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    蔵種ファーストキスシリーズの最終話(番外編)です。
    時系列はno title3とエピローグの間です。

    あんまり集中して書けないので細かく分割してアップしていきます(全何話か不明)
    今回は全年齢ですが後々R18になります

    番外編1─37.2℃
     ピピッという電子音と共に、ほんのりと温まった体温計が脇の下から取り出される。液晶画面に表示されとるのは、そこそこの数字。ベッドの上の病人は、掛け布団を首元まで上げると瞼を閉じた。いつもはふわふわの前髪が一筋、日に焼けた額にしっとりと張り付いとる。
    「熱、あるにはあるな」
    「ん……」
     せやけどルームメイトであり、俺のダブルスパートナーでもあるこの男は、体温以上にぐったりとして、この1LDKのアパートのベッドに横たわっとった。
    「薬飲もか。食べ物何もないけど……。パスタとか茹でたら、食べられるか?」
     東京のこの部屋には、昨日帰国したばっかりやったから、冷蔵庫には飲み物と調味料ぐらいしか入っとらんかった。
    「……いらん」
    「ほな買い物に行ってくるわ。何か欲しい物あるか?」
    「ん……」
    「ほな適当にヨーグルトとか買うてくるけど。何かあったら連絡してや」
    「……」
     ルームメイトはもそもそと動くと、頭の上まで布団を被った。布団の下からつま先が覗く。頭の方にはわずかに、ふわふわとした銀髪が見えた。
    「……ほな、行ってくるな。修二」
     布団の塊は無言のまま、一定のリズムでゆっくりと上下しとった。俺は玄関に鍵を掛けると、自転車に乗ってスーパーへ向かった。
     風邪薬は、買い置きのがある。俺は適当な食料品を買うと、今にも降り出しそうな曇り空の下、急いでアパートに戻った。そっとドアを開ければ、ルームメイトはさっき俺が出掛ける時と同じ姿で。頭の上まで布団を被って、すうすうと眠っとった。
    「……」
     俺は心ん中でただいまって言うと、プリンやらヨーグルトやらを冷蔵庫に仕舞って、水を沸かしてお粥を作り始めた。

     俺─白石蔵ノ介は、隣の部屋で丸まって寝とる種ヶ島修二と、ダブルスを組んでプロテニスプレイヤーになった。や、正確に言うとプロの申請をして、プロになってからダブルスを組んだんやけど。
     申請は、結構すんなりと通った。これまでの実績もあったし、三船監督は知らんけど、黒部コーチとかも後押ししてくれた。修二は大学生になってから、少し練習をサボっとったみたいやけど。元々テニスには真面目な奴やから、頑張って仕上げてきて。プロになってからも、国内の大会ではぼちぼち勝つことが出来た。せやけど問題は、海外の大会で。
     世界ランキング上位の選手やったら、専属のコーチとかトレーナーとか雇っとるし。飛行機の手配とかも、全部人にやってもらうんやろうけど。俺は飛行機も宿も食べ物もスリへの注意も全部せなあかんし。その上、飛行機嫌いの修二の世話まであって、ホンマに毎回へとへとやった。修二も修二で、俺に至れり尽くせりされとるのに、ずっとうわの空で。飛行機に乗る数日前から、乗った後も数日は具合悪くて、調子が出んくて。やっぱりプロになったのは早まったかもしれへんって、何度も頭をかすめたけども。
     国内の大会に出とるだけで済むんやったら、ええんやけどな。国内の大会はそんなに数がないから、勝ってもATPポイントが全然貯まらへんし。ポイントが貯まらへんかったら、世界ランキングが上がっていかへん。ぎょーさん試合してランキング上げて、みんなが知っとるような大きい大会に出たいって。そんなんプロの選手やったら、誰でも思うことやけど。
     海外の大会では毎回、予選1回戦敗退。顔を見合わせて、何も上手いこと言えんくて、とぼとぼと帰国して。それを繰り返して、それでも必死にしがみついて。海外に行くんは6回目の今回、ようやく勝てた。
     ビギナーズラックかもしれへんけど、波に乗れていきなり予選突破して、ATPポイントが貰えるだけ勝ち進めた。スポンサーの社長さんもえらい喜んでくれたし、賞金も、ちょっと驚くくらいの金額が出た。トータルで考えたら、完全に赤字やねんけど。
     せやけどこうして、俺達は世界で通用するんやって、証明することが出来たのはホンマに嬉しい。これまた正確に言うと、俺達やなくて、修二が飛行機に耐えられるって証明なんやけど。俺もほんまに安心したし。修二も、内心責任感じとったんやろな。ほっとしたんか、熱まで出してしもて。
     まぁ、俺を大学中退させたんやから、それぐらいの責任は感じてもらわなあかんけど。ああ見えて気が小さいとこあるから、案外かわええ─っと、あかんあかん。俺は頭を振ると、お粥に刻んだ小ネギを乗せた。
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