Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    ゆきは

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 25

    ゆきは

    ☆quiet follow

    【ちょぎさに / 長義さに をベースに 則+さに】
    ちょぎさにを見守る則宗の話
    ※女審神者特殊設定強め

    #長義さに
    forGoodnessSake
    #ちょぎさに
    inTheMannerOf...
    #則+さに

    梅が香を桜の花ににほわせて、扇片手にさかせてしがな その幼子を初めて見た刀剣男士は、一文字則宗だった。話すでなく、触れるでなく、ただ、見ただけ。
     二二〇五年とは思えぬ、古式ゆかしい衣装を着た、随分と綺麗な顔立ちをした少女。何の表情も浮かべず、手を引かれるままに人目につかぬ道を通して保護室に連れて行かれる少女を見て、一文字則宗は面倒事が起きそうだな、とだけ思った。



     玉塵城において、特命調査・聚楽第の際に監査官が本丸を訪れることはない。世にも珍しい始まりの一振りの長義が、他に顕現した自分を審神者に会わせることを全力で拒否するからだ。そのため、長義が監査官の伝えるべきことを本丸に通達し、部隊長から外れて監査官として調査に立ち会う。その許可は、政府勤め時代のコネや諸々を用いてもぎ取ってきたらしい。不正を行うのではないかという懸念の声も、そこでねじ伏せたそうだ。無論不正は行われておらず、正当なやり方で優秀な成績を収めている。
     では、他の特命調査はどうか。他の本丸と同様に参加した。関わる刀を審神者も長義も知っていたが、政府側が珍しくしっかり配慮を見せ、直接関わったことがない個体を派遣して、何事もなく調査完了の後に配属となった。
     ただ、最後の特命調査だけは違った。いや、調査自体は滞りなかったのだ。問題は配属された刀を審神者の元で顕現し直した時に起きた。
    「色々と思うことがあってな。世話になることになった。なあに、私情よ。気にするな」
     決まった顕現時の言葉を述べた直後、その刀は審神者の隣に控えていた山姥切長義の頭を鷲掴んだ。
    「山姥切の坊主。よくも二年間、おひいさんの写真の一枚も寄越さずいてくれたな、ええ?」
     少々柄悪く、出会ったばかりの長義に凄む刀に、長義はあっ、と声を上げた。
    「貴方もしや、あの一文字則宗か!」
    「そうさ。坊主の次にお姫さんのことを可愛がっていたのに、まだ本丸配属はできないからという理由で二年間も引き離された一文字則宗だ」
     気が済んだのか、長義の頭から手を離した則宗は、ぱっと身体の向きを変えて、審神者に向けて両腕を開く。顔を輝かせた審神者は、その胸に飛び込んで、身体いっぱいに喜びを表現した。
    「則宗のおじさま、お久しぶり!」
    「……おじさま?」
     特命調査の頃からなんとなく胸騒ぎがして、政府から新たな刀剣男士が来るというので集まっていた福岡一文字派の刀たち。隠居したはずの元の頭と自らの主が抱き合っている様を見た彼らは、どういうことだ、とぐしゃぐしゃにされた髪を直す近侍の方を窺った。



     一文字則宗もまた、玉塵城の山姥切長義と同じく時の政府で顕現された刀である。保管用の地下書庫の物理的な護りを行いつつ、書物に歴史修正の影がないかを調べる役目を与えられた刀剣男士だ。趣味も兼ねて書物に目を通し、記述に揺らぎを見つければ調査を行う役目の者に報告する。刀を振るう機会は殆どないけれど、隠居した身には丁度いい仕事だった。
     そんな折、書庫の前を政府の役人が慌ただしく通り過ぎていった。何度も往復する役人の一人を捕まえて、何事だと則宗が問いかければ、保護室を使うことになった、とだけ返された。
     書庫に通ずる廊下をさらに進んだ突き当たり、そこに『保護室』はある。今までそこに入ったのは何かをやらかした政府の要人だったり、引っ捕らえてきた歴史修正主義者の下っ端だったりしたわけだが。さて。それにしては物々しさが少ない気もする。
     停滞しかない業務に多少飽いた心のあった則宗は、廊下の端に立って、こっそり見物することを決めた。さほど待たないうちに、本命と思しき集団が転移エレベーターのある場所から現れる。遠目に見える者は皆スーツを着ていて、保護対象者らしき者はいない。んん、と首を傾げ目を凝らすと、彼らの足元に華やかな色が見えた。
     近づいてきた集団から身を隠し、先ほど見つけた色を探す。いた。紅梅の細長の裾を雑に括りあげられて、歩幅の大きな役人に手を引かれて引き摺られるように歩く、随分と別嬪な娘だった。
     要人の御息女か何かか? とすぐに通り過ぎて行った少女の身元に想像を巡らせる。物々しくないわけだ。あんなに小さな娘に何ができるはずもない。けれども、その娘をわざわざ保護室に担ぎ込んだのも事実なわけで。
    (……暫く廊下に出ないでおこう)
     面倒事を嫌った則宗は、書庫に引きこもることを選んだ。
     その翌日、ばたばたと真っ白の狩衣を着た若者が保護室へと駆けていった。その後ろをストールを羽織った刀剣男士が殺気立って着いていく。少しした後、また二人分の足音が書庫の前を過ぎたのを把握して、面倒事が起きるのが早すぎないか、と則宗は呆れた。
    (神職に刀剣男士。しかもあの山姥切長義、遡行軍よりも妖だの歴史修正主義者だのを斬った数の方が多いと評判の男じゃないか)
     こりゃ血が流れるか。それであの幼子が穢れるのは少々哀れだな。そんな風に思いながら、則宗は引きこもりが半日で済んだことを喜んだ。

     さらに数日経った。則宗が日々のささやかな楽しみの一つ、他の刀たちとの食堂での語らいを終えて書庫に戻る途中、また少女を見かけた。ふわふわした白いコートを着て、あの山姥切長義に手を引かれて、小さな足をちまちま動かしながら、繋いでいない手を胸の前で握り込んでいる。その様子がなんとなく気にかかった。
     少女より先に、長義が則宗の姿に気づいて軽く頭を下げた。すれ違えるように足の向きを変えた彼の前、つまりは少女の前に則宗は陣取り、少女と目線を合わせるように膝をつく。
    「こんにちは、お嬢さん。初めまして、だな」
     大きな青灰の瞳が則宗の金の髪を映し込んできらきらと輝いた。
    「……初めまして」
     戸惑った様子を見せながらも、きちんと挨拶を返す子供に、則宗は人好きのする笑みを浮かべる。
    「お嬢さんの右手の中身が気になってな。大切なものかい?」
     ちょんちょん、と指先で固く握られた拳をつついてやると、少女は拳を開いてみせた。小さな絵馬だった。とても読めはしない字が書かれた、とんでもなく力の強そうな。
    「ねえさまがくださったお守りなの。すこし前、奥のお部屋においたままにしてしまって、だから取りに来たの」
     ねえさま。姉ではなかろうと、絵馬から少女に視線を移しつつ考える。
    「そうかい、手元に戻ってきてよかったなあ。その『ねえさま』はお前さんのことを随分大切にしているようだ」
     さりげなく情報を引き出すような物言いを、ついしてしまった。幼子相手にこれはないだろうと反省していると、その幼子がぱあ、と笑う。
    「うん! 私、ねえさまに大切にされてるの。私も、ねえさまのことが大切なのよ」
     刀剣男士は、気分が良いと桜を舞わす。人の子もそうだったか? と思わず考えてしまうほど、その笑みはケチくさく寒々しい廊下を、まるで春の日の桜並木の通りのように変えてしまった。
    「そうかそうか。それならお前さんのことはお姫さんとでも呼ぼうかね」
     幼子がこてんと首を傾けた。頭上から、ねえ、と知っているよりも低い声で呼び掛けられたが、則宗は構いやしなかった。
    「僕は一文字則宗。一文字派の祖で……まぁ、自分で言うのもなんだが隠居のじじぃだな」
     ぱん、と扇子を開いて桜を舞わせ、則宗は名乗りを上げた。うわ、と面倒そうな顔をした長義を無視して、則宗は幼子を撫でる。
     一文字則宗は、ほんの僅かに言葉を交わしただけの少女の、あんまりにも可愛らしい笑みに惚れ込んでしまったのだ。

     地下書庫の業務は、基本的に暇である。他にやることがなかったから書物を延々と読んでいたが、一文字則宗には新たな楽しみができた。政府に保護された少女と、ついでにその世話役の青年とを構うことだ。
     今日もまた業務を最低限、素早く終わらせて、小さな少女の元へ向かう。
    「……貴方、また来たのか」
    「則宗さん!」
     書類を片手に嫌そうな顔をわざとらしく作る男と、椅子から立ち上がり腕を広げて駆け寄ってくる少女。対照的なふたりに、則宗はにんまりと笑いながら少女を抱き上げてやった。
    「今日も可愛いなぁ、お姫さんは」
     よぉーしよしと頬ずりしてやれば、少女はきゃあと声を上げて喜ぶ。長義は一応周囲に危険がないことを確認して、書類に目を戻した。
     少女が政府保護下に入って半年、則宗は暇を見つけては彼女の元に通った。寒々しい廊下の先の暗い書庫、自覚できない深層が疲れ始めていた則宗に春を運んだ少女を、彼は非常に気に入っていた。
    「今日していたのはお勉強か? おや、これは二百年前に流行った鬼退治の物語じゃないか」
    「社会のお勉強だって、先生が。則宗さんも、物語の剣士さまみたいに戦えるの?」
    「その剣士さまよりも僕はすごいぞ。山姥切の坊主には負けるだろうがな」
     うはは、と笑いながら則宗は少女の座っていた椅子に座り、膝の上に少女を下ろす。夏らしく、少女は金魚柄の可愛い浴衣に金魚の尾のような兵児帯を結んでいて、帯を潰す心配のいらなくなった則宗は少女の頭の上に顎を乗せた。
    「山姥切のそれは何の書類だ? ……ああ、この間の報告書か」
     少女の前で見ているなら機密事項ではないだろうと勝手に書類を拾い上げると、数日前にこのふたりが『ねえさま』を訪ねた時の報告書だった。
     異常なし。で済ませたあとに、少女と『ねえさま』のした遊びや可愛らしい少女の発言が戦況報告のように事細かに書かれるそれは、一部の者に非常に人気がある。かくいう則宗も、一度も欠かさずにその報告書を読んでいた。
     今回のお参りも随分とまた可愛らしいことをしてきたようだと報告書を読み進め、僅かにインクの色の違う最後の一文に、則宗はおやあ、と愉快そうな声を出した。止めの部分にインク溜まりのできた不恰好な文字は、書くかどうか悩みながらも書かれたということをよく表している。
    「お姫さんお姫さん。山姥切の坊主に聞きたいことがあるんだが、僕は喉が痛くてなあ。代わりに呼んでくれないか」
     扇子で口元を隠し、こそこそと少女に耳打ちする。素直な少女は、則宗を心配そうにしながらも頷いて、長義の方を向いて口を開いた。
    「にいさま。則宗さん、ご用事があるみたい」
     一瞬桜が散ったのを、則宗は見逃さなかった。
     素早く顔を上げた長義は、まず少女を見て、すぐに則宗に目を移す。にまにまと笑う自称じじぃを睨んで、長義は言った。
    「何か、言いたいことでもお有りかな」
    「いいやぁ?」
     言葉は冷たく今すぐにでも斬りつけてきそうな鋭ささえあるというに。その右耳を赤くして、桜こそ散らないけれど明らかに機嫌よく口元を緩ます男に、とうとうこの男にも春が運ばれたか、と則宗は肩を揺らして笑った。

     また半年が経った。少女はすっかり政府での生活に馴染んで、少女と長義が連れ立って歩く姿は、時の政府の者にとって日常風景と化した。
     半年前の可愛らしい出来事以来、長義が遠慮なく少女を可愛がるようになったのは、彼らのそばにいた則宗がよく知っている。彼はふたりを――主に長義を――揶揄って『長義の父娘おやこ』と呼んだりした。その訂正が『改めろ。兄妹だ』という斜め上にずれたものだったので、思わず真顔でツッコミを入れたりもした。
     そんなある日、珍しく長義が一人で地下書庫を訪ねてきた。どうした、と尋ねれば、本当に、この男にしては珍しく、上手く言葉を繋げられずにまごついていた。
    「その、あの子のことなんだけど」
     ようやく出てきた言葉はそれで、則宗は、にやけ顔を作るか一瞬悩んで、とりあえず神妙な顔を作ることを選んだ。
    「あの子が此処に来てから、もう一年になった。誕生日も分からない子だけど、短い人の子の人生の節目だ。何か祝う品を贈ろうと思って……」
     なんと、まあ。
     要するにこの抜身の刀が人の形を得たような男は、世話をしている子供に誕生日プレゼントを贈りたいと、そう言っているのだ。
     真剣な顔を取り繕ったのが功を奏したか、長義はすらすらとプレゼントの案を述べ、意を決したように則宗を見た。
    「――と、今のところはこう考えている。則宗はあの子の好みも知っているだろうし、助言が欲しい。生憎、人の子に何かを贈るなんて初めてなんだ」
     一文字則宗は、素直な子供に純粋に慕ってこられれば、全力で可愛がる性質だ。素直じゃない若者が、本意ではなさそうながらも信じて頼ってくれば、相好を崩して構い倒す性格だ。
     真剣にプレゼントの案を練り、用意したプレゼントを見て顔を綻ばせる男の横顔に、思わずその銀髪をわしわしと撫でた。撫でた手は、折れるのではないかというほどの力で叩き落された。
     長義が少女にプレゼントを渡すのを、則宗はその後ろから眺めて、とても良い気分に浸った。気に入りの子同士が仲睦まじくしている様子は、年長者を喜ばす一番の贈り物だ。
     愛しかない光景をほくほくとした心地で見守っていると、何事かを耳打ちされた少女が、ととと、と近づいてくる。顔の辺りに置いていた扇子を閉じれば、細い腕が腹に回された。
    「則宗のおじさまも、ありがとう!」
     扇子を取り落としかけて、この子にぶつけてはいかん、とどうにか指先に力を込めて堪えた。回された腕はきっと少女なりに力が込められていて、その非力さに改めて驚きながら、乱れた前髪を直すように撫でる。
     春告草だ。春の暖かさをいち早く告げて、見た者の心を解く花。
    「……こりゃ、敵わんなあ」
     則宗は長義に目を向ける。いつもの取り澄ました微笑みをやめて、愉しげに口元に弧を描かせた男が、唇の動きだけで『おまえもおちろ』と伝えてきた。



     主たる少女に手を引かれ背後に同派の刀たちと近侍を伴って、用意された自室に上機嫌に案内された則宗は、この部屋は自由に使って良いんだな、と確認して、にこりと笑った。
    「お姫さん、いや、主。二年分の贈り物だ」
     その言葉が響いた途端、どさどさどさ、と音を立てて大小形も様々な箱が部屋の壁に沿って落ちてくる。壁二面の前に箱の壁を作り出した則宗は、驚く審神者を尻目に、手近な小箱を開けた。
    「これは最近のやつだな。梅の枝の簪だ。今時分に丁度いいだろう」
     一つにゆわいていた髪を上手いこと簪一本でまとめながら、則宗は部屋の外にいた男士たちに声をかける。
    「隠居のじじぃにこの量の荷物を整理させる気か? 手伝え、坊主ども。とりあえず紅梅の着物がその辺にあるはずだから、それを探すところからだ」
     その言葉に真っ先に動いたのは、意外なことに山姥切長義であった。
    「この本丸での規則は追々話すとして。まあ、貴方は主のおじさまをしていた訳だからね。今回は目を瞑ろうじゃないか」
     おやこれは良い品だ、と目についた箱から日持ちのする菓子を取り出した長義は、懐から取り出した付箋にさらさらと『食品』と書き付け箱に貼る。
    「猫殺しくん、日光、それに山鳥毛も。こうなった則宗が気の済むまでお気に入りを構い倒すのは、君たちこそよく知っているだろう。彼に本丸の案内をするためにも、早いところ手伝ってくれるかな」
     元の頭からの命令と今の主の側近からの指示。それらを受けた三振りは、未だ疑問に思うところはあれど手際よく荷物の仕分けを始めた。菓子に衣服に食器。多岐にわたる品々は、白や紅の占める割合が高く、梅や桜の意匠が目立つ。
     一通りの整理を終えて、紅梅の着物に合わせて梅尽くしで揃えた装飾品を持った近侍と、それを着た姿を見せてほしいと頼まれた審神者が退出した。
    「ご苦労さん。いやあ、主が戻ってくるのが楽しみだ」
     背後にわくわくという擬音でも背負っていそうな有様に、山鳥毛は口元に手を当てた。
    「則宗、一つ気になったのだが」
    「ん? なんだ、山鳥毛」
    「貴方が選んだにしては、菊の意匠はないのだな?」
     そういえば、と日光は頷き、南泉は何かに気づいたような顔をする。
    「お前さんら、あの近侍の性質をまだ理解しきっていないと見える」
     山鳥毛と日光に向けてそう言った則宗は、扇子で膝を打った。流れるように開かれた扇子の奥から流された視線を受けた南泉は、腐れ縁の刀の、時々目の奥に燻る色を思い出す。
    「僕があの子に菊の意匠なんざ贈ってみろ。あの山姥切長義は、たとえこの世に一点しかない品であったとしても即座に斬り捨てるだろうさ」
     うはは、と笑う則宗を、二振りは不思議そうに、一振りは少々怯えの混ざった目で見る。
     三振りの目線を受けた則宗はゆっくりと顔を動かし、ふと、風を通すために開けた襖の先に樹木を認めた。手入れされたと分かる枝に未だ硬い蕾が色づき始めた、いかにも初春らしい姿である。
     冷えますか、と日光が襖を閉め、山鳥毛は火鉢と暖かい茶の手配を南泉に頼んだ。気遣い上手の一派の者に、持ってきた菓子の一つを出してやろうと則宗は決める。
    「……ま、この戦争はどうにも長引きそうだ。許す限り、見守るとするかな」
     誰に聞かせるでもなく則宗はひとりごち、その眦を、それはそれは柔らかく緩ませた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works