昔書いたやつ「どっかに連れてって、って、九条川が言ったんです」
ぽつりと、まるで独白のように彼女は唐突にそう言った。置いてあったグラスに石膏のように色の悪い肌で包まれた指をぶつけ、久留米は自嘲的に笑う。肌の色を裏切らずどこかぎこちない動きでその指はそのままグラスを倒し、注がれていた透明な水がテーブルを伝い、重力に逆らうこともせず床に滴り落ちる。
本来ならば手なり布なりでそれをせき止めなければいけないのだろうけれど、生憎今の私にそんな余裕があるはずもなく、彼女から目を離すことができずに床ばかりが水に浸されていく。でも、それも致し方ないというものだ。だって、ここに来て初めて
彼女が九条川さんのことを話したのだ。目を離せるわけがない。
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