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    しぃさん

    @ryoi_11150214

    帝都騎殺愛

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    しぃさん

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    昔 部活で龍以布教用に書いたやつ
    お題メーカーでもらったお題で書いた。
    ※拙い ※似て非なる土佐弁
    今読んでみたらオルタ龍以っぽい

    二人のわりことし題「悪い子にしてあげよう」より (スケベじゃない)


     縄で縛られた手で地面をなぞる。手の爪は数枚はがされていて、もう血も黒く固まってしまっている。以蔵は、牢の小窓から透き通るほどの青空を見ていた。思い出すのは、隣にいない幼馴染の姿。
    「……どこに居るがじゃ、龍馬」
    呟いたところで誰も来ない。脱藩して、土佐を捨てて、遠い未来を夢見る彼は、きっと来ないだろう。龍馬は勤王党で唯一の希望なのだから、こんな落ちぶれた友に構っていられない。すっからかんの頭では理解していても、自然と涙が溢れていた。
    「龍馬、龍馬ぁ。儂をここから連れ出しとうせ……」
    祈るように吐いた言葉は土埃に溶けていく。足は長い間縛られたせいで、木枠で囲まれた牢を自由に歩くこともできない。龍馬が何処にいるかなんて知らない。だが、この牢を抜け出せば彼に会えるような気がした。

     木枠に思い切り自分の身体を打ち付ける。拷問の痛みなどどうでもいい。土に刺さっただけの木を何とかずらそうと必死に身体をぶつける。激しい物音を立てているのだから看守も気がつくだろうと思っていたが、今は席を外しているようだった。逃げ出す機会は今しかない。ところが木は無駄に深く刺さっているようで、全く動く気配がなかった。昨夜の拷問で出来た傷も開いて血が滲み始めている。そろそろ潮時か、と最後の力を振り絞って身体を打ち付けようとした時。
    「そがにしたら身体に悪いぜよ、以蔵さん」
    「は……」
     聞きなれた声の方を見ると、木枠の向こうにはあの幼馴染が立っていた。
    「何でじゃ、龍馬。何でおまんが此処に居るがか」
    そう尋ねると、龍馬は笑って言った。
    「何でち、以蔵さん儂んこと呼びよったじゃろ」
    「……呼んじょらんわ、ボケ」
    自分が泣いていたのが見られていたと思うと恥ずかしくなり、以蔵は顔を伏せる。龍馬はそんな以蔵の姿を見ない振りをしながら、牢の鍵を懐から取り出した。
    「幕府のお偉いさんが『坂本には手ぇ出すな』ち言うとるみたいやのう。ここの看守、面会したい言うたら素直に通してくれたぜよ。まぁ、鍵が持ち去られちゅうのには気づいちょらんかったやろうけどにゃあ」
    はは、と爽やかに笑っていたが明らかにおかしい。看守もそんなにアホな奴じゃないはずだ。こいつは本物の龍馬なのか、と以蔵は疑念を抱き始めた。龍馬は牢を開け、以蔵の手の縄を解く。赤く縄の痕が残る手首をなぞりながら、龍馬は以蔵と目を合わせた。
    「痛かったろうにゃあ、以蔵さん。にゃあ、儂と一緒に逃げよう。どっか遠い所に行こう」
    以蔵は、自分の目を見て語りかける龍馬の瞳に何かが足りない気がしたが、その瞳に自分だけを映す龍馬の姿にひどく興奮もしていた。
     ああ、この龍馬は「にせもの」だ。
     龍馬はきっと、自分のようなちっぽけな人間よりも未来を優先するに違いない。その瞳に映っていいのは、自分ではなく、青く広い海なのだ。志を折ってまで自分の元に来る龍馬は、あの頃惚れた龍馬じゃない。
     理解はしていたが、以蔵は龍馬の手を取っていた。夢ならば許してもらえるだろうか、と共に歩みだしていた。
    「……もう置いて行かんとうせ、龍馬」
    「ああ、ずっと一緒やき。一人で泣かんと、一緒に泣こう? 儂は以蔵さんの隣に居るき」
    「相変わらず優しい男じゃのう……。女も京に居ったんやないがか」
    潮風が優しく頬を撫でる夕方、以蔵は尋ねてみる。龍馬は以蔵からそういった話が出ると予想していなかったようで、思わず吹き出していた。
    「ふは、そがなこと考えよったんか。あんな、以蔵さん。儂が命張って助けたいと思う人らあて、一人しかおらんぜよ」
    そう言って龍馬はおもむろに以蔵を抱きしめた。以蔵の傷だらけの身体を労わってか、背中に回された手には力がこもっていない。それでも以蔵は、その温もりに溺れてしまいそうだった。
    「……にゃあ、龍馬。こんまま死んでもえいかのう? 
    もうおまんと離れとうないんじゃ」
    龍馬の背中に手を回し、ぼそりと呟いた。龍馬は優しく微笑んで以蔵の髪を撫でる。
    「これで二人とも、わりことしじゃ」

     身を寄せ合いながら、幼馴染二人は土佐の海へと身を投げた。
     
     夢ならば、このまま覚めずに。
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