アホな会話二人でひとつ屋根の下で暮らすようになって気づいたことだが、どうやら俺の恋人は所謂『束縛系』というやつ、なのかもしれない。着るもの、食べるもの、家で過ごす場所を押し付けがましくない圧でやんわりと誘導してくる。多分、その気になれば誘導していることすら隠せるのだろうが、敢えてそれを隠さないことで、こちらには選択肢があるのだと思わせるところが小賢しい。いや、紛れもなくとんでもなく賢い人ではあるのだが、小賢しい。
「それで?うんざりして別れようって?」
「そんなわけないだろ」
ただ、居心地が良すぎてダメになりそうで怖い。職を辞してすっかり緩んだ男が、あの人にとってどれだけこれからも価値があり続けるのか分からないし、あの人がいなければ何も出来なくなりそうな自分も怖い。
「結局惚気かよ」
「俺にとっては深刻な悩みなんだよ」
「バカップルってのは大抵そう言うんだよ。お前何年この手の話するつもりだよ。結局手を替え品を替え言ってることは『幸せすぎて怖い』ってことだろ」
「だって……沸騰したお湯はいつか無くなるだろ」
「安心しろ。死ぬまでそれの中身は注ぎ足され続けるから」
「未来予知かよ。なんでわかんだよ」
「そんくらい楽観的になれよってこーと。……つうか、さ。そういう話はお隣の恋人と二人でいちゃいちゃしながらしろよ。んで、せめて俺にするなら恋人を同席させるな」
「……だってすげぇ甘やかすんだぞこの人!」
「はーい、お帰りはあちらー」
「話は終わりか」
「終わりでーす」
「えっ」
「帰るぞ、アーノルド。貴方の不安を解消するという急務が出来た」
「まっ」
「ゴムは使えよー」
「はっ」
「セックスでしか愛を語れないほど浅いと思われているとは遺憾だ」
「どうされんの、俺……!」
「その詳細は恋人が知ってりゃいいでしょ」
「確かに。……ひとつ、訂正しておく」
「なんでしょ」
「恋人ではなく、伴侶だ」
「わかった!わかったからもう帰ろう!」