「ハリー!今から出るところ?」
「俺たちも向かうところなんだ。一緒に行こうぜ」
寮の階段を下ったところで、全身真っ赤な双子と出くわした。真紅のローブを纏い、手には使い込まれた揃いの箒。短く揃えた赤い髪に窓から射し込む朝陽が反射して、二人の姿を見た途端頭の中には温かい暖炉の炎のイメージが浮かんだ。
「おはよう。フレッド、ジョージ」
二人と同じローブの裾を足で捌いて、箒を抱え直しながら最後の段差を飛び降りる。外へ続く通路の前で、ハリーが来るのを待つ二人の元へ駆け寄ると、フレッドとジョージは同時に口の端をにやっと持ち上げた。
「おはようさん。相変わらずすごいな」
そう言って片手を上げたジョージが、ハリーの頭を撫でる。くしゃくしゃ跳ねた頑固な癖毛はそれくらいじゃあ直らない。
「近頃ますます酷いんだ……ハーマイオニーが今度お勧めのブラシをくれるって言ってた。それでマシになるといいんだけど」
「だいぶ髪も伸びてきたし、それで跳ねるんじゃないか?君さえよければ、少し髪を切ってみたらどうかな」
「もし切るなら俺に任せてくれ。髪を切るのは結構得意なんだ」
「うーん、そうだね……考えておくよ」
鋏に見立てた手をちょきちょき動かすフレッドの、髪を切るには危うい腕の軌道を目で追いながらハリーは曖昧に微笑んだ。それと同時に空っぽの腹にいる虫が存在を主張し始めたので、これ幸いとハリーはフレッドとジョージの腕を引く。どうにもならない癖毛の話より、今は練習前の腹拵えが大事だ。
「それより早く広間に行こうよ。僕もうお腹空いちゃって」
「おっけーハリー。我らが空の英雄にはしっかり食べてもらわなくちゃ。ちなみに、今朝のお勧めはチキンサンドさ」
「昨日の夜、厨房で聞いたんだ。この時期では最高のチキンが入ったってよ。少し分けてもらったけど確かに美味かった」
「チキンサンドだね。わかった、食べてみるよ。……想像したら、ますますお腹が空いてきた」
ハリーが言うのと同時に、一際大きな音で鳴る腹にフレッドとジョージが笑う。二人の腕を引いていた手はいつの間にか温かな手の中に握られていて、手のひらから伝わる熱にじんわり胸まで温かくなるようだった。
早朝の静かな廊下を三人並んで、しばらくの間手を繋いだまま歩いた。いつもより早く起きなきゃならない朝練も、こうして手を繋いで歩けるのなら悪くはない。