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    Tobik_S

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    Tobik_S

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    ご都合事故で恋心を忘れてエゴを拒絶するシチの話③シチカル

    勿忘草③「キミって相変わらず陰湿ですね」
    「…藪から棒になんですか」

    最近やたらとオペラが現れることにカルエゴは頭を抱えた。そうして何日か続いた今日、また廊下で会えば、開口一番にそう伝えてきたことにカルエゴの眉間のシワは更に深くなった。

    「あなたがやっている賭け事に私も乗りたいと思いまして」
    「は?そんな事別にしてませんが」
    「香水」
    「!!」
    「なので私もその香水の一部になりたいとね」
    「アンタ…」
    「カルエゴくん。私の提案に乗ってみませんか?」
    「…何を考えてる」

    すっとオペラはカルエゴに話す。その内容にカルエゴは目を見開きながらも、そうしてその提案に頷いた。
    どうせそんな事したって、何も意味などないだろうなとわかっていても、きっとそれを知っても今のシチロウの心を動かすことはないだろうとカルエゴはわかっていてもそれでも頷いた。
    ただ少しでもこの心の隙間を埋めてくれるのであればと。

    「では今夜あなたを我が家へ呼びますね」

    小さくオペラは耳元で囁いた。








    夜はやけに冷たい。
    ホテルで一人で過ごすのが嫌になった最近は、よくホテルの近くの酒が飲める場所へと足を運ぶ事が多くなった。
    オペラの元へ行く前に、夜道を歩いて気に入ったバーへと足を運ぶ。コートのポケットに手を入れては、カルエゴは舌打ちをした。

    『どうせ本当にする勇気あなたにはないでしょ?』

    そうオペラはカルエゴに言った。一体あのヒトは何を考えているのだと頭を抱える。

    「(……そう思わせても、シチロウは気付くこともなかったがな)」

    __いや思わせたいなどただの強がりだ。

    毎日カルエゴが香水を変えるのも、シチロウに勘違いさせるためではなく、ただあの匂いが嫌になったからだ。

    __シチロウが好きだと言った匂いを毎日付けて、そうしてアイツと一緒に住んで染み付いたその匂いを嗅ぐだけで、虚しくなった。
    シチロウの匂いが混ざらなくなった服に、シチロウと同じシャンプーも変わって、同じ香水なのに別物みたいなった。
    だから代わりを探している。
    全く違う匂いを俺は無意識に探している。

    「(……なんて女々しくて馬鹿らしいんだろうな)」

    髪を降ろし、いつもと雰囲気を変えるだけの足掻きをして、バーの中へと足を運ぶと酒に溺れた。

    「(…勘違いを本当にする勇気…か)」

    認識阻害でも掛ければ、素性も隠せるし、今は前髪で目元を隠している。
    やろうと思えばやれるなと、グラスの淵をなぞった。
    前はヤケになって、勢いで電話番号を受け取ったし、相手には教えなかったが、それでももしも…なんて考えて律儀に登録した自分に嫌気がさす。

    「(嫉妬して、怒って、勢いで思い出してくれるかもなんて…幼稚だな)」

    強い酒を飲み過ぎたせいか、段々と意識が失われて行った。船を漕ぎ始めては、グラスをゆっくりと置いた。

    「…しちろう」
    「-----」
    「ィ!?」

    _________________

    オペラが教えてくれるまで、匂いのことについてはシチロウは気付くことはなかった。
    昔ならカルエゴの少しの変化も気付けたのだが、今は彼の匂いがわかるほど近くにいない。
    物理的に距離を取られているし、正直な話、前の匂いなど覚えてなどいない。
    それにシチロウはオペラやカルエゴに比べてしまえば匂いに鈍感なのだ。
    種族の差というのはこういう時に分からされるなとシチロウはただぼーと考えた。
    きっとまた今日もシチロウが知らない匂いをどこかで付けてきているのだろう。

    「イライラする」

    __こんなにイライラする必要なんてないよね

    すっとそう思えば心が軽くなった気がした。
    恋人という関係性にまだ疑問を抱いているし、シチロウはカルエゴとイルマの教えてくれたオトモダチへと戻りたいのだ。
    ならばカルエゴに別の新しい恋人ができれば、この空いた距離は埋まるだろうし、その恋人の話をしてはまた仲良くなれる。
    その相手がもしオペラになるのだとしたら、嬉しい事じゃないか。仲のいい二人が恋人同士になってそして、

    「(……夢で見たあの顔を先輩にするのかな)」

    カルエゴがオペラに笑いかけて、優しく頭を撫でることは全然想像できないが、それでもシチロウが知らないところで自分を曝け出しているのかも知れないと思うと胸の奥が少し気持ち悪くなるなと、そっとシチロウは自分の胸を撫でた。
    ブンブンっと頭を振っては深呼吸をし、そんなことよりも溜めていた論文をどうにかしなくてはならないなと学校の廊下を歩く。

    「あ」
    「…シチロウか」

    トンっと胸に衝撃を受けると、額を擦りながら書類を読みながら歩いていたのだろうカルエゴがそこにいた。思わず目を逸らしてしまうシチロウは、言葉だけでも心配をかけた。

    「悪いな。よそ見していた」
    「いいよ、僕も考え事してたし」
    「そうか。じゃあ」

    書類が折れたりしてないかを確認すると、カルエゴは静かにシチロウの横を通り過ぎようとしては目頭に力を入れた。

    「!」

    その顔に思わず振り返ってはシチロウは逃げられないようにカルエゴの腕を強く掴むと、それはわかりやすくカルエゴの目は見開いた。

    __あぁ、キミを愛したことは忘れてしまったけど、それでも、今の僕でも分かることがある。

    「何、あったの」
    「ッ…」

    パンっと音を立てては、カルエゴはシチロウの腕を払った。そうして睨みつけては「お前には関係ない」っとただ一言突っぱねられ、怒りを込めてはまたシチロウは腕を掴んだ。

    「何それ。恋人じゃなかったら心配するのもダメなの?ただの同僚にはそんな権利ないって言いたい訳?」
    「……離せ」
    「嫌だ」
    「……」

    グイグイと何度も振り払おうと試みるが、シチロウの腕力にカルエゴが叶うはずもなく、ただ体だけが嫌だと小刻みに震えた。

    「いいから!!離せ!!!!」
    「ッ」
    「今お前に触られたくないッッ!!俺に触れるなッッ」
    「…は」

    それは本気の拒絶。嫌だ、離せ、と暴れてはカルエゴは無意識的なのかやたらと書類で首元を隠そうとする事に、シチロウは目を細めた。

    「…!!!」
    「離、せ…!!」

    腕力だけでは心底適わないことにカルエゴは舌打ちをすると、息が詰まりそうな程に襟元を引っ張られる。んぐッっと吐いても、シチロウは気にすることなくそこを引き寄せてた。

    「…おい」
    「ッ…!」
    「この歯型ッ誰に付けさせたッッ!!」

    あまり見たことの無い、シチロウの怒鳴り声に思わずカルエゴは肩を上げた。一瞬恐怖に飲み込まれそうになるが、耐えてはカルエゴは掴んでくる腕を離そうと試みる。

    「今のお前に…関係ないだろッ」

    あぁそうだ関係ない。そう自分に言い聞かせる度にカルエゴは唇を噛んだ。

    「ふざけるな」

    そう腹に響く低い声、カルエゴを睨み付けては投げつけるようにしてマスクを地面へと落とした。

    「シチ…!」

    大きく開かれた口から垂れた唾液をただ見つめてしまい、一瞬動きが遅れた。
    噛み付かれる、そう思った瞬間、手に雷のような魔力を出してはケロベロスの体の一部を出そうとした瞬間、首元にシチロウの鼻息が辺りその嫌でもまとわりつく匂いにシチロウは更に口を開けた。

    __あぁそうかこの噛み跡はあのヒトだったのか

    シチロウしか知らなかった顔を見せたということか。この細い首に牙を食い込ませて、白い肌を赤く染めさせた。

    __自分以外が触れた事実、あぁそれはとても

    「気持ちわる」
    「!!」

    出始めたケロベロスの魔力が少し揺らいだタイミングでポンっと二人の頭を抑えられた。

    「止めなさい」

    そう静かに窓からやってきた声は、宥めるように力強い腕力でシチロウとカルエゴの距離を物理的に取らせた。

    「オペラ、先輩」
    「……お、まえ…!!」
    「辞めてください学校で風紀を乱す行いは」

    オペラの声など聞こえてないシチロウはフゥーフゥーと怒りの声を出しては、オペラにも飛び掛かろうとしたのを簡単に避ける。そしてカルエゴの体を持ち上げた。

    「は!?」
    「逃げますよカルエゴくん」

    片手でカルエゴ抱き上げたまま、オペラは窓から飛び降りた。

    すっと落ちた先を眺めと、ゆっくりとマスクを拾っては付け直した。

    「……オペラ先輩の、匂い…した」

    ぐちゃぐちゃした自分の中に生まれる黒い感情。怒りと嫉妬で視界が見えなくなる。

    「これは…いらない…早く、消さなきゃ」






    「私めちゃくちゃ睨まれましたね」
    「……」
    「おやおやおや?同じケトランクに押し負けそうになって悔しいんですかー?」
    「違いますッ」
    「…まぁ実際の話、あなたがケロベロスを出していればどうなってたかは知りませんがね」
    「………」
    「あの反応なら一応、作戦成功なんじゃないんですか」
    「……よくわかりません」
    「それは何故?」
    「………」

    裏庭へと連れられて、壁を伝ってはカルエゴは地面へと座った。

    「……アイツが嫉妬するとこなんて見たことがないから」
    「………だからあの怒りが本当にそれかわからないと?」
    「……」

    ため息も吐きたくなるものだ。オペラは頭を抱えて、カルエゴの前に座り込んでは瓶を顔を向けては吹き付けると目を赤くしては咳き込んだ。

    「ケホっ…んにするんですか!!!」
    「効果覿面でしたので、追加しておこうかと」
    「だからって顔に香水をかけるなッ」
    「まぁ、きっかけは私の香水ではなかったようですがね」
    「ッ…」

    すっと整えられた襟元をオペラは撫でるとカルエゴは大きく舌打ちをした。

    「‘’コレ“利用できるとは思っていましたが、あなたはまだ吹っ切れてないようですね」
    「チッ」
    「見せなくちゃ意味がないでしょ。バラムくんに隠していたのはなぜ?」
    「…」
    「屈辱?それとも本当に罪悪感を?」
    「……」
    「あぁ両方ですか」

    本当に面倒くさいですねあなたとオペラは首を振った。オペラの言葉に何も言い返せなくて襟元を手で隠す。

    「アンタの戯言なんて聞かずに、さっさとこの汚い傷を治療すればよかった」
    「治したところで、あなたが低俗に噛まれた事実は変わりませんがね」
    「ッ…うるさい」

    すっと首元を撫でては噛み跡を消し去る。これくらいの傷ならカルエゴにも治せたのに、付いたものを利用しない手はないとのオペラの言葉を鵜呑みにして放置していた。

    「っふ…本当にダサい」
    「ッ〜!」

    口元を押さえては、表情を変えることなく笑うオペラにカルエゴは歯軋りをした。

    「お酒に酔っている間に、背後から噛まれた感覚ってどんなのです?悔しいです?」
    「だ、ま、れ!!!」

    違うと言い切りたくとも、並べられる言葉に言い返せず拳を作ることしかできなかった。

    __あぁそうだあんな傷、屈辱以外何もない。

    オペラの家へと行く前に先にバーで酒を楽しみ、強い酒で夢心地でいた時にそれは突然首根っこを掴まれては思いっきり噛まれた。相手が悪周期寸前だったというのと、自分が一瞬でもその男にそういう目的にされたことへの苛立ちと気持ち悪さ。すぐに相手は病院送りにしたのだが、それでも自分が油断してやられたという事実は変わらない。そんな情けないカルエゴの姿をバラムにバレたくなかったのと、そして何よりも

    __シチロウ以外にこのような跡つけさせた俺を見せたくもなかった。

    『気持ちわる』

    目を細めた光のない視線は汚物を見るそれだ。その顔に恐怖ではない絶望に襲われた。自分の腕を抱き締めては何度目かの唇を噛んだ。

    「……。正直、今のあなたの気持ちなどどうでもいいのですが」
    「あ?」
    「不愉快なんですよ」

    すっとオペラは自分の尻尾でカルエゴの顎を撫でた。
    意図的でもはないとしても、愛したものを傷つけることも、自分の感情に嘘をつき続けることも、
    全てを諦めたことも、逃げていることも全部が全部不愉快で

    「ガキそのものですね」
    「はぁ!?」
    「まぁ今日は彼とは距離を取った方がいいでしょう。この学校を壊さないために」
    「…言われなくても近づきませんよ」

    __________________

    学校を卒業して、バビルスからの推薦状も無事貰え、シチロウとカルエゴは二人揃って学校へと勤めることが決まった年、それは日常会話の中に忍ばせるように、テレビを見ながらシチロウに告白をされては、笑ってカルエゴは了承して付き合ったのが始まりだ。そうして数年間恋人を続け、学校にほぼ住み着いていていたりフィールドワークばかり出かけているシチロウに同棲を持ち込んだのはカルエゴだった。
    そうして一緒に住み出してまた数年、細かい喧嘩こそあったが自分で言うのもアレだが特に問題もなく恋人として仲良くしていたのだとカルエゴは思う。そんなある日に突然のあの事件、今の今までの流れにカルエゴは混乱していた。
    カルエゴとの数年間の思い出も愛情も無くしたからと言って、拒絶されたことなど一度もなかったし、一方的な暴言や怒りをぶつけられたのは初めてだった。だからそのシチロウの変わりすぎた変化に本当にその怒りは嫉妬と呼んでいいものかすらもわからなくなっていた。

    ホテルのベッドで頭を抱えては、オペラに渡された同じ香水の瓶を傾けてはため息を吐いた。
    こんなことして一体何の意味があるのか。あの怒りは本当に嫉妬だったのか、それともシチロウが言った言葉通りの嫌悪なのか。それを確認する勇気は今のカルエゴにはない。

    「…どうするか」

    何をするのが正解か、何をすべきか、それを考えるたびに嫌われるのではないかと言う恐怖が邪魔をした。

    「もう治らないと腹を括って、忘れる努力をした方がいいだろうな」

    ス魔ホを手に取って、それは自然に「先輩」と書かれたアドレス帳を開く。

    「夜分にすみません」
















    「カルエゴくん」
    「………」

    朝、職員室で仕事をしていれば、申し訳なさそうにシチロウが近づいてきたことにカルエゴの肩は震えた。なぜだと疑問に思っても、ただごめんねと困ったように笑っていた。

    「昨日、キミと会ったよね?」
    「…は?」
    「いや会ったことは覚えてるんだけど…そこから曖昧でさ…けど、その感覚が悪周期の時と似ていたから、キミに迷惑かけただろうなって」
    「あく…しゅう…き?」
    「だから、ごめん。怪我とかさせなかったかな」
    「あ…あ、あぁ大丈夫だ」

    __昨日のことを覚えていない?悪周期だった?

    「(だから…あんなに怒って)」
    「あとこれ近くにキミのサインした書類があったから、その時に落としたのかなって」
    「あ、あぁ…探していたんだ。ありがとう」
    「ううんいいよ。きっと僕が暴れちゃったんだと思うし」
    「……そ…だな。確かに」
    「えッあ!!ご、ごめんね!!」
    「………大丈夫だ」
    「…本当ごめんね。最近うまく調整できなくてさ」
    「そ…なのか」
    「うん、ほら原因かもって言う実験あったじゃない?それがどうも悪周期制御剤とレシピが似てるんだよね。だから新薬開発してたのかなって」
    「あー…いや、前のお前からも調整がうまくできなくなっているなんて話は聞いていない」
    「そっかぁ…ありがとう」

    昨日の跡のことも拒絶したあの言葉をシチロウは覚えていないというのは都合がいいのかもしれないとカルエゴはほんの少しだけ安堵した気がした。なら予想は違うのだろうかとシチロウは頭を抱えた。

    「えっと、だからね、全く一からの新薬じゃなくて、今飲んでる制御剤の効果を強めるやつを作ろうと思うんだ」
    「そんなに大変なのか」
    「まぁね…学生の時より酷いかも」
    「それは…」

    今の環境と、記憶や無理矢理に消えた感情のことを考えると心体共に強いストレスを自覚している以上に感じているのかもとは予想はしているが、そんなことを言ってしまえば優しいカルエゴは心配するかもしれないとシチロウは口を噤んだ。

    「……だから、ね…その…それがうまくいったら、もしかしたら元に戻れるかもって思ってさ」
    「!!」
    「だから…だから」

    偉く困ったようにシチロウは眉を歪ませた。戻ることに抵抗を感じているのだとカルエゴは受け取り、すっと椅子を回してはシチロウに背を向けた。

    「お前の好きにすればいい」
    「…うん」
    「俺は今の関係のままでいいと思っているから気にせず好きな方を選べ」
    「え…」
    「あとそういう話を今後一切職場(ここ)でするな」
    「ご、ごめ…」
    「シチロウ」

    ペンを強く握っては、止まっていた書類に手をつける。

    「今日、一緒に昼食を取ろう」
    「え!」
    「…学生の時みたいにな」
    「うんッ!!」

    あぁ、その言葉の瞬間、この状態になってから初めてカルエゴが壁を壊してくれた気がしたとシチロウは笑った。
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