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    H_kSarahgi_Q

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    H_kSarahgi_Q

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    松花の旅行ネタというリクエストをいただきましたが6月だし、そういうネタも含めて。

    玄界灘の潮風に空港目の前のレンタカー屋で車を借りる。
    「……こーれは」
    「やっちまった感すごい」
    どうやらレンタカーの予約の時にクラスを間違ったらしい。用意されたのはコンパクトカーだ。新しめのモデルでボロいわけでもない。ただこちら側に問題がある。乗車予定のどちらもがバレーボール経験者であり、身長が180cmオーバー、片方は190cm近い身長であるということ。
    「ごめん」
    「いーよ、別に。二日程度だし」
    予約をしたのは花巻だった。そして運転をするのは松川。ギリギリまでシートを下げる。

    「そんじゃ、行きますかね」
    「おいっす」
    花巻はカーナビに目的地の住所を入れる。表示されたのは何もないところだが、『ここへ行く』とナビを開始させた。
    「うお――――――、福岡の道めっちゃ怖いんだけどー」
    「お前東京の道も怖いって言ってたろ」
    「慣れない道の運転はどこも怖いー」
    車量の多い道を抜けて都市高速を目指す。
    「ねえ、ホントにここなの?」
    「何が?」
    「目的地。何もないじゃん。もうちょっと行ったら島だけどさ。ここあれだろ?日本史の教科書に絶対載ってる島」
    「うん、その島は……まあ別にあとで行ってもいいんだけど、どっちでもいいよ。松川が行きたいならいいけど。俺が行きたいのはここだから」
    花巻の人差し指がカーナビの画面に触れる。
    途端、カーナビが変なところにカーソルが動いてしまった。
    「あっ」
    「ちょっと、現在地に戻して。迷う」
    「現在地?現在地ってどこ押せばいい?どこ」
    「早く!次の車線わかんねえって」


    30分ほど走って高速を降りた。
    「花巻」
    「んー?」
    「合ってるんだよね?」
    「合ってる」
    「住宅地じゃん」
    「ナビがこっちだっつってるからこっちでいーんだよ」
    「えー…」
    更にもうしばらく走ると、両サイドが防風林で覆われた道に出る。そしてカーナビの『目的地に近づきました。案内を終了します』の声。
    「おっ、ついたついた!」
    「ついたってここ何もない……」
    「ある!ほら、あれ!」
    「えっ、……あれ?」
    道路の脇、本当に駐車場の一角のような木に覆われた場所に、ボロい漁船のようなものが置かれていた。何故ここに船?と松川は思ったが、よく見ると、その船には明かりがついている。
    「俺、ここのシュークリームが食いたかったのよー♪」
    車が停まるやいなや、花巻は財布を持って車を降りていった。
    松川も続いて降りる。微かに潮の香りがする。

    自販機でお茶を買って車に戻ると、花巻もちょうど戻ってきた。
    「ちょっとー、何で車に戻っちゃってんの」
    「何って、それ食べるんだろ?」
    「食べるけど!こっち!いいとこあんの」
    花巻がこっち、と松川を誘おうとしているのはともすれば見落としてしまいそうな細い道。多分元々は道などなかったのだろうけれど、人が繰り返し踏み入ったことでできたと思われる道。木のトンネルでまだ日が高いというのにとても薄暗くてひんやりとするが、でもとても心地の良い空気だ。
    「松川早く!」
    花巻は既に木のトンネルを抜けている。
    「はいはい…」
    だがその木のトンネルを抜けた松川は目の前に広がった光景に驚いた。

    誰もいない砂浜と海がそこにあったのだ。
    「なー?ロケーション最高だろ?海見ながらシュークリーム!」
    防波堤に座った花巻はお前も座れと自分の隣を叩く。
    「シュークリーム好きとしては一度来たかったんだよね!んん――――、海だ――――」
    宮城にだって海はある。
    でも宮城よりもずっと南の九州の、それも日本海側の海というのはそれだけでやはり違うものなのだ。
    「いっただきまーす」
    心底幸せそうな顔をして大きなシュークリームにかぶりつく花巻を見ていると、それだけでこちらも幸せになるのだから不思議だ。
    松川もシュークリームを一口食べる。確かに美味しい。
    「よく知ってたね、こんなとこ」
    「テレビでたまに紹介されてるよ。旅行先決めるのに俺が福岡っつったのはこれが目的!」
    「マジか」
    宮城住まいの松川と東京住まいの花巻。彼らが再会したのは故郷の宮城ではなく福岡空港だった。しかし仙台空港から福岡空港への便は非常に少ない。その『来づらい』ところに花巻が行きたいと言った理由がこのシュークリームとは恐れ入る。
    でもそれを嫌だとか面倒くさいと思わないのは
    『これが惚れた弱みってやつか』
    「松川?」
    花巻がどうしたと松川を見る。
    「……花、クリームついてるよ」
    親指で花巻の鼻頭についたクリームを拭って舐める。
    「お前……よく外で恥ずかしげもなくそんなんできるな」
    「できるよ?だって花のこと可愛くてたまらないもん。つーかそうじゃなきゃ福岡で会いましょうって言われても拒否するでしょフツー」
    「なんだよ、お前そんなに俺のこと好きかよ」
    「好きだよ。…早く宮城に戻ってきてくんないかなって思うくらいに好き」
    「………」
    シュークリームの最後の一口を食べ終えた花巻は防波堤からそのまま砂浜に降りた。
    「はなー?そろそろ車戻ってホテルにチェックインしないと」
    花巻は手ごろな木の棒を拾うと、潮の引いた砂浜に何か書いている。
    「英語?Would、…you……marry、me?……」
    それだけ書くと仁王立ちをして松川を見る。
    「それ、俺が先に言いたかったのになあ」
    癖のある髪を掻く。
    「いいよ、花巻。だからもう俺のとこ戻ってきてよ!」
    そう言って防波堤の上に立って両手を広げた松川のところに、花巻は砂に足を取られそうになりながら駆け戻ってきた。


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    作中に出てくるシュークリーム屋さんは本当に船?を改装したお店です。シュークリームではなく金印ドックというホットドック(美味しい)を売っているお店ですが、ここの裏手は防風林のトンネルを抜けると海岸でして、そこで玄界灘を見ながら食べることができます。
    また、仙台-福岡便もJAL/ANA各1日1便程度は運航があるようなので、福岡空港で逢いましょうは可能です。
    そしてタイトルは福岡と言えばこれしかないだろうというタイトルです笑 まあ作中の海も玄界灘ですからね!
    リクエストいただきありがとうございました!
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