春が終わる頃には、既に日差しは厳しいものとなっていた。からりと乾いた風が部屋を通り抜け、汗を吸う。その開け放たれた窓の木枠へ顔を向け、老婆は寝台に横たわっていた。色の抜けた髪は簡単に三つ編みに結わえて纏め、麻の寝具の下に皺の刻まれた体をしまい込んで、薄く開けた瞼で日光を眺めた。
穏やかな午後の風景の中に滲む、ある仄暗さが、自身の影から発せられているのを老婆は知っていた。老いた体はもう、各地を放浪していた頃はおろか、数年前にできたことも出来なくなっていた。
そこへ不意に、軽やかに戸を叩く音と明朗な声が小屋に転がり込んだ。
「バーバラ、入るよ」
老婆が返事をする前に、籠と水瓶を抱えた少女が肩で戸を押して入ってきた。癖の強い、長い茶髪を揺らして、部屋へ入るや否や少女は矢継ぎ早に老婆へ話しかけた。
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