ルル+イサ 10話軸TS格納庫で、ルルの声が響く。
「やだ!!ルルも乗るのっ!!乗れるもんッ!戦えるのっー!」
「ルル、落ち着いてくれ。これは本来俺たちしか乗っちゃダメなんだ」
「でもルル!!オルトス乗れた!!」
「あれも本来はダメなんだ、頼むよ。俺たちもスミスと一緒で君を戦わせたくなんか…」
「ガガピーッ!!!!!!ルルも戦えるもん!みんなより強いのッ!!ティーエス乗れるの!!!!やだやだ!ルルも!ルルもぉー!!」
ルルは激しく泣き叫んでしまう。
スミスがデスドライヴズのクーヌスと呼ばれる1体と共に自爆してしまったあの日からルルはずっとティタノストライドへ乗りたいとヒロへ詰めていた。
その様子は自衛隊所属のヒビキやミユも度々見ており、わざと気を引いたりし答えを出さぬまま有耶無耶にしていた。
だが、その日はルルの健診のため偶々イサミがルルを探しに格納庫にまで来ていたのだ。
何やら遠くで叫ぶ声が聞こえ格納庫へ顔を覗かせていた。
そして先程のルルの言葉を聞いてしまったのだ。
イサミは無言でルルへ近付き肩を掴み振り向かせるとバヂンッと格納庫に響くほどルルの頬を強く掌で打つ。
「が、がぴっ…い、たいっ…いたいっ…いだいいっ!!うわあぁあっ!!イサミが、イサミがッ、ルルのことなぐっだぁぁっ!!」
「ち、ちょっ、ルーテナントアオ?!」
「ルルッ!!」
ヒロの声いやルルの泣き声すら掻き消すほどの大声を上げるイサミに泣いていたルルやヒロ、点検のためにイクシードライノスを診ていたメカニックさえも体を震わせ声の方向を見る。
「ティタノストライドは玩具なんかじゃないッ!人を簡単に殺せる兵器なんだッ!!その重さを理解しないで乗るなんて軽々しく言うんじゃないッ!!デスドライヴズとの戦いも遊びじゃないんだ!!いい加減にしろッ!」
「が、ぴっ…うえっっ、うっ…やだっ、ルル、るるつよいもっ…!!やだ、やだぁ…スミスっ…!スミスっ!!」
「る、ルーテナントアオ」
ヒロが心配そうに声をかけられ今まで上がっていた熱が急激に血の気と共に冷めていく。
ルルは赤く腫れ上がった頬を押さえながら泣きじゃくりイサミを恐怖の滲んだ目で見る。
心臓が嫌に高鳴る、声を張り上げるのに慣れていなかったせいか喉とルルを打った掌がジンジンと痛みだす。
ぶわりと汗が流れて背筋が嫌に冷えていく。
ヒロは少しでも空気を和らげようとイサミは優しく声をかける。
「そういえばどうしてここへ?」
「あっ、ルルの健診へ…その…」
「なら俺が連れて行こう、きっと君も疲れてるんだ。ついでに甘いものでも食べて休んでくれよヒーロー、それに今日はホワイトデーだ。ささやかだがお礼も兼ねてもらってくれ」
ヒロからチョコレート味のプロテインバーを貰い、申し訳ない思いをしながら頭を下げた後ルルを見る。
嗚咽を漏らしていたが、少しは落ち着いたようだった。しかしイサミからは何も言えずにその場を後にした。
『イサミ?どうかしたか、騒がしかったが、がぁっ?!』
ブレイバーンが格納庫から出てきたイサミへ声を掛けた途端涙をこぼすイサミを見て驚く。
慌てた様子でイサミを掌へ乗せて話を聞こうとしたが、そのまま蹲ってしまい嗚咽だけが溢れている。
『イサミ、私のコックピットへ入るといい。安心できるだろう?』
誘われるがままにコックピットへ滑り込む様に入っていくイサミを心配そうに見つめるブレイバーン。
啜り泣くイサミが落ち着く様に少し船から離れる。
すると段々と落ち着いていったイサミが先程起きたことをブレイバーンへ打ち明ける。
『なるほど、…間違いではないがまぁ正しくもないだろう。私はその辺りの機微は分からないが、きっとルルにも君の思いは伝わっているさ』
「でも、殴っちまった。殴ることじゃなかった」
『それだけ君がティタノストライドを乗り責務を全うすることがどれほど重大な事だと思ってる証拠だ。私も理解してるつもりだ。ただ少し思いが強すぎたな』
宥める様に優しく言われてしまい、寄りかかるとほのかに温かくそれでまた涙がこぼれてしまった。
『ルルも賢い子だ、きっと分かってくれる。イサミの態度でびっくりしてしまったんだろう、君も学ぶことが出来た。今度は失敗しないさ、…さぁ健診も終わった頃だろう?ルルを迎えにいってあげてくれ』
がしょっとコックピットが開き、おずおずと出ていくイサミ。日差しはまるでイサミを迎え入れる様に柔らかく照らしていた。
医務室へ向かうとヒロがおり、少し目を腫らしたイサミに驚いていたがルルを頼むとそのままどこかへ行ってしまいイサミはどこか心細さを覚えた。
コワルスキー中尉が出てきてイサミはひどく驚いてしまった。
コワルスキー中尉はおそらくルルから事情を聞いていたのかイサミには怒らず大丈夫だったと声を掛けた。
「いや、…俺」
「ルルちゃんのためを思ったのでしょう?大丈夫、貴方は良くやってるわ。安心して頂戴、ルルちゃんも分かってくれていたわ…ルルちゃん」
すると呼び掛けられて部屋の中から恐る恐るルルが顔を覗かせる。イサミを見て瞳が揺らいでいたがそっと一歩ずつゆっくりとイサミへ近付き頭を少し下げる
「いさみ、ごめんなさい…」
そう小さくもはっきりとした声色でルルは謝った。
イサミは堪らず抱き締める。
「ルル、ルルッ…!ごめん、打っちゃってごめんなぁ…!痛かったろ?」
「へーき、ルル、強い子だからだいじょぶ!ルル、ちゃんと大事なおしごとってわからなかったから、だから、ごめんなさい…」
「いい、いいんだ。大丈夫、分かってくれてありがとう。ルルがもうあんなことしなくて良い様にするから、俺とブレイバーンで絶対に」
「イサミ、強い?」
「あぁ、強い。だから心配いらないぞ、ルル。…今日は一緒に寝ようか。ご飯前だからこれは我慢な」
「ぷー…けち」
「晩飯食った後食えれば食おう、ほらいくぞ」
スミスがした様にルルの頬を優しく包みまた抱きしめる。その後ルルの手を引いて食堂へ向かえばバイキング形式での開催になっており皿を取ってバランスよく取っているイサミはルルにもと食べやすいものでサラダを作ってやり渡してやる。
席も隣同士で一緒に食べていく。
イサミが肉の焼き加減もしっかりとしたもので頼めばルルも真似して頼む。
段々とイサミにも似ていくルルに周囲は安堵半分といった様子で見守っていた。
スミスが戦死したあの日からイサミの様子が変わり、ルルも多少なりとも幼児退行してしまって心配していたが2人の情緒はあまり大きく変わらずにいた。
「イサミ、あのね、ルル大きくなったらねティーエス乗るの!それでね!スパルカイザーみたいに困ってる人助けたいの!」
「いいなそれ、ルルならきっとなれるさヒーローに」
穏やかに進む時間の中、まだ食べたいと駄々をこねるルルにヒロからもらったプロテインバーをルルへあげるイサミにそれを半分にしてイサミへ渡すルル。
ありがとうといって受け取り、少しずつ食べていくイサミは胸中で何を思っていたのか。
就寝時間になり、スミスの部屋でルルと一緒に寝る様になったイサミだったがルルが寝入ったのを確認し起こさぬ様にそっとベッドへ出ていく。
パイロットスーツに着替えていき制服を勲章ごと机の上へ置き部屋を出て甲板へ出る。
『イサミ良いのか?』
「あぁ、大丈夫だ。スペルビアもいる。俺らで終わらせようブレイバーン」
『…気をつけて行くのだぞ、あの2人は強い。…艦艇の事は我に任せ安心して推して参って行け』
「ありがとう、恩に着る…それから、ルルの事頼むぞスペルビア」
『承知、安心せい』
イサミはパイロットスーツもう一度調整し、ブレイバーンへ乗り込んで行った。
ブレイバーンはスペルビアを一瞥したが何も言わずブレイサンダーへ変形し残る2体がいるハワイへと発進する。
スペルビアは自分の悲願が達成できないことを電脳のどこかで感じ取りながら2人を見送っていった。
ハワイに着いた2人とデスドライヴズたちの死闘はあまりにも過酷で苛烈極まり相打ちと言う形で終戦した。
だがその傷はあまりに大きく、イサミはコックピットの傷を反映したかの様に体は二つに裂け半分はコックピット、もう半分は外へ投げ出される形となった。
ブレイバーンは両腕が引き裂かれた様にもがれており跪く形で停止していた。
終戦後にゾルダートテラーを退けルルと共にハワイへと来たスペルビアはあまりにも変わり果てた惨状に絶句しルルはイサミとブレイバーンを探し駆け回る。
ようやく見つけた2人だったがイサミはもうすでに事切れており瞳は昏く何も写してはいなかった。
もはやセンサーすらも感知できなくなり変わり果てた姿でルルを迎えたブレイバーンはずっと抱えていたモノを吐露していく。
『Japanの…curry…また食べたかったな…』
その一言でルルは確信する、ブレイバーンはスミスであったと。だがルルの声はもはや届かず赤く光っていた瞳は暗くなりイサミと同じく何も映さない。
ルルは手が足が血を流すまで己を傷つけるほどに慟哭する。
ここまで来た道には管制官が乗っていたと思われる飛行機が墜落し、ここまで駆けつけていたTS部隊の機体のパーツが焦げ跡を付けながら散乱している状態だった。
生存はおろか残っているものですら絶望的な状況で
愛しい人を亡くし続けた少女の心はどう耐えられようか。
スペルビアは彼女をそっと抱きかかえ流せぬ涙を静かに流していった。
それでも時は残酷に過ぎていく、あの時に心を置いてきたルルですら少女のままではいられなかった。
ミユに呼ばれて連れてこられた先にはブレイバーンのコアがあった。
「これを使えば、過去へ戻りやり直せるはずです」
「…ここの時間軸はどうなるの?」
「観測されなければないのと一緒です」
ミユが作ったのはブレイバーンの中にあるクーヌスの能力を応用したタイムマシーンだ。
片道切符の旅ではあるが、それでもこれに賭けるしかない。少女の心はまた動き出していく、今度は2人を助けるために。希望を持って、スミスが残した言葉の通りに
…そう、勇気を爆発させて彼らを救うヒーローになる。
コックピットは入り緑の液体が自分を包んでいく。
怖くはない、2人を失った恐怖はこんなものではなかったのだから。
ルルは決意を新たに過去へ向かう、漸く彼女の止まっていた時間が、心が前へ向かっていく。
かつて憧れたヒーローになるためにルルは手を伸ばす。
もう二度と失わないために、彼女は戦うのだ。
今度こそ2人を救ってみせると、先の見えぬ物語を紡いでいくのだった。