公子は空鯨の夢を見るか学校から帰る途中、アヤックスは灯台に立ち寄ることにした。
アヤックスは海と森に囲まれたスネージナヤの港町に住む八歳の少年である。
父親はいわゆる海の男というやつだ。大きな商会に水夫として雇われていて、貿易船に乗り、世界中を旅して回っている。
今日は父親の乗る船が町に帰ってくる日だった。大好きな父親の出迎えがしたくて、アヤックスは海に行こうとしているのである。
ただし冬の海は荒れやすく危険だ。凍っている海の上でスケートをしていたら、足元の氷が割れて真っ逆さま、なんて事件は珍しくもなんともない。
日光に温められて溶けかかっていた氷塊が自重によって沈むこともある。そのときに起きる波しぶきはアヤックスのような小さな子供であれば簡単にさらってしまえる。
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