「おまえはもどれ。」
「いやだ!おれもここにのこる!」
朝日の昇る森の中の祠の奥に小さな人影がふたつ。
「たんれんにむちゅうになっていて、じこくをかくにんするのをおこたってしまった…。」
「それはおれもだ!ちかくにこのほこらがあってたすかったな!」
「おまえはようこうにあたってもへいきだろう。おまえだけでももどれ。」
「おれがもどればあかざがひとりぼっちになってしまう!それはいやだ!」
その時、祠の扉がギギィと音を立ててゆっくりと開いた。わずかに差し込む日光に、杏寿郎は慌てて猗窩座を庇うように抱きしめる。
上から優しい声が降ってきた。
「ああ、ここにいたのか。探したぞお前たち。」
「ぎょーめー!」
声の主は行冥だった。杏寿郎が嬉しそうに呼びかける。
行冥は日光を遮るように扉を閉める。
猗窩座は慌てて杏寿郎の腕から顔を出し、行冥に訴えかける。
「ごめんなさい、きょうじゅろうをおこらないで!きょうじゅろうだけならかえれたのに、おれにつきそってくれていたんだ!」
「ひとりはさびしいからな!」
「…そうだな。帰ろう。ほら、おいで。」
行冥は優しくほほえむと、羽織を脱ぎ猗窩座を包み込んで抱き上げる。そして杏寿郎も抱き上げると祠をあとにした。
岩屋敷に戻り、日光の入らない奥まった部屋に入ると声をかける。
「おい、いたぞ。ふたりとも無事だ。」
「猗窩座!」
行冥は杏寿郎を下ろし、猗窩座も下ろすと羽織を脱がせる。
バタバタと駆け寄ってきたのは黒死牟だった。猗窩座を慌てて抱きしめる。
「あぁ…あぁ…良かった…陽光が指しても戻らぬ故、焼失してしまったのかと…」
「ごめんなさい…ごめんなさい…!たんれんにむちゅうになってしまって、きづいたらようこうがさしてかえれなくなってて、きょうじゅろうがほこらをみつけてくれてそこにかくれてて」
「もう良い…無事で何よりだ…本当に良かった…。」
黒死牟を見て安心したのかわんわんと泣く猗窩座を抱きしめながら、黒死牟は行冥の足元にいる杏寿郎の頭を撫でる。
「お前だけなら帰ってこれたものを、猗窩座につきそってくれていたのだな。お前も不安だったろうに、礼を言う。」
「とうぜんだ!しんゆうをたすけるのはせきむだ!」
得意気に胸をはる杏寿郎に、黒死牟は驚いた顔をしたあと、とても優しく微笑む。
「…そうか。お前はとても漢前だな。」
そう言ってさらに頭を撫でると立ち上がる。
「私が陽光の下に出られぬ故、お前にも世話をかけたな行冥。」
「構わぬ。この子達が無事で何よりだ。」
そう言うと二人は口づけをした。