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    さけがわ

    ごったに

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    さけがわ

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    「素直に好きって言えないの」
    うっかりセックスしたドラ→(←)ロナ♀
    事後表現有り

    エンドロール直前に隕石が降って台無しになったりしてさ。同居して3年目、ドラ公に抱かれた。
    どうしてこんなことになったんだ?
    退治人としてあるまじき失態だと思った。
    ああ、頭が痛い。


    押しかけてきたクソ雑魚吸血鬼となし崩し的に同居を始めて幾数年、今迄お互いをそういう目で見たことなど一度もなかった。それこそ、ここ変態ポンチ大博覧会な街シンヨコハマで暮らす中で、頭のてっぺんから爪先まで互いの全裸だって嫌という程見てきた。そもそもそんな状況がおかしいのだが、そんなことは今更だ。ほぼ四六時中と言えるぐらいには寝食を共にし、生活を侵食し合う仲だ。風呂に入っていようが容赦なく扉を開けられて緑の怪物を投げ込まれたり、思い出したように「そのシャンプー空だから詰め替えなよ」とか服を脱いでる最中に言われることも少なくなかった。何なら洗濯カゴに放り込んだクタクタになった下着をつまんで、「これほつれてきてるじゃないか、捨てたら?」と言われることだってある。ドラ公には、兄貴にもやってもらわなかったことをさせているが何とも思いやしなかったのだ。
    もし兄貴にそんなこと言われたら恥ずかしくて申し訳なくて窓から飛び出していたと思うが、ドラ公に対しては「うるせえよ」と返せるしそれ以上の感情が湧かない距離だった。
    つまり私にとってドラルクと言う吸血鬼は、最早家族のような同居人で、相棒で、決して異性ではなかった。よくわからないが妙に収まりの良いこの関係がずっと続くのだと思っていた。そう、ドラルクに対しての関係性は「収まりが良い」。その言葉に尽きるのだ。

    だからどうしてこんなことになったんだ?と頭はハテナでいっぱいだ。私は今裸で、かろうじてペラペラの毛布を身体にかけてはいるけれど、大の字になったまま天井を眺めている。ちらりと視線だけを動かして隣にいる男を盗み見ると、ドラ公は頬杖をつきながら私を見つめていた。えっ何?何なの。見てるなら言えよ。びっくりしただろうが。視線がかち合ったかと思うと、ドラ公は私の髪をするりと撫でて、毛先を遊ぶように触り始めた。なんかこれ、ちょっと大人な映画とかドラマで見るピロートークとやらに似ているんじゃないか?いや今はまさにピロートークの部分なのか?だって事後だし、一応。
    画面越しに見ていたら、えっちでドキドキするような仕草をドラ公がやっている、なんだかおかしな気分だ。
    「ねえロナルドくん」
    「ドェッ、ァ!?」
    「フフ、何その声?色気なーい」
    「殺した」
    「殺すな!」
    いつも通りのお決まりワンパン砂復活の流れさえ、何だかソワソワしてしまう。ああ本当、こういう時ってどうするのが正解なんだ。身体は妙にだるくて、動かすのも面倒くさい。運動した後の開放感だとか、スッキリ感なんて微塵もない。どちらかと言うと風呂に入るのも億劫な日に無理矢理シャワーだけ入った後みたいな、気持ちよかったを通り越して少し怠いみたいな身体の重さだ。そして大事なところが少しだけ痛い。まだ何か入っているような、そんな感じ。でもそうだよな、ついさっきまで入ってたんだもんな。……ドラ公のちんちんが私の中に。

    初めてだった。セッ……えっちをしたのは。えっち、セックス、性行為。物語で見る行為は凄くロマンチックで、キラキラしていてドキドキするものらしい。好きな人と肌を重ねるのはすごく気持ちが良いのだと皆言っていた。私もそうだと思っていた。いつか、そういうことをする相手が私にも現れるんだろうなぁとか夢を見たりしたのだ。だが現実は同居人のガリヒョロおじさんが初体験になったわけだ。
    さっきのセックスはどうだった?
    気持ちよかったとか、ドキドキするとか、何も分からない間に終わってしまった。ただ、ドラ公とするキスは気持ちが良かったし、触られる度に自分の股からぬるぬるしたものが止まらなくて、ぞわぞわしながらも変な声が出続けて、骨のように細い指や見た目に似合わないちょっと強そうなちんちんをぎゅうぎゅう締め付けてしまった。肉の当たる音とか、粘ついた水の音とか、日常生活では聞かないような音ばかりに囲まれて、現実味がなかった。
    はあはあと、何も言えずただ呼吸することしかできない私に声をかけるドラルクは嬉しそうだった、気がする。少なくとも私には嬉しそうに見えた。嬉しそう、だからなんだって言うんだ。

    「後悔してる?」
    「…………何が」
    「私に抱かれたこと」
    「ヴァッピギガガガ」
    「壊れたプリンター?」
    ドラ公の声色はいつもと変わらない。
    「……、…………わかんねぇ」
    返事に迷うこと、たっぷり十秒。
    どうして、こうなったんだっけ。何がきっかけなんだっけ。今日もいつも通り仕事に行って、帰ってきてシャワーを浴びて、飯を食べて、ドラ公がヴァリカー勝負を挑んで来たからやったけど、全然勝てなくてムカついて、煽られたからドラ公を殺して、何か知らないけどキスされて、気持ちが良くて……あれ?どこにセックスするフラグがあったんだ?
    そう言えば、帰り久しぶりに会った高校の同級生が子供連れで、可愛かったみたいな話はした気がするけれど。どう考えても関係ない。えーと、えーと?ぐるぐる考えたまま黙り込む私に、ドラ公は口を開いた。
    「私は少し後悔してる」
    「…………は?どういう、」
    「ああ待って、勘違いするなよ。後悔してるって言うのはさ、なんて言うか」
    この関係が変わるのは嫌だと思って。
    「一緒に住みたくないとか、家から追い出されるとか。まあここは私の城なんだけども」
    「私の家じゃ」
    「君と、ギクシャクするのは嫌だなぁって」
    「お前、それは……」
    身勝手すぎるだろ。
    ギクシャクするわ。ギクシャクして仕方がないわ。だってえっちしたんだぞ。こっちは誰にも見せたことないところまでっつーか、自分でも見たことないところまで見せたし舐められたのに、何なら私だってお前の、その、まあ何回か見たことあるとは言え触ったことの無い血色が悪いちんちんを触ったし舐めたりしたのに。この後どうすれば良いんだよ。現に私は終わってから一度もドラルクの顔がまともに見れていないのに。
    ……でも、この関係はどう変わるんだ?
    「身勝手なのはわかってるよ。けど、君に嫌われるのは嫌というか。あーあ、なんで手出しちゃったんだろう」
    そんなこと私だって知らねぇよ。誰かが説明してくれれば良いのにとずっと思っているのに、お前がわからないんじゃもうダメだ。おしまいだ。この事件は迷宮入りになるんだな。
    「……なんかさぁ、今日の君が可愛く思えたんだよ」
    どうしてだろうね。
    そう言って目を細めたドラ公の顔は、初めて見る表情をしていた。困っているような、嬉しいような、照れているような。何かがぐちゃぐちゃに混ざり合った顔。お前、そんな顔出来たのか。知らなかった。今日はすべてが初めてだ。
    「これでも君との距離は大事にしたいと思ってたんだけど」
    私が無言でいると、気付けばドラ公の顔がすぐそばにあった。うわ、と声を出す間もなくキスをされた。ただ唇を合わせるだけの、戯れのようなキス。そんなことを繰り返しながら髪を撫でられた。首やら肩にすりすりとドラ公の指が触れると変な気分になった。こいつ、どういうつもりで。耳朶が熱くなった。嫌という程見慣れている顔が、今格好良く見えたと言うか、色気があるように思えてしまった。私より遥かに弱くて細くて頼りないおじさんに、色気もクソもないだろうと思う気持ちと、ああコイツって意外と身体は男っぽいんだなとか、私を抱きしめる肩は広いとか、絡んだ手だって私より大きいんだなとか。そういう事に目がいって、同時に自分がドラ公を男として見てしまったことに衝撃を受けた。あれ、あれ?もしかして、私は今ドキドキしているんじゃないかなんて。
    「ど、ら」

    「なーんて。ロナルドくん、こういうの好きでしょ」

    抱かれた後に優しくされるの。
    「……は?」
    「君って意外と乙女趣味だし、恋愛映画好きでしょ? こっそり見てるの知ってるよ」
    だからやってみちゃった、ドラ公はフフと笑った。
    やってみちゃった。……一体どこから。
    もしかして、最初のキスから全部?
    ……冗談だった?私をからかう為に、盛大なドッキリだったりするのかこれは。同居人とセックスしてみたドッキリ~みたいな、いやなんだよセックスドッキリって。ふざけるなよ。お前身体張りすぎだろ。こっちは処女だったのに。
    ていうか、今、不覚にもドキドキしたのに。
    またいつもの遊びの延長戦で私はまんまと抱かれたのか。
    混乱する頭で視線を逸らすといつぞやドラ公の為に買った遮光カーテンの隙間から、ほんの少しだけ明かりが見えた。もう直に朝が来る。もうそんな時間になっていた。ドラルクと横になってどれだけ経ったんだろう。
    「ねぇ、ドキドキした?」
    ドラルクは、にやにやと笑いながら骨のように細い足を絡めてきた。そして擽るように耳を触る。

    あーあ、今直ぐ灰になれば良いのに。それで、これが全部夢だったりしないかな。
    こんな映画、二度と見ねぇよ馬鹿野郎。
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