二つの孤独二つの孤独が互いに守り合い、触れ合い、迎え合う。そこに愛がある。
――ライナー・マリア・リルケ
鬼頭時雨は極道の息子だ。それも関東最大の暴力団、鬼頭組現組長の孫。ゆえに常日頃から敵対勢力に命を狙われており、それらの脅威から守るために世話係という名の護衛が就いている。通学路には人目を避けるように黒塗りの高級車が停まっていて、護衛の二人が周囲を見張っている。時雨はそんな日常にうんざりしていて、休日もほとんど外に出ることはなかった。
しかし、今日は特別だ。今日は同級生の守沢菫と水族館に行く約束をしている。時雨にとって彼女はただの同級生ではない――初恋のひとと言ってもいい。ふたりはこれといった接点もなかったが、菫は首席で入学し、今では生徒会長と弓道部の副部長を務めている優等生だ。大変そうだな。いつも人に囲まれている彼女を見て、他人事のようにそう思っていた。しかし、そんな印象はある日を境にがらりと変わる。
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