フレハリか双子ハリ予定のR18寮生活を過ごしていると時々、不便さを感じることがある。城の中はいくら広いとは言え、何処へ行ってもなかなか一人きりという状況を確保しきれないし、集団生活を送る上で避けられないストレスというのも多い。ホグワーツというひとつの学び舎で過ごす生徒のほとんどがこういったストレスを抱えて生活をする中、ハリーはなかなか、恵まれた環境を得ているなと思った。
陽も傾きかけた頃。早い時間に暗くなり始める今の季節は、クィディッチの練習を切り上げるのも少しだけ早くなる。城へ続く道が完全に見えなくなる前に、キャプテンの号令で解散したチームは各々の箒を担ぎ、片付けるべき物を片付けるとそれぞれ帰路へ着く。冷えた風のそよぐグラウンドには、深紅のユニフォームの裾を靡かせて歩く影がちらほら見える他に人の気配はない。
「ハリー」
静かな声がハリーを呼ぶ。糖蜜パイを飲み込んだみたいな声だな、と思った。口の中でじわりと溶けて、飲み込んでも残る甘い砂糖の余韻を舌で舐める。舐めたところで何の味もしない唇に、なんの前触れもなく影が差した。
「――ちょっと」
「今のは君が悪いだろ」
軽く触れて離れていった唇が、紺と夕焼け色の混じる空に浮かんだ三日月と同じ形を見せる。誰かに見られたらどうするんだ、と非難を込めて、ハリーはフレッドの脇腹を肘で小突いた。
いつでも青々と整えられた芝生をさくさく踏んで、寄ってきたフレッドの腕がハリーに絡む。布越しでも伝わる体温がほのかに温かく、風にさらされて冷えた身体にじんわり熱が移って気持ちいい。