【レカペ2】本文sample/You know something1 アルフレッド・ペニーワースの朝は早い。
使用人としては広すぎる(と言ってもこの広すぎるペントハウスにはもうずっと、彼ともう一人しか勤めてなく、かの主人は狭い部屋を好んでいる)部屋のカーテンを開けた。朝日へ目を細める必要はなかった。広い窓から差し込む日は弱く、ゴッサム・シティは本日も曇天である。
サヴィル・ロウ・スタイルの三揃えが彼のトレードマークであった。皺のないカッターシャツにベスト、ズボンは丹精を込め彼自身で毎日プレスされている。来客もなく誰にしめすでもないが、彼の姿はウェイン家の執事という自負の強さそのものであった。
本日の気分に合うクラシックを流し、コーヒーを豆から挽いて淹れ、それを片手に朝刊を開く。これまた執事としては穏やかな朝の時間。主人の起床時間は時計の長針が天辺に近づいた頃である。手首にある時計は九時を示しており、ある意味始業前、自由時間とも言える。しかしこのタワーで暮らすアルフレッドにとって、仕事とプライベートという区分はないに等しい。特段、この二十年近くは。彼の人生の大半は、ウェインと共にあると言っても過言ではない──彼の使命も同様に。
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