顔から離す燭台切の纏う空気がガラリと変わった。先程までの甘やかな態度は一瞬でどこかへ消えて、熱の籠もった金の眼差しが長谷部を焼くかのように突き刺す。

    「…、しょくだい、きり?」

    突如変わった空気に長谷部が体を硬くすると、大きな手で顎を包み込むように掴まれてしまう。先程までの、ふわりと優しい触れ方ではなかった。身を捩ることすら許さない、強い力。かちんと固まってしまった長谷部に、吐息が感じられるくらいまで近く燭台切がその綺麗な顔を寄せる。

    「……君も、もう僕のものだよ」

    零れ落ちた声は熱に燃えていて、長谷部は反射的に燭台切を押し返そうとした。いくら色事に疎い堅物長谷部とて、これはわかる。あまりにもわかりやすく、長谷部はその身を喰われそうになっていた。

    「なっ、だ、だめだ燭台切!!そういうのは、まだ…!」
    「でも主の許可は貰ったじゃないか」
    「まっ、まだ!!皆への話が…!」
    「皆にも話した後じゃないと、僕は君に触れられないの?君が今言ったんだろ…僕は君のだし、君は僕のだ」

    先程までの穏やかな声音はどこへだか、ジリジリとした熱さを孕む声で囁かれながら力強く腰を抱かれる。
    今までも少し、色っぽい雰囲気になることはあった。しかし何がスイッチだったのか、ここまで情熱的に燭台切が迫ってくることは始めてで。
    腰を抱く手がぞわりと、体の形をなぞるように動いたことで長谷部の色事への免疫は限界を迎えた。

    「っの、色ボケ伊達男!!!!!!!!」
    「いったあ!!」

    投石自慢の腕から容赦ない一撃が燭台切の腹に放たれ、二振りの初夜は延期となったのであった。

    □□□□□

    「あの、みんな食事中にごめん。僕と長谷部くんからみんなに伝えたいことがあるんだけど、少しいいかな」

    この本丸では、食事の際は皆が大広間に集まって食事をする決まりだ。なので何か連絡や報告があれば、この時間が使われることも多い。
    食事中とは言いながらも多くのメンバーがほとんど食べ終わり、歓談を楽しんでいるタイミングで長谷部の隣に座っていた燭台切が皆に呼びかけた。ガヤガヤと騒がしかった刀剣達が、声の出元に注目する。

    (遂にこの時が…!!)

    長谷部はキュッと拳を握る。結局昨夜から一日中、皆への報告のことを考えてはかちこちに緊張してしまっていたのだ。
    なになに~?だとか、どうしたんですか~?だとか、ざわつく皆の声一つ一つが大きく聞こえる。
    すると長谷部の拳にスッと燭台切の手が重なった。思わず彼の方を見上げると燭台切は優しく微笑み、「大丈夫だよ」と小さく囁く。その言葉と表情に長谷部が小さく安堵すると、彼は広間にいる仲間へと顔を向けた。
    その横顔が少し硬く、ああ彼も緊張しているのだと長谷部にも伝わる。燭台切はフ、と一つ息をつくと、決心したかのように口を開く。

    「僕と長谷部くん、お付き合いをさせてもらってます。」

    燭台切の凛とした一言に、今までのざわつきが嘘のように大広間がシンと静まり返った。あまりの静寂に自分のドクンドクンという心臓の音が何よりも大きく聞こえるくらいだ。
    きっと今が刀生で一番、緊張している。さあかかってこい、誰がなんと言おうと燭台切のことは俺が一番好きなんだと断言してやる、伊達仲間であろうと太刀仲間であろうと厨仲間であろうが負けやしない……と考えていると、まず聞こえたのは突き抜けるようなワッとした歓声だった。

    「なんだよかしこまっちゃって、そんなこと知ってるよ!おめでとう!」
    「お前ら見てればわかるっつーの!」
    「ははは、それで二人ともなんだか緊張してたんだね。報告してくれて嬉しいよ、おめでとう」

    一気にがやがやと、皆が口々に祝福を口にしてくれる。そんな言葉は全て長谷部に突き刺さり、じわじわとその胸を温めた。

    「燭台切っ…!」

    思わず、皆に声高々に報告をしてくれた隣の恋刀を見上げると彼もそれは嬉しそうに笑い返してくれた。
    ああ幸せだ。
    あまりの胸の高鳴りから、長谷部の目元がゆるゆると揺れ始めた、その時だった。

    「いやです!!!」

    一つ、高い声が飛んできた。誰の言葉かとそちらを見る間もなく長谷部の体が後ろから強く引っ張られる。

    「わっ…なに、誰だ!」

    なんとか転ぶことは避けられたが、燭台切から数メートルほど離れた所へ引っ張られた。勢いよく下から引っ張られたため長谷部は膝をカクンと折り、正座の体勢で座らされる。
    やっぱりいたか反対勢力。やはり一筋縄ではいかなかったようで。
    思わず少し離れてしまった燭台切を見ると、彼はきょとんとした後にクスクスと笑っていた。
    この、仮にも恋刀である俺が大変な時に何を笑っていると声をあげようとすると。

    「しょくだっ……、なに…?」

    長谷部の声が出る前に、正座をしていた膝の上に温かいものが乗る。目をやれば短刀がちょこりと長谷部の膝の上に座っていた。彼は長谷部に背を向けて座っていて、その顔は見えない。上からわかるのはサラサラとした、亜麻色の髪。

    「…今剣……?」

    膝の上に乗っていたのは、この本丸で長谷部と共に古株として過ごしてきた今剣であった。こうして彼を膝の上に乗せて絵本を読んでやることも度々あったが、今は名前を呼びかけても普段のように朗らかな返事は帰ってこない。彼は後ろ手でギュウと長谷部のジャージを掴んでいた。その細い腕が、ふるふると震えている。
    ただならぬ様子においどうした、と声をかけようとして、しかしその言葉はまたもや続かなかった。

    「そーですよね!!僕たちの長谷部さんをモノにしたいならみんなを倒してからにしてもらわないと!」

    そんな声が聞こえると同時に右肩に重みを感じたからだ。カラカラと明るく冗談を言いながら長谷部の肩に手を置いた、黒髪の脇差を見上げる。

    「はあ…?おい鯰尾、何をふざけたことを……」
    「えー、冗談じゃないですよぉ」
    「…ぼくも、寂しいです……」
    「ぼくもです、長谷部さん!」
    「うわ、なんだお前たち…!」

    どんどん湧いてくる刀剣達に、長谷部は遂に反応をしきれなくなった。
    長谷部の右手を控えめに握るのは五虎退、後ろから腰にギュウッと抱きついてきたのは秋田か。そしてひときわ強い力で左腕が引かれる。

    「みんながそんな感じなら俺も参加しちゃおっかな~。うちの長谷部は渡さーん!…なんちゃってね」
    「お前までなんだ加州…!…さっきは喜んでいたように聞こえたんだがな」
    「え~、だってさ。そりゃお前たちには幸せになってほしいよ?でもなーんか面白くないっていうかさぁ」

    そう言いながら左腕に絡みついてくる加州に、長谷部は困惑する。初期刀として本丸の仲間達と交流の深い加州だが、こうして自分から誰かに引っ付くことは珍しいのだ。それがどうしてこのタイミングで、それもこんなに強い力で長谷部の腕にしがみついてくるのか。
    体のあちこちを固められてもう振り返ることはできないが、背後から他にも声が聞こえる。
    「やれやれ、貴方もモノ好きですねぇ燭台切」「うちの姫さん持ってこーってなら、それなりの誠意を見せてもらわねえとな」「うちの長谷部は安くなか!」…だのだの、なんだか可愛げのない言葉もあった。
    「お前たちなんなんだ!」とキョロキョロしながら言い返してみるものの、皆がやがやとしていて長谷部の問いかけに返事をする者はいない。なんだこの流れは、どうしたものかと困惑をしていると、膝に座る今剣の様子がいよいよおかしいことに気づいた。彼は相変わらず後手に長谷部のジャージを掴んだまま、何も言わずに体を震わせている。

    「……今剣?」
    「いや、です」

    できる限り優しく声をかけると、小さな返事が帰ってきた。

    「ぼくたちの、はせべさんなのに」

    そして肩を震わせながらこんなことを言った。長谷部はその言葉に目をぱちくりとさせて固まってしまう。
    そうだこいつら先程から、うちの長谷部だの僕らの長谷部だの何をお門違いな主張をしているのか。しかし誰も今剣の言葉を否定しようとはしなかった。

    「今剣?俺と燭台切が……その、恋仲になるからと言って、主の刀でなくなるというわけでは…」
    「そんなのわかってます」

    おろおろと、今剣をなだめようとするも食い気味に否定をされてしまう。それどころか周りからも「あ~もう、そういうことじゃないじゃん…」「トンチンカンにもほどがある…」と落胆の声が聞こえる。要領の得ない流れにじわじわと苛立ちが生じ、言い返そうとするも今剣がまた話しだした。

    「ぼくたちはあるじさまのかたな、それはそうです。でも…」
    「?でも……?」
    「はせべさんは、かたなのいちばんに、しょくだいきりさんをえらぶんでしょう!」

    今剣はそう言いながらバッと長谷部の方を振り向き、ようやくその顔を見せた。普段のように楽しげな笑顔はそこにはない。大きな瞳いっぱいに涙を溜めて、顔中を悲しげに歪めさせていた。

    「ぼくたちのはせべさんなのに!」
    「今剣落ち着け、どうしてそんな、泣いているんだ…っ?」
    「みんなの、はせべさんなのにぃ…~~!」

    今剣はついにぽろぽろと涙を零し、長谷部にギュウと抱きついてその胸元に頭をぐりぐりと擦り付けた。小さな頭を撫でて宥めてやろうにも、両手を拘束されていてそれは叶わない。
    それだけでない、後ろからまとわりついている短刀達も、腕にしがみついている打刀も。みんなの長谷部を掴む力が強くなった。
    訳の分からない展開に困り果てて思わず正面を向くと、食事の時よりも少し離れた位置でこちらと向き合っている燭台切が、堪えきれない様子でクククと笑っているところだった。
    長谷部が、わらわらと湧いた数振りの刀剣に囲まれているのに対して燭台切は誰にもまとわりつかれていないようである。
    お気楽で良いものだと、少々恨みがましく彼を睨んだ。

    「こりゃ大変だ。ここから光坊がどうひっくり返すのか、見ものだなあ?」
    「頑張れみっちゃん!ここで決めなきゃ男が廃るぜ!」

    伊達時代に燭台切と馴染みのあった連中は、燭台切の応援をしながらも長谷部と燭台切のちょうど中間位置を陣取っている。馴れ合うことを嫌う大倶利伽羅もこの場を離れること無く、彼らと一緒になって燭台切を見つめていた。
    皆の注目を集めた燭台切はようやく笑い終わったかと思うと、さて、と長谷部の方に体を向けた。キチリと正座をし、背筋を伸ばした姿はさすがサマになる。

    「そうだね、格好良くキメてみんなに認めてもらわなくちゃ」

    長谷部にまとわりつく仲間達の様子を見てどこか幸せそうに微笑んだ燭台切の、しかしその瞳はとても真っ直ぐで。
    一方長谷部はこの状況がこれっぽっちも理解できない。だって本来なら、みんなの大切な仲間である燭台切と恋仲になることを詰められて然るべきなのだ。どうしてお前のような口うるさい刀に燭台切をくれてやらなければならないと、そう言われる覚悟で今日を迎えた。それがどうだ、実際には長谷部の胸でシクシクと泣いている今剣を始め、数振りが長谷部にまとわりつき、そうでない連中数振りも長谷部の周りを陣取って心なしかジトリと燭台切を見つめている。これじゃあまるで、長谷部の想定とは真反対の。

    「どうやら長谷部くんは勘違いをしているようだけど」

    長谷部の混乱を断ち切るかのように、燭台切の声が通る。

    「一筋縄ではいかないと言ったのはこの事だよ。みんなの長谷部くんを、僕が貰ってしまうから」
    「…は……?」
    「君は、この本丸の仲間ほぼ全員と毎日話すだろう」

    燭台切の言葉に長谷部はきょとんと瞳を丸くする。彼が言ったことが、あまりにも当然のことだったからだ。長谷部は主の代理として何かあれば皆を収集して連絡をしていたし、やれ内番をサボっただのやれ部屋を散らかしただの、不届き者をガミガミと説教もしていた。遠征や出陣のメンバーを集め、司令を伝えて見送りもしていた。そりゃあ皆と接する機会が増える。そんな長谷部にとっては日常的なことをどうして急に。

    「君が普通だと思ってることは、実はみんなにとってはまったくそうじゃない。元の主が同じだったり、兄弟だったり…所縁のある刀同士で一緒にいることが多い中、君は皆と平等に接している」
    「それは…、俺は主の代理としてだな…。それに、こいつらがいつも問題ばかり起こすから!」
    「うん、長谷部くんが叱ってくれるんだ。…相手が誰であってもね。それって本当に、当たり前のことじゃないんだよ」

    燭台切の言葉に、そーそーあんなにガミガミ叱るの長谷部くらいだよ、こんな雷親父が本丸に何人もいたらたまんないっつーの!なんていう声があがる。文句に聞こえるそれらだが、不満の声音ではなく。

    「この本丸のためにみんなを叱るんだよね、君は。でも叱ってくれる人ってそう多くないんだ。人に怒るってエネルギーがいることだろう?どうでもいい相手にそんなことする人はいない」
    「違う、俺はそんな…」
    「出陣の前だって。いつも当然のように必ず僕たちを見送ってくれるけど、それは主命じゃなくて君の意志でやってくれてるよね」
    「…それは、そりゃ……」
    「うん、わかるよ。この本丸の古株である君はみんなの出陣を心配してくれてる。そして送り出してくれるんだ…『絶対に全員で帰還しろ』と言ってね。…そんなの、大好きになってしまうだろう」

    燭台切の最後の一言に、長谷部は息を震わせた。
    違う、そんな大層なものではない。お前たちは毎日何か騒ぎを起こすから。本丸の規律を正すために、刀剣男士としての心得をわからせるために叱っているんだ。見送りだってそうだ、歴史を守るべく命をかけて戦いに行く彼らを主の代わりに言葉をかけて見送っているのだ。そりゃ、勿論長谷部だって皆の無事を祈っている。主の持ち物である刀剣達を……長谷部の仲間である皆を、大切に思わないわけないだろう。
    そう思うのに、言い返せるはずなのに燭台切の言葉一つ一つが突き刺さって話をすることができない。胸がじんわりと熱くなって、はくはくと息を吐くことしかできなくて。
    燭台切はそんな様子の長谷部を見て柔らかく微笑むと、言葉を続けた。

    「僕たちの本丸の中心、…みんなの長谷部くん。みんな君が大好きで、大切なんだよ」
    「っ、ふ、ぇ……」

    甘く、優しく、温かい言葉の連続でいっぱいいっぱいの長谷部を、金色の瞳が逃さず捉えて見据える。

    「でも、君のことを一番大好きなのは僕だから」

    凛とした熱い眼差しで長谷部を見つめながら放たれた、まさに燭台切自身の太刀筋のような熱烈な一言だった。世紀の伊達男による真正面からの一撃に、ワアッと歓声が湧き上がる。
    「うっわ~~、強烈……俺まで照れちゃうよ」と言うのは相変わらず長谷部の腕を離さない加州だ。後ろからは「流石伊達男ですねえ、これは長谷部も腑抜けになるわけです」という宗三の声も聞こえる。非常に不服ではあるがおっしゃる通り、それまでの連続口説き文句に長谷部はへろへろと呆けていた。仕方がないだろう、こんなの。顔から体つきから声から中身から、何から何までこの世の特上である男からこんな攻撃をくらって誰がまともに受け答えをできるというのだ。

    「だから、みんなに認めて欲しいんだよね。……皆さんの長谷部くんを、僕にください」

    そう言って燭台切はピシリと伸びていた背筋を丸め、頭を下げた。みっちゃんやるなあ!だの、きゃーっドラマみたい!これって、『ムスメサンヲボクニクダサイ』ってやつー?!だの、またもや外野からの歓声が湧く。
    皆が好き勝手に話す中、それまでクスンクスンと長谷部に抱きついて泣いていた今剣が顔を上げた。長谷部の内番用ジャージの胸元はしっとりと濡れてしまっている。

    「今剣…?」
    「そんなにいうなら、しょーめーしてください」

    心配そうに呼びかける長谷部の声かけには答えず、すっかり鼻を赤くした今剣はそう言って、再び燭台切の方に体を向けて長谷部の膝に座った。長谷部の肩に手をついていた鯰尾が楽しげに「証明ですか?」と問いかける。

    「そうです!はせべさんのことをどのくらいすきか、わからないとはせべさんをあげるわけにはいきません!」
    「ほほう…そりゃあそうだ。で、どうやって証明してもらうんだ?」

    にやにやと面白そうに質問した鶴丸に、今剣はキリリと答えた。

    「はせべさんのすきなところ、いいあいっこしましょう!!」
    「っ?!おい今剣?!」
    「もししょくだいきりさんが、ぼくたちよりもはせべさんのすきなところをたくさんいえたら…、はせべさんをしょくだいきりさんにあげます!」

    今剣の提案に思わず声を上げたのは長谷部の方である。今なんと言ったかこの短刀は、好きなところの言い合いと聞こえた気がしたが。
    周囲にもはっきりとそう聞こえたらしく、皆くすくすと笑っている。

    「おや、そうなるとこちらが不利ですね…僕は思いつきません」と、わざとらしく溜め息をつく宗三に、加州が「えー、俺はけっこういける気がするな」と返事をする。「良い案が思いつかなくても数で勝負しましょう!こっちには人数がいますし!」と答えるのは鯰尾だ。どいつもこいつも、可愛げのない。敵か味方かどちらなんだと、「お前らな…」と言いかけた長谷部の言葉はカラリとした声に遮られてしまった。

    「そいじゃ、俺たちもこっちに参加するか!」
    「毎日みっちゃんから惚気聞いてるんだからな、俺だって長谷部くんの良いところはけっこう知ってるつもりだぜ?なっ、伽羅!」
    「…くだらん」

    いつの間にか長谷部の後ろに回っていた伊達の連中が口々に言う。本人達は楽しそうに話しているが、そうなると燭台切はいよいよ一人だ。最大の味方達もいなくなってしまった彼は口元を手で覆いながら楽しげに笑って、金色の隻眼をゆるりと長谷部達に向けると。

    「君たち何人がかりでも負ける気がしないけど、いいんだね?」

    綺麗な笑顔を作ったままそう言った。

    その一言に長谷部の心臓が大きく跳ねる。はふはふと息が詰まりそうになっていると、長谷部の周りも勢いよく騒ぎ出した。ギャアギャアと叫ぶ様はまるでお祭り騒ぎだ。

    「ぼくたちをなめてるといたいめみますよ!まずはぼくです!はせべさんはごほんをいっぱいよんでくれます!」

    一番槍(短刀だが)は今剣となった。可愛いアプローチに長谷部の心臓はキュンと疼く。燭台切も可愛らしく思ったのだろう、今剣の言葉にふふふと笑う。

    「僕も見かけたことがあるよ、長谷部くんは絵本の読み聞かせが上手だよね。それを聞けるのは短刀くん達の特権だから羨ましいな…でもそれなら、僕は主くんに主命の報告をしてる長谷部くんの凛とした話し方も大好きだよ」

    そして大爆撃をかましたのであった。どストレートな一撃に再び長谷部の心臓が跳ねる。
    今のは一言は真っ当に惚気であった。だって主に報告をする長谷部の姿は、補佐をしている燭台切や初期刀の加州くらいしか知らないのだから。
    案の定今剣は悔しそうにぷぷぷと頬を膨らませている。可愛い。

    「はいはーい、じゃあ次俺ね!最初、俺たち数振りだった頃は、長谷部が率先して俺たちの苦手な厨の仕事とかしてくれてたんだよな。厳しそうに見えるのに実はちゃんと相手の意見を汲んで動いてくれるの、良いところだなって思うよ」
    「加州…!」

    長谷部の左腕にひっついたまま加州が言った言葉に、長谷部は静かに感激した。加州はこの本丸の初期刀であり、長谷部は二振り目の刀だった。なので付き合いは一番長いし、一緒に障害を乗り越えてきたことだって多い…ある種家族のような存在だ。しかしお互いに面と向かって感謝の意を述べる機会など無いため、加州のこんな言葉は強く胸に響いた。

    「それは同意だなぁ、ここに来たばかりの時から本当にみんなのことをよく見てる刀だなって思ってたよ。だから多少厳しくても皆に慕われてるんだろうな…ってね。それで言うと、長谷部くんはよく刀帳を見ては皆の配置を考えていてね」
    「ちょ、燭台切…!」
    「この子は調理が好きそうだから今度は厨に入れてみようとか、この子は案外畑当番に向いてるかもしれないとか、みんなのことを嬉しそうに考えてるんだ。この本丸のことが大事なんだってわかって、僕はそんなところも好きだな」
    「長谷部、お前そんなことしてんの…!」

    燭台切の暴露に、顔を真っ赤に染めた長谷部を加州がキラキラとした目で見つめる。燭台切の言ったことは嘘ではない。嘘ではないが、それは彼の前だから包み隠さず見せていた姿であって。
    燭台切もそのことに気づいたらしく、ふむ、と声を漏らしながら顎に手を当てた。

    「うーん、みんなに長谷部くんの素敵なところを教えてあげたいけど…でも僕だけが知ってるところもたくさん残しておきたいな。困ったね、思ったより圧勝にはならないかもしれないな」

    暗に、自分だけが知っている長谷部の顔はたくさんあるという宣言に長谷部の後ろの連中はまたもやキャアキャアと喚く。
    そして長谷部はこの戦いの苦しさを正しく理解した。
    なんだこれ、俺が一番恥ずかしい。死ねるくらいに恥ずかしい。この後もこんなのが続くのか、無理だ受け止められない。

    「っ、もういいだろう!これ以上続けるというなら俺抜きでやってくれ!」
    「なんでだよ、主役はここにいなきゃ」
    「主役じゃない!お前たちと燭台切の戦いじゃないか!」
    「しんぱんははせべさんですよ!」
    「俺は燭台切と付き合うと言ってるんだ、審判も何も無いだろう!」
    「でもしょくだいきりさんのふがいないところをみれば、かんがえなおすことになるかもしれません」
    「なんでお前らは俺たちを別れさせる方針なんだ!」

    長谷部がぐいぐいと動くが、加州や今剣を筆頭とした包囲網はビクともしない。なんなら、いつの間にか大太刀や槍といったでかい奴らにも囲まれていたため逃げようもなかった。

    「じゃあ次は僕です!僕はよく長谷部さんにいたずらを叱られるんですけど、何もしない日は反対に心配されたことがあって…」

    止める間もなく鯰尾が意気揚々と続きを始めるが、両腕をがっしりと掴まれている長谷部は耳を抑えることも許されなかった。鯰尾が言い終わる前に、後ろの連中も俺は俺はと挙手を始めている。このよくわからない戦いをとっとと終わらせたいが、普段長谷部が大切にしている本丸の仲間たちが嬉々として乗り気になってくれている様子に胸がほわほわと浮いた心地になるのも事実で。止めるべきか、好きにさせるべきかと長谷部が困惑している間に話はどんどん進んでしまう。

    結局長谷部派でも燭台切でもなく、長谷部本人が羞恥のあまりに音を上げて合戦の幕が閉じることになるのはもう数刻後のことだ。燭台切が無事に今剣達のお許しを得られたかはご想像にお任せとする。













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