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    kinopino3

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    kinopino3

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    …すけ君をわっがままにしたいべろ、な話が書けたらいいなと思い練習中。

    無題。「おい仗助…」

     ゆさゆさゆさ。
     静かで心地良い声と共に肩を揺らされ、仗助の視界が一気に明るくなった。
    まぁ明るくなったといっても、それは室内だけの明るさで、窓の外は夕暮れ過ぎといったところだ。
    学校帰り、露伴の家に遊びに来たついでに夕食を作り、一緒に食べてから帰る。
    そんな日が週に何日かある。今日はそんな日の内の一日。

    どうやら自分はその夕食後、少しだけとくつろいだソファーで眠ってしまったようだ。
    でも未だ覚醒し切らない体は上手く動かない。

    「起きろ!帰る時間だ」
    「…んぅ??…あっ…すんません。使った食器片づけたら帰りますね」

     そう、食器をシンクに持って行った事だけは覚えているのだ。
    使ったものが片付ける。
    東方家の絶対家訓。
    ゲームで遊んだ後片付けないと、どこへ持っていかれるか!
    担当日に洗いものを洗ってなかったら、翌日どうなるか!
    おそろしい話だが一度なれてしまえば習慣として、自然と体が動くのだ。
    だから露伴ちの食器を洗うまで、まだ自分は帰る訳にいかない。

    「…んな事までしなくていい。それ位ぼくがやるから」
    「……はい…」

     だめだった。



     玄関のドアを開けるとツンと冷たい風が流れ込み、自然を背筋が伸びた。
    寒いのは嫌いじゃあないけど、上着を持って来てない仗助には少しだけ憎いと思わせる。
    それでも帰り道、ちょっと走れば身体も温まるからいいかと唇を引き締めた。

    「晩飯、美味かったよ。ありがとう」
    「どういたしまして」

     作ったのは卵ふわっとろの親子丼。
    露伴は普段外食や出前ですます事が多いらしく、たまにシンプルでがっつりした食事をしたいらしい。
    …でも実は奥が深い親子丼。
    作りなれている仗助にはそうでもないのだが、一度コツを教えてやってみた露伴は、卵をふわっとろにするのが駄目だった。
    だから作れと言って来るのか?たんに面倒なだけなんだろうとも思う。
    まぁ露伴がおれの作った親子丼を食べたいというなら、それでもいいかとも思うし。

    「はあ…思ってたより暗いな。車で送ろう」
    「女の子じゃあないからいいスっよ」

     露伴の車。
    速くて格好良い車なんだけど、それだとあっという間に家についちゃう。

    「満腹のおかげで、このまま家帰ったら寝ちゃいそうだし。眠気覚ましに歩きますよ」
    「そうかよ…」

     仗助が申し出を断ると、露伴の唇が少しだけ曲がる。
    いやいやいや。
    なにも嫌って言ってる訳じゃあないんだから、そんな反応しなくても…と思わず苦笑。
    視線を一度下げて足元を見る。
    露伴は少し待てと言葉を残し、部屋に入っていった。

    「……冷えて来たからさ」

     次にその言葉と共に手にしていたのはマフラー。
    ライトグレーとシンプルなマフラーだった。

    「まぁ君は風邪なんてひかないと思うけど、万が一あって康一君にうつしたりしたら大変だからな」

    何だこいつ。
    でも…そういって露伴に巻かれたマフラーはとても温かかった。









    「…あったけえ」

     すっかり日が落ちて、真っ暗な帰り道。
    街灯の光と行き交う車のライトの交差は、帰宅時間と合わさって少し賑やかだ。
    そんな中、自分の首元と温かくしてくれているマフラーに感謝しながらとぼとぼとぼ。
    思考はすっかり、先程の恋人の行動に埋め尽くされていた。

    元々今日は自分の好物のケーキを、一緒に食べたかったのだ。
    だから多少なりとも強引に誘ってみた結果、冗談を言えば返してくるし、一緒におやつも食べてくれた。
    作ったご飯だって綺麗に食べてくれて、美味かっただって。
    優しく起してくれたし、このマフラーまで貸してくれて…断らなかったら車で送られていたのだ。

    どうした 岸辺露伴

    漫画の事しか頭になくて、ネタ探しに夢中なあまり危険な事までしちまう、自己中わっがまま変態野郎。
    そんな人を怒らせる大天才がどうした?
    一体どうしちまったんだ??

    いや…それは普段露伴の表側に出ている部分なだけであって、彼にだって普段は見せない隠れた面が…。
    だからだろうか?
    仗助は露伴と付き合いだしてから、日に日にそれらを目にする度、確実に自覚してしまう事があった。

    あっ…おれ
    露伴に大切にされてる、と。

    最初は嫌われのマイナス感情から始まった間柄。
    だからほんの少しでもいい面を見つけてしまうと、一気に喜んでしまったものだ。
    ……16の子供と付き合うなんて、世間的にもかなりよろしくないってことは仗助にだって分かっている。
    それを露伴が考えてない訳がない。
    実は自分の事を面倒だとか思ってないか、不安がないと言えば嘘な時期が確かにあった。
    それでも…。

    (ンな心配…月までぶっ飛んだ位、今幸せだ…)

     思わず巻いてもらったマフラーに、更に顔を埋める。
    少しだけ露伴の香水の匂いが残っていて、それが何故かとても嬉しくて少し足取りが軽くなる。
    彼が普段身に付けていたモノを、自分に貸してくれただけなのに。
    たったそれだけなのに仗助の心は満たされて、露伴に対して好きだなぁって、大丈夫なんだって思わされる…そんな魔法がかかっているよう。

    (くそくそくそっ!
    凄いぜ…岸辺露伴!)

     実は変人のあんたがこんな一面持ってました!って知ったら、更にモテるんじゃあないのか?
    いやほら、普段嫌な奴の優しい所を見せられちゃうとこう…ぐっと来ちゃうみたいな?
    岸辺露伴の優しいところ、知っている人は知っている。
    知らない人は知……らないで欲しいなと思ってしまうのは、自分が子供でわがままだからだろう。
    目を細め、今さっき通った道を振り返る。
    露伴の邸はもう見えないが、その景色が目に浮かぶ。
    そこで過ごした時間は長くはないが、今この胸を熱くしてくれるには十分過ぎるものだ。
    巻いてくれたマフラーも、一緒に過ごした時間も。

    付き合う前の彼とはまるで噛み合わない。
    だからもっと見せて欲しい。
    おれ以外には見せないで。
    今はあんたのそのちぐはぐさすら愛おしいのだ。
    岸辺露伴。

    「………本当、不器用な野郎だなぁ」


    ぽつり。

    そう呟いて、仗助は家路についた。


    【END】
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