二人のわりことし題「悪い子にしてあげよう」より (スケベじゃない)
縄で縛られた手で地面をなぞる。手の爪は数枚はがされていて、もう血も黒く固まってしまっている。以蔵は、牢の小窓から透き通るほどの青空を見ていた。思い出すのは、隣にいない幼馴染の姿。
「……どこに居るがじゃ、龍馬」
呟いたところで誰も来ない。脱藩して、土佐を捨てて、遠い未来を夢見る彼は、きっと来ないだろう。龍馬は勤王党で唯一の希望なのだから、こんな落ちぶれた友に構っていられない。すっからかんの頭では理解していても、自然と涙が溢れていた。
「龍馬、龍馬ぁ。儂をここから連れ出しとうせ……」
祈るように吐いた言葉は土埃に溶けていく。足は長い間縛られたせいで、木枠で囲まれた牢を自由に歩くこともできない。龍馬が何処にいるかなんて知らない。だが、この牢を抜け出せば彼に会えるような気がした。
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