宝探し 近づく足音に気付いたのか、難しい顔で手元を見つめていた少年がふと顔を上げた。
「……デク⁉︎」
言葉と共に弾けるように立ち上がる少年に、もさもさした緑色の髪と右の頬に大きく残った傷痕が特徴的な青年、緑谷出久は声を掛けようと口を開きかけた格好でぴたりと止まる。
「ホンモノ⁉︎ なんでっ? あっ、もしかしてコスプレ? ホンモノなら絶対にわかると思ったけど、こんなとこにいるわけがないし……」
ぶつぶつと呟きながら一人考え込む少年の様子に、出久の数歩後ろを歩いていたスラリと背の高い茶色い髪の青年が小さく笑った。
「デクそっくりだな」
「そ、そうかなあ…?」
二人でひそひそと言葉を交わす。
「ええと……一応ホンモノ、です」
出久は手のひらに収まるサイズのカードを少年にも見えるように掲げた。カードにはヒーロースーツに身を包んだ出久の顔写真とヒーローライセンスの文字が記載され、右上の角にオセオンの国旗模様があしらわれている。
「うそ、オセオンのライセンス⁉︎ ジャパンのヒーローだよね?」
少年がさらに鼻息荒く詰め寄った。
「ぼ、僕のこと知ってるの?」
「パパがデクの大ファンなんだ! もちろんぼくも大好き!」
きらきらとした目が、出久を見つめる。
「なんでオセオンにいるの?」
出久は少年の視界を遮らないように横に一歩分ずれると、傍らにいたもう一人の青年の細い腰を抱き寄せ——ようとして、その手をピシリと叩かれた。
「高校からの友達に会いに来たんだ。紹介するね、彼が友達のロディ・ソウル」
「よろしくな」
出久の手を叩き落とした側の手をひらひらと振って、ロディが言った。
「高校からのってことは、ヒューマライズのテロ事件の時?」
興味津々に尋ねられた内容に、出久の丸い目がさらに丸くなる。
「そんなことまで知ってるの?」
「大ファンだって言ったろ?」
少年がニヤリと笑って見せた。
「すごいや!」
「デクのオールマイト知識並みだな」
感心する二人の様子に、少年は得意気だ。
「ところで、君はアルフレドくんだよね? お父さんからは何か聞いてない?」
出久の言葉に少年、アルフレドは一瞬表情を曇らせた。
「さっき電話で、今日行けなくなったって。代わりにパパの友達が行くからって、言ってたけど…」
「君を手伝って欲しいって頼まれたんだ」
「デクがパパの友達なの⁉︎」
「今親父さんに電話かけ直してみな。その方が信用できるだろ」
「う、うん…!」
ロディに言われ、アルフレドはスマートフォンを取り出すと、すぐに電話をかけ始めた。数コールで繋がったらしい。デクの名前を口にして再び興奮したアルフレドが、どういうことかと問いただしている。電話の向こうで、先程会ったばかりの柔和そうな男性が眉毛をハの字に寄せて謝っているのだろう。
駅前という往来の多い場所で敵が暴れ出したのは、つい数時間ほど前のことだ。敵は間も無く地元ヒーローに制圧されたが、その際複数出た怪我人の中にアルフレドの父親がいたのだった。彼はあられもない方向に曲がってしまった右脚が、息子との約束の時間までに治療できそうにないことに焦りを感じていた。その時、騒ぎを聞きつけて現場に顔を出したのが出久とロディだった。
「と、言う訳で。デクさん、息子をよろしくお願いします」
ビデオ通話に切り替えられたスマートフォンの画面越しに、アルフレドの父親が頭を下げた。映り込んだ背景や彼の身嗜みには病院や怪我を想起させるものはない。
「わかりました。アルフレドくんの安全は僕が保証します」
「実に頼もしい限りです! アルも、あんまりご迷惑にならないようにな」
「デクに迷惑かけてるのはパパの方だろ!」
まったくもうと嗜めるアルフレドに、彼の父親は申し訳なさそうに笑った。追加で一言、二言交わしてから通話が切られる。出久は、呆れて見せているアルフレドに声をかけた。
「それで、何を手伝ったらいいかな?」
「えっと……ママが作ったなぞなぞを、一緒に解いてほしいの」
先程までの威勢はどこへやら、言い淀むのは依頼内容のささやかさを恥じているのかもしれない。
「なぞなぞ?」