鬼の子と人間の子のその後ハルトの右肩には大きな噛む痕が残っている。
白い皮膚にくっきりしたくぼみは醜くて痛々しいが、それを消すつもりは毛頭ない。
その傷跡は、大事な友が唯一ハルトに残してくれたものだから。
大学生になったハルトは、幼い時に暮らしていた村に戻った。
数年前、この閉鎖的な古い村は過疎化や高齢化によって廃村になった。
この村にまつわる鬼の伝説が真実だと知る人も、もういない。
——ハルト以外は。
スグリと別れをしたあの日から、一日もスグリを忘れたことはない。
この広い世界でなんの手かがりや繋がりもなく、誰かを見つけ出すのは難しい。
それでも、ハルトは諦めず、スグリを探し続ける。
長く続いた登り道を越えて、ようやくスグリの暮らしていた所に辿り着いた。
苔生す小さな木の古い家は、長年の風雨にさらされ崩れ掛かっているが、小さい頃、いつもスグリと一緒に果実を採ったリンゴの木はまたそこに立っていて、風に微かに揺れる。
懐かしさと切なさで胸がいっぱいになり、ハルトはしばらく立ち止まっていた。
半壊した部屋に入り、隅から隅まで探していたが、スグリの行方についての手がかりは全然見つかなかった。
二人が出逢った頃、スグリは既に天涯孤独だった。
身寄りのない彼に、一体どこにいけば会える?
心がだんだん重くなるハルトは、屋根から不吉の音がすることを気づけなかった。
音が大きくなってきて、ひびが入った梁と柱がひび割れ始めている。
「——ハルト!」
大量の木の破片と煙に飲まれそうな時、誰かがこちらに駆け寄って、ハルトの腕を掴んで屋内から引っ張り出した。
次の瞬間、轟音とともに、スグリの家が完全に崩れて粉々になった。
目の前に、黒い髪の青年が立っている。
記憶の中のあの子より背が高く、髪も短くなった。
それでも、ハルトは一目で分かった。
「……スグリ……」
まさかまだその名を呼べる日が来るなんて、思わず涙が溢れ出した。
ぼやけた視界に、幼い子供から青年になって、ちょっと見慣れない彼は笑顔を見せた。
「ただいま……ハルト」