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    kk_69848

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    kk_69848

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    最終話です。ここまでお付き合い頂きありがとうございました。
    続編(年齢制限付き)も書きたいなぁと思ってますので、引き続き読んで頂けると嬉しいです。
    ※この話の蔵種はDを組んでいません※

    first kiss4 家に帰ると、家族から質問攻めにあった。種ヶ島さんのお家どんな感じやったとか、ご飯何出してもろたとか、失礼なことしてへんやろねとか。俺はうんざりしてもうて、「部活行ってくるわ」って直ぐに家を出た。
     ほんで次の日も一日部活に出て、いよいよ種ヶ島さんが泊まりに来る日になった。家族には「種ヶ島さん何時に泊まりに来るの?」って何度も聞かれとったけど、「忙しい人やから、分かったら知らせるわ」って適当に誤魔化しとったら、種ヶ島さんから『今日俺、行かへん方がええよな?』ってメッセージが届いとった。
     そらそうやろなって思ったんやけど、どう返信したらええか分からへんかったし、家族にやって何て説明したらええかも分からんし。俺はもう、全てから逃げ出したなった。
     あー、今日は携帯持たずに部活行って、そのまま誰かの家に泊めてもらおかなって。せやけど部活行っとったら家から学校に電話掛かってくるかもしれへんし、仲良い奴の家かてそうやし、あんま親しくない奴に泊めてもらうんは図々しいし。野宿とかは、しとったら補導されて家へ連れ戻されるやろな。
     もう誰も俺を知らへんような、どっか遠くへ行きたいわ。北海道とか。新幹線乗ったろかな。運賃ないけど。
     そう思いながら移動しとったら、やっぱり人間、無意識に見知った場所へ向かってしまうようで、種ヶ島さんとよく練習しとったコートへといつの間にか来とった。
     ほんで行ったら既に誰かおって、遠目から種ヶ島さんっぽいなーって思て。あの体格でしかもあの色合いの人ってなかなかおらへんし。少し近付いたらやっぱり種ヶ島さんで、あー、せやろな思て。種ヶ島さんに教えてもろたコートなんやから、おっても何も不思議やないんやけど、一人で壁打ち練習しとって。一人で練習とか意外やったけど。ほんで俺は逃げ帰るのもシャクやし、あぁおるなーって思いながら、少し離れた場所からぼんやりと眺めとった。
     そしたら俺に気付いた種ヶ島さんが、でっかい声で「ノスケや〜い! 試合しよかー?」って、まるで何もなかったかのように言うてきて。何でそんな普通なん、もう少し気まずそうにするとかあるやろって思ったんやけど、種ヶ島さんめっちゃ晴れやかな顔しとって。えっ、ひょっとして俺達ってもう別れたんか、これが噂に聞く自然消滅ってやつちゃうんかって思て。
     そしたら肩の力ががくーっと抜けてその場に座り込んでしもて、あぁ俺ってめっちゃ肩肘張っとったんやなって気付いた。
     種ヶ島さんはこっちの気も知らんと「どないしたん」って笑って、「試合しよ」言うた。俺は、何で今試合なんですかとか、俺達って別れたんですかとか、別れてませんよねとか、別れてないなら別れたいですわとか、そもそも謝って欲しいですとか。頭ん中に浮かんだ言葉全部に気付かなかった振りをして、言われた通り試合をすることにした。もう、逆らうのも面倒やった。
    「準備運動するんで、ちょお待ってください」
    「それ学校のジャージ? 部活行くとこやった?」
    「あー、まぁ自由参加なんでどっちでもええですわ」
     俺がストレッチし終わると、種ヶ島さんが「ほな肩慣らしに、まずは軽く打とか」言うて、ぽんとボールを打ってよこしたから、俺も軽く打ち返した。ぽん、ぽん、と、クレーコートをいびつに揺れながら、ボールが俺達の間を往復した。
    「俺なー、ゼウスとの試合の時とかな」
    「はい」
    「フランス戦の前の晩とかな」
    「はい」
    「こいつ大丈夫かなーって思て」
    「……はい」
     種ヶ島さんはボールを打ちながらぶつぶつ言い始めた。なんやまた説教か。これやっぱり、俺達別れたっぽいわ。
    「俺が付いといてやらんと駄目なんやないかなーって」
    「……」
    「せやけどこないだな、女の子だけやなくて、ノスケにも失礼言われてな」
    「……」
    「これもう、俺おらんでも大丈夫そうやなって思て」
    「……」
    「そう思ったらなー、なんや。今試合したら、ノスケが勝つんちゃうかなって」
     俺は、俺が種ヶ島さんに勝てる訳ないやないですかって言おうとして、口をつぐんだ。
     もううんざりやった。俺の頭ん中は何一つ整理出来てへんくてぐちゃぐちゃやのに、ぐちゃぐちゃにした張本人が涼しい顔しとって、俺に誰が必要で誰が必要ないかを勝手に決めて。せやけど俺は、これで楽になるとか解放されるとか思っとって、何一つ解決してへんのに逃げ腰で、張本人に勝てる訳ないとか言おうとしとる。
     確かにW杯ではお世話になったし感謝もしとる。せやけどもうおらんでも大丈夫そうってどういうことや。俺に種ヶ島さんが必要かどうかなんて、そんなもん俺にもよお分からへんのに何で勝手に決められなあかんのや。決めるにしてもタイミングおかしいやろ。もっとええタイミングあったやろ。そもそも必要なくなったら別れるとか意味分からへんし。ボランティアで付き合うとったんか? ほんで何で必要なくなったら俺がテニスで勝てるんや。メンタル強なったってことか? 全然強なってへん、ぐちゃぐちゃやわ。こんなんで強なるんやったら何回でも別れたるわ。
     そう思いながら種ヶ島さんを見ると、いつもの飄々とした顔で笑っとって。むしろ俺はメンタル吸い取られて、吸い取った種ヶ島さんの方が強なっとるわって思った。
     せやけどほんまは、そんな自分が情けなくてみっともなくて一番嫌やった。ほんまは俺かて種ヶ島さんに勝ちたいし、勝てへんくても、俺なら勝てるかもしれんって、思えるような自分になりたかった。俺は非公式戦やろうがなんやろうが絶対勝ちたいし、勝てへんとかそんな言葉、一生言いたないんや。
     そう思ったら腹の底から声が出てきて、俺は種ヶ島さんに向かって、でっかい声で言うとった。
    「負かしたる!」
     青空の下、トスされた硬球が鮮やかやった。

    「ゲームセット、ウォンバイしゅーじさん☆ 6-3」
     数十分の後、種ヶ島さんが朗らかに、自らの勝利を宣言した。
     現実は残酷で、気合いとかでどうにかなるもんではなかったけども。
     俺は負けた、せやけど。あそこでああ返しとけばよかったとか、そもそもあれは反則やろとか、自分で修二さん言うなやとか諸々腹立ってきて。以前の、種ヶ島さんと試合出来るやなんて光栄やって思っとった頃の俺よりは、今の腹立てとる俺の方がええなって、少しだけ気分が晴れやかやった。
    「何が俺が勝つですか。嘘つき」
    「ちゃうて。俺今日調子出えへんし、ほんまにノスケが勝つ気がしたんやって」
    「調子悪くても勝てるっていう自慢ですか?」
    「ちゃうんやて。ノスケが必死に食らいついてくるから、俺もアツなって調子出てきてまったんやって」
     種ヶ島さんは気分良さそうにラケットをぐるぐる回すと、「やっぱり俺、恋愛よりテニスの方が向いとるわ」って言うた。
    「種ヶ島さんはどっちも得意でしょう」
    「得意やったらコロコロ別れたりせえへんわ」
     言われてみればそうかもしれへんなと、そのコロコロの一人になった俺は思った。
    「この失敗を糧に、次は頑張ってくださいよ」
    「ノスケも頑張りや」
     種ヶ島さんはうーんと伸びをすると、「そうそう」と付け加えた。
    「ノスケがこの先付き合うた子に、『なんでファーストキスやないんや』って責められたら堪忍な」
     そう言われて俺は。
     俺が世界で一番、幸せやったあの日と。
     種ヶ島さんも恐らく、世界で一番幸せやと思ったりしたであろう、種ヶ島さんのファーストキスの日と。その相手と別れた日を思って。
     頭ん中がぐるんと一回転して、全てがすとんと腑に落ちた。
     目の前の、大人っぽくて軽そうな種ヶ島さんは、俺とおんなじ顔をしとった。
    「……種ヶ島さん、ほんまに今までありがとうございました」
     今までのぐちゃぐちゃが嘘みたいに頭ん中スッキリして、初めて付き合うた人がこの人で良かったなって、心から思った。
    「ええ経験になったやろ」
    「失礼なことばっかり言うてしもて」
    「ええて、ええて。お互い様や」
     種ヶ島さんに差し出された手を俺が握ると、種ヶ島さんに握り返されて。それはいつぞやの恋人としてのそれやなくて、健闘を讃え合う選手達の握手やった。
    「これからは、仲のいい先輩と後輩やな」
     そう言うて種ヶ島先輩はラケットバッグを担いで、俺に背を向けて、駅に向かって歩き始めた。俺はその背中を見送りながら想像した。種ヶ島先輩の運転する車の後部座席に座って、楽しく会話する俺を。そういう関係も結構よさそうやと思う。せやけど、その助手席に誰か座っとったら、俺は上手く喋れるやろか。今はまだ少し、難しそうやと思う。せやけど種ヶ島先輩って無神経に紹介とかしてくるかもしれへんから、それはちゃんと言うといた方がええなと思て、種ヶ島先輩を走って追いかけた。
    「種ヶ島先輩、あの」
    「何?」
    「俺ただの後輩ですけど、種ヶ島先輩のこと好きですから」
    「何でそういうこと言うん?」
    「迷惑ですか?」
    「迷惑やないから困るんやって」
     種ヶ島先輩はほんまに困ったような顔して、俺の目ぇ見て言うた。
    「俺も蔵ノ介が好きや」
     そう言われて、何で今言うんやろなって思て。俺が前、一生のお願いやから「好き」言うてください言うた時、「俺も」しか言わへんかったのに。何で今言うんやろって。
     そう思っとったら種ヶ島先輩の顔が青空の下、焼けた肌でも分かるくらい赤なってきて。何で今そんな顔するんやろって思ったけど、それ見たら居ても立っても居られんへんくなって、口が勝手に動いとった。
    「やっぱり別れたないですわ」
     そしたら種ヶ島さんは少し驚いた顔をしてから、困ったような顔して笑った。
    「俺も」
     そう言われるとやっぱり飛び上がるほど嬉しなってまって、種ヶ島さんの赤い顔じっと見とったら、種ヶ島さんも俺を見てくるから。これはあれやんなって目ぇ閉じたら、種ヶ島さんの顔が近付いてきて。
     それから俺達は、もう一度ファーストキスをした。

    「種ヶ島さん今日、俺の家に来ません?」
    「今更やっぱり行く言うたら、迷惑やろ」
    「家族には何も言うてないんで。普通に今日、種ヶ島さん来ると思っとるんですわ」
    「何で言うてないん。俺がドタキャンする奴やと思われるやろ」
    「何て説明したらええのか分からへんかったし。奇跡的に仲直りして、種ヶ島さん普通に泊まりに来てくれへんかなぁって」
    「随分と希望的観測やなぁ」
    「せやけど、叶ったやないですか」

     それから俺達は家族への手土産とか、種ヶ島さんの替えの下着とか買いに行って。
     一番星の下、手ぇ繋いで俺の家へと帰った。
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