雨恋し 稲妻の天気は遷ろいやすい。
あの天をも斬り裂く雷電を象る神をもって成り立つこの地は、つい先程まで晴れていても、ふと気を抜けば瞬く間に雷雨に見舞われる。
一年を通して湿度が高く、特にじっとりと憂鬱な日が続く雨季の春先は、その天候の崩れやすさを人の浮気心に喩えられる程だ。
その一方で、稲光は田畑に豊作をもたらす光、神の恵みとして人々に信仰されている。実際、雷光の届かない海神島では不作の年が多いと聞く。真偽は定かではないが兎に角、稲妻の地で雨というのはとても身近で重要な存在だった。
それ故に稲妻で暮らす人々は、遠出をする時は大抵、雨傘を持ち歩く。無地の番傘、藤の持ち手の蛇の目傘、文無しとうっかり者は蕗の葉っぱを傘代わりに。
1895