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    Tobik_S

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    Tobik_S

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    女性に化けてシチに会うエゴの話③
    シチカルです。

    何か長々なのにそんなに進んでない…

    あの日から五日、シチロウとは一度も会っていない。カルエゴとしてもローザとしてもだ。
    仕事が立て込んでシチロウとの時間を作れず、ローザとしての俺に会えと促すこともできないまま時間だけが過ぎた。
    会えない間、俺は一つの魔具を手に入れていた。それはよくある魔力を貯めるだけの代物だが、魔力を消費し続ける変化の魔術を使う俺にとっては有難い代物だ。
    もし万が一にも俺の魔力が底をついて、変化がとかれてしまった場合、俺は男の姿へと戻り、間抜けにも女の格好をしたままという状態になってしまう。そうならないためにも変化をしない間にこのブレスレット型の魔具に魔力を込めて、ローザの間は身につけるようにしていた。
    シチロウに会えなかった間も俺はローザになってはあの街に出ていた。そして今日も。
    シチロウに会えないのならばと今日はワイシャツとスキニーパンツ姿でいた。好き好んでワンピースやらスカートは履きたくないからだ。ヒールに慣れるため、それだけは履いて街中を歩く。暇つぶしにショーケースを眺めては、俺は目の前に写る偽りの姿にため息が出た。

    「(…シチロウに会えないのにこんな姿になって意味があるのか?)」

    確かに魔術の特訓は必要だ。だからこの行為は無駄ではないし、おかげで変化で消費する体力は幾分かマシになった。それでもこの無意味な行動、いや女に化けてること自体無意味なのだ。こんなことをして一体何になるというのだ。そんなことは頭ではわかっていてもどうにもやめられないでいる。

    「…薔薇か」

    シチロウが付けてくれた『ローザ』という名前に胸が熱くなる。シチロウだけが呼ぶ俺の新しい名前。それはどんな宝より高価なものに感じていて、ショーケースに映る俺はクスリと笑っていた。

    「…今日も来なそうだな」

    チラチラと周りを見渡してもあのデカい図体は見当たらない。本日何度かのため息をこぼして、振り返り帰ろうとした瞬間、目の前には見知らぬ男が二人、俺の前に立っていた。

    「…何か?」
    「いやぁお姉さん、ずっと一人でいたから、よかったら俺たちと遊ばないかなって」
    「どう?どう?」

    なんだこの不快を擬人化したような低脳の悪魔は。シチロウに会えず苛立っていたというのに更にそれを悪化させるか。こんな奴らさっさと気配を強くすればすぐに逃げ出すだろうと息を吸った。

    「貴様ら気安く私に話しかけ…」

    話しかけるなと言うつもりだった。けれどそれは大きな影によって止められた。俺が出すはずだった気配を男たちの後ろからそれは大きく出す男がいた。

    「彼女に何か用?」
    「「ヒィッ」」

    情けない声を出すと共に間抜けな男たちは一目散に逃げていくのを見ることなく、その気配の男に視線が釘付けになった。

    「ローザさん!大丈夫?」
    「へ、あ、バラムさん…ありがとうございます」
    「もう!女性がこんな時間まで一人で歩いてちゃダメですよ!!」

    先ほどの凶悪なオーラは消えて、優しい笑顔を向けてくるシチロウの顔をじっと見つめてしまう。そんな俺の頭をふわりと撫でた。

    「ローザさん美人なんだから余計にね」
    「ッ」
    「あ、ごめんなさい急に触って」
    「い、いえ」
    「女性に失礼でした。だめだなぁ僕触り癖あるから」

    あははと笑うシチロウから目を逸らす。撫でられた頭にまだ感覚が残っていて、顔が熱くなってきてなんて単純なんだと混乱した。

    「ローザさん?」
    「あ…な、なんでもないです」
    「顔が赤い…もしかしてさっきの驚かせちゃったかな」

    そう心配そうにシチロウが俺の頬に触れた。

    「ッッ」

    ダメだ。この姿で、お前に向ける好きを隠せない今、そんな優しい顔で触れられたら

    「あ…ゃ…」

    ボンっと体中が熱くなる。触れられた所がわかりやすく熱を持って、見つめられる視線から逃げたくて自分の瞳が揺れる俺を見てシチロウはクスリと笑った。

    「ふふ、可愛いねローザさん」
    「ッッッ!!」

    パクパクと口を動かしてしまい、混乱したままの俺を置いていきシチロウはあぁそうだと声を出す。

    「こないだカフェに行った時、お金多く貰いすぎちゃったから、今日お時間ありますか?よかったら今度は僕がご馳走したいなって」
    「は、は…!」

    はいと大きく返事をするところだった。巡るのは自分の体のこと。もうここに長く居すぎた。ローザとしていれる時間はあと少し…それに

    「…すみません、時間があまりなくて。それに…その、私今日貴方に会うと思ってなくて、服…」
    「服?」
    「…お誘いとっても嬉しいです。だから…その…もっと、貴方に可愛いって思ってもらえる服でまたお茶したいです。あ、明日!明日はだめですか」
    「…はい、明日一緒に美味しいところ行きましょうか」
    「はい!」
    「それじゃ明日夜にここで待ち合わせしましょうか」
    「はい。楽しみです。…すみませんバラムさん、時間がそろそろなので失礼します」
    「はい、では明日!」

    優しく手を振ってくれるシチロウに俺も微笑みながら俺も振り返す。明日、明日またこの姿でシチロウに会えると俺は浮き足で家へと帰って行った。

    「バラムさん…か」

    _______________

    「はぁ…はぁ…」

    自分の部屋に駆け込むと、すぐさま服を脱ぎ去り床に電池が抜けたみたいに座り込むと、魔術がゆっくりと解けていく。真っ赤なままの顔を必死に抑えた。
    別に子供じゃないのだから、あんな事で心を乱すことはなかった。けれど隠さなくていいのだと思ってしまえばそれは溢れ出る。

    「明日…そうだ明日だ」

    明日、またシチロウと出かける。ただの仲のいい悪魔としてではなく、ただシチロウを好きな悪魔として。
    触れられた頬がまだ熱い。シチロウが触れたのはこんな硬い頬じゃないけれど、それでもあんな近くであんな風に触られたのが初めてで、見たことの無いシチロウに俺の頭は追いつけないままでいた。ブルブルと頭を振って、すぐに着替えた。一人用ソファに足を抱えて座ると、俺はその足の間に顔を隠す。

    「明日は何を着ようか。シチロウはどんなのが好きなんだ?」

    長年一緒にいても、シチロウとは色恋の話をしたことが無い。だからシチロウの好みも何もわからないというのは今更ながらに後悔した。

    「…こんな事も知らないで仲のいい悪魔なんてよく言えたな」

    ただお前に好きだと言われた髪を崩さないように綺麗に伸ばすくらいしかして来なかった。
    優しく自分の髪を撫でたあと、クローゼットに近づき、見慣れない服たちを見つめたあと黒のワンピースを取り出しては俺はそれを抱き締めた。

    「…薔薇のワンピース」

    それはシチロウが俺に名前を付けた理由。そのワンピースを恨むように抱き締める。

    「…花か。そう言えば花柄のスカートがあったな」

    買い物時に適当に見繕ったものにそんなものがあったはずだと、服を入れている紙袋を漁ればそれはすぐに顔を出す。

    「…げっ…こんなに短いものだったか?」

    それは黒い色に花が散りばめられた、膝より上の長さのそれに頬を引き攣った。

    「まぁいい、これに白シャツでも合わせればいいだろ」

    これでまたシチロウが微笑んでくれるなら、我慢ができるとそのスカートの長さに目をつぶった。

    「…大丈夫、俺ならバレない。嘘さえ、付かなければいい…そう…大丈夫」

    _______________

    「カルエゴくん!!」
    「っ!」

    次の日、いつも通り仕事をしてやっと終わったと廊下を歩いていれば、その愛おしい声が俺を呼んだ。その声にびくりと肩を震わせてしまった俺はゆっくりと後ろを振り返る。

    「…あぁシチロウ」
    「やぁ。今週はあんまり会えなかったねぇ」
    「あぁそうだな」

    カルエゴとしては、だがな。
    そんな後ろめたさにシチロウから視線を逸らす。

    「どうかした?」
    「いや」

    向けられる視線の違いが俺に追い打ちをかけた。服を握り締めたいのを必死に堪えて俺はシチロウに背を向ける。

    「え?一緒に帰らないの?」
    「悪いな。今日は予定があってな」
    「予定?何か教えてくれる?」
    「お前には関係の無いことだ」
    「何それ」

    そうだ。俺はシチロウとここで話し込んでいる時間はない。"あのシチロウと会うために"俺は女に化けて、化粧をして、服を見て、事前に話す内容を決めなくてはならない。

    「時間が無いんだ悪いな」
    「ちょっと!少しくらい教えてよッ」

    そうシチロウが軽く声を出すのでため息をしてシチロウから視線を逸らして俺は素直にこう言った。

    「大事なヒトに会いに行くんだ」
    「………」

    じゃあなっと振り返った瞬間、シチロウが俺の腕を掴んだ。無理矢理またシチロウの方を向かされると困ったように声を出す。

    「…そのヒトのこと好き?」
    「……あぁ」
    「…………そっか」

    そう俺が漏らせば、シチロウの手はだんだんと弱まっていく。

    「…もう!好きなヒトが出来たならその時に教えてよっ!」
    「なぜ?」
    「なぜって…僕とキミの仲じゃないか」
    「…お前、俺にそういう話してきたことあったか?」
    「ない…けど。だって僕はそういうヒトいないだけで、キミに話してないとかそういう…」
    「じゃあお相子ってことで」

    また俺は背中を向けようとした瞬間、左肩が下がるほどにシチロウが俺の腕を引っ張った。何をするんだと睨みつけるがシチロウが俯いていてその視線は届かなかった。

    「…行かせたくないって言ったら困る?」

    そんなシチロウの言葉に息を漏らした。仕方ない奴だとジト目で見てまた俺は息を吐く。

    「何だ、お前仕事終わってないのか?」
    「え?」
    「悪いが手伝いはできんぞ。もっと要領よくすることだな。どーせ何かに夢中になってたんだろ」
    「あはは、痛いとこ突くね」
    「悪いが本当に急いでるんだ。俺は行くぞ」
    「ごめんごめん、じゃあ楽しんで」
    「あぁ」

    今度こそシチロウが俺から手を離す。優しげに笑って手を振ってくるシチロウに俺も手を振り返す。あぁ楽しみだ。お前とまた会うんだ。そんな俺の事なんて知りもしないだろう。
    お前のために魔術を磨いた。お前のために服を選んだ。お前のために化粧を覚えた。お前のために…俺は俺を苦しめる。

    「カルエゴくんのばか」

    ________________

    「よし、こんなもんか」

    姿見で確認しながら、白いシャツのリボンを結んだ。前髪を何度も弄って、慣れない化粧の感覚に眉を歪ませながらも、何とか支度を済ませる。

    「口調は敬語は絶対だな。ボロが出る…あとは何とかなるか」

    歩き方もすぐにマスターした。ヒールにも慣れたものだ。大丈夫、俺ならやれる。

    「行くか」







    「(…っと言ってもアイツ仕事残ってるって言ってたしな。まだ来てるかも怪しいな)」

    いくら継続時間が伸びたからと言ってあまり無駄な魔力は使いたくないなと思いながら俺は早足で待ち合わせ場所に来てみれば、そのデカい図体はそこにいた。

    「(いた…。仕事は?どうした??…まぁアイツの事だ。上手くやり抜けたんだろ。学校で別れてから二時間は経ってるしな)」

    立ったままシチロウはぼんやりと空を眺めていた。そんな姿に首を傾げる。

    「あ、ローザさん!」

    俺に気付くとシチロウはすぐに笑顔になった。ヒラヒラと手を振っては、駆け寄ってくる。

    「こんばんは。ローザさん」
    「…こんばんは」
    「ローザさん?」
    「…バラムさん、何かありましたか?」
    「え?」
    「元気がなさそうだったので」
    「あー…はは、わかっちゃいました?」
    「ええ」

    困ったなぁっとシチロウは頭を掻く。どうした、さっきまで普通だったぞ?何かシチロウが元気ではなくなるようなことはと頭を悩ますが特にこれと言って思い当たるものがない。

    「どうしたんです?」
    「……はは…えーと…実は」

    シチロウの目が段々と伏せていく。マスクを指で弄りながら、掠れた声でこう言った。

    「好きなヒトに振られちゃいました」
    「え…」

    ズンっと体が重くなった。シチロウに好きなヒト…?そんなものが居たのか。いや、何をそんなに驚く。いつかはそういう未来を受け入れると決めたはずだろ。大丈夫、大丈夫、俺は、カルエゴはちゃんと奴との距離を間違いない。あぁそうさと息を吸った。

    「わ、私と会ってたせいでしょうか?」
    「え?」
    「何かお相手に誤解などされて…」
    「ち、違う違う!それは大丈夫ですから!」
    「本当に…?」
    「えぇもちろん。振られたって言ったて直接どうこうあった訳ではないですし!」
    「そうなんですか?」
    「はい」
    「…だったら諦めちゃだめですよ」

    ね、っとシチロウの手を取って笑いかける。大丈夫、俺はお前の恋を応援する。
    ----あぁ、この姿になってもお前と結ばれることはないんだな。
    ぐちゃぐちゃな思考に無理矢理蓋をして、ニッコリと笑った。

    「バラムさんはお優しくて素敵な殿方です。大丈夫、きっと振り向いてくれますよ」
    「ローザさん…。そ…ですね、諦めません!頑張ります!」
    「はいっ」
    「あ、すみません!ご飯、行きましょうか!」
    「はい」
    「何食べようかな〜」

    暗い顔から一気に明るくなると、シチロウは鼻歌を歌いながら歩き始めた。それを俺は黙ってついて行く。

    「(…大丈夫。俺なら大丈夫)」


    街中に出れば、電球の灯りが俺たちを照らす。低くなった背のせいで、シチロウの背中がいつもより大きく見えて、そうして俺はこの背中に触れることはできないのだと再確認した。

    「あ、ここですローザさん」
    「?」
    「ここ、女性に人気なお店らしいですよ」
    「ここは…」

    カフェレストランと書かれたその看板。確かに外から見ても中にいる客は女性やカップルで多く、静かそうな雰囲気ではあるが…

    「…ここはやめにしましょう」
    「へ?あ、何か苦手なものとか…」
    「いえ、ここには個室はなさそうなので」
    「個室…?」
    「近くに私の好きなお店があります。そこに行きませんか?」
    「は、はい」

    よかった。まだシチロウと行ってはいなかったからバレはしないと俺は先を歩くとそれはすぐに顔を出した。

    「た、高そうなお店…やっぱりローザさんってお嬢様だったんですね」
    「見た目はしっかりしていますが、値段はそんなことないんですよ?」
    「…お金足りるかなぁ」

    シチロウが高い店はあまり好きじゃないから、ちゃんと下調べはしたお店だと俺はさほど気にすることもなく店の中へと入っていった。

    「味もすごく美味しいのでバラムさんのお口に合うと思います」
    「へぇ楽しみだ」

    初見がお断りだとか、そういう畏まったルールはなく、店員が現れては俺は一言だけ個室でと注文すればすぐに案内される。綺麗な木目が見える静かな空間が俺は好きだ。個室に入れば、黒い大きなテーブルが真ん中にあり、向かい合って俺たちは座った。

    「コースとか特にないので、適当に注文しましょうか」
    「え、あ、は、はい!」
    「では」

    すっと手を上げれば店員が近付いて、俺はメニュー片手に適当に料理を注文しては、店員は一例してすぐに去って行った。軽くシチロウと会話をすれば、すぐに温かい料理たちが運ばれてきてシチロウは目を輝かす。

    「冷めないうちに食べましょう」

    そんな俺の声にシチロウは頷くとゆっくりとマスクを外して、テーブルにそれを置くとじっと俺を見つめてくる。

    「どうしましたか?」
    「いえ、料理たちが美味しそうだなって」
    「じゃあまずこれ食べてみてください」

    俺は肉料理を皿に多く盛り付けるとそれをシチロウに渡した。

    「きっと気に入ってくれると思います」
    「はい、ありがとうございます」

    嬉しそうにシチロウは受け取ると、大きなその肉に齧り付く。けして綺麗な食べ方と言えるものではないが、俺はそのシチロウの豪快な食べ方が好きだ。頬杖をついてただ見つめたいのをグッと堪えて、俺は長い髪に手をかけてゴムで軽く縛った。
    自分の皿には、シチロウの量とは比べ物にならないくらい少ない肉にナイフとフォークを持ってゆっくり丁寧にそれを切っていく。あぁやっぱりここの料理は美味いななんて考えてる俺をシチロウはじっと見つめてくる。

    「どうかされましたか?」
    「ローザさんの食べ方僕と違って綺麗だなって」
    「そうですか?」
    「僕ほら、こんなんだから食べ方で汚いし」
    「…私はバラムさんの食べ方好きですよ」
    「え?」
    「美味しそうに食べてるので」
    「はは、初めて言われた…」
    「はい素敵です」
    「あ、あのこのお肉とっても美味しいです!」
    「よかった。お口にあって」

    まぁシチロウが気に入ることは分かっていたがと俺は心の中で鼻を高くする。ゆっくりゆっくりとナイフを進め、俺は例の問題に背を向けた。

    「(…ローザとしても仲のいい悪魔になれればいい。今この時間を大切にしよう)」

    ________________

    「すみません、私が勝手に選んだお店なのにご馳走になってしまって」
    「いえいえ、元々そういう約束でしたし気にしないで下さい。というかほとんど僕の分ですし」

    お腹いっぱいと嬉しそうにシチロウは自分の腹を撫でた。そんな子供っぽい仕草に思わずくすりと笑う。

    「…ローザさんは笑顔が素敵ですね」
    「え?あ、ありがとうございます」
    「僕のね、仲のいい悪魔に笑顔が下手くそなヒトがいるんです」
    「?」
    「…ほんとそのヒトの笑顔はローザさんみたいに可愛くないんですけどね」
    「そう…ですか?」
    「それからね」

    シチロウは優しく俺の髪の束を持った。少し切なげに笑って目を細める。そんな動きに俺は思わず肩を上げた。

    「キミみたいな綺麗な髪をしているんだ」
    「っっ」
    「僕はその髪が好きでこうやって触れたいってずっと思ってる」
    「……そ…です…か」

    また心が重くなった。鉛を上から落とされたようなそんな感覚。シチロウの目を上手く見れなくて、逸らしてはその瞳を揺らした。

    「(…知らない、きっとそいつがシチロウの想い人だ)」
    「あ、すみません、女性の髪を触ってしまって」
    「いえ大丈夫です」

    声は震えてないか。体は強ばってないか。懸命に自分の体に嘘をつく。深呼吸をしてシチロウに微笑みかけた。

    「バラムさんあの明日…」

    俺の声に遮るように例のアラームがまた鳴り響く。二人揃って驚いては、俺は慌ててその音を消した。

    「…すみません。私そろそろ失礼しますね」
    「あ、あの!」

    軽くお辞儀をすれば、シチロウが俺の腕を掴む。

    「また、会えますか」
    「……はい、きっと」

    本当は明日と伝えるつもりだった。なのに俺の口は震えてそれを上手く伝えられない。このままローザとして過ごせばいいのに、俺は怯えてしまったのだ。

    手を振ってシチロウと別れる。俺はすぐに羽を出して猛スピードで帰った。
    帰り道がこの数日で一番静かに感じた。ローザとしてもきっと選ばれることはない。この姿になる意味は完全になくした。
    家に着けば、いつも通り服を脱いで魔術を解く。服をすぐに来て、俺は静かに椅子へと座った。

    「…俺の髪が好きだって言ったくせに」

    ローザにすら言った言葉、つまり俺に言った言葉もシチロウにとっては何の意味もないものだった。俺はそんな軽い言葉を真に受けて、ご丁寧に髪を伸ばした。なんて笑える話なんだろうか。

    ザクッ…。
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