ブラウニー「ココくん、2月14日の放課後空いてます?」
そんなこと言われたら期待しないわけが無い。
ソワソワしながら前日の夜にイヌピーの家に向かう。
「はじめちゃん、いらっしゃい」
「赤音さん」
そう、今から俺は花垣に、バレンタインチョコをつくる。俺は花垣のことが好きだ、だから明日、チョコを渡して気持ちを伝える。まぁ、玉砕覚悟なんだけど。
つくる為には赤音さんの力が必要で、1から10まで教わって作っていく。チョコにお湯が入りそうになったり、塩と砂糖を間違えそうになったけど無事に作り上げられたブラウニー。
少しイヌピーに味見させてみれば、美味いって言ってくれたし、自信はある。ラッピングをすれば立派なバレンタインの甘い甘いプレゼント、女々しいな俺。
さぁ、やってきました2月14日。そわそわしながら待ち合わせ場所の駅で待つ。街はバレンタイン一色で周りはカップルだらけ。早く来ねぇかな。風が強くて寒い、今日に限ってマフラーを忘れた、少しでも暖まろうと肩をすくめる。
「ココくん!」
「花垣、おせぇ」
「すみません!寒かったッスよね、鼻真っ赤」
「…ん、で、どこ行くんだ」
「ココくん、あんま遊んだことないって言ってたじゃないですか、だからゲーセンとか行きましょう!」
「花垣らしいな、」
太陽のような笑顔で俺を見る。俺はこの笑顔と温かさに惚れたんだっけな。さっきまで寒かった体はいつの間にかポカポカと熱を帯びていた。
「そういえばココくん」
「?」
「ココくん、チョコとか貰いました?」
「あー、人並みに」
「イケメンッスもんね」
「別に義理だろ、花垣はどうだった?」
「いや、もー全然!辛うじてヒナがくれたんすけど俺甘いものちょっと苦手なんですよ」
「っ」
「だからバレンタインはチョコだらけで鬱っすね、ポテチにもかかるし」
苦手だなんて知らなかった。いつも花垣はニコニコしてお菓子を食べていたから。あぁ、どうしようか。苦手だと聞いているのに渡すなんて。
「ココくん?ココくん!着きましたよ」
「っぁ、あぁ」
いつの間にかゲーセンに着いていたらしい。中に入ればここもカップルだらけ。よーし、獲るぞー!なんて気合を入れてる花垣について行く。騒音がうるさい、花垣の声があまり聞こえない。突然花垣が立ち止まる。
「どうした?」
「この猫のぬいぐるみ、ココくんにそっくり」
「はぁ?」
「これとります」
黒くて目つきの悪い猫のぬいぐるみ。猫の手元には小さいちょっと不細工なひよこが括り付けられていて割とでかい。掴んでは落とすの繰り返し、こんなの本当にとれるのか?でもそこから花垣は上手かった。寄せたり、引っ掛けたり、デカいのに10手かからないくらいで獲得していた。
「はい、ココくん」
「?」
「そっくりだから、あげますね!」
「…ありがとう」
花垣からの、プレゼント。頬が熱い、こんなに嬉しいことがあるだろうか。その後もグルグルと回っていれば御手洗に行くと花垣は離れていった。今のうちに、捨ててしまおう。鞄から綺麗に包んだ箱を取り出してゴミ箱へ向かう。ごめん、赤音さんせっかく教わったのに。
「ココくん?」
「っ花垣」
「それ、どうしたんすか」
どうやら花垣の行った御手洗の近くだったらしい。失敗した。
「え、まさか貰ったやつ?」
「違う、けど」
「見せてください」
隠す前にパッと奪われる箱。やめてくれ。箱には、メッセージカードに花垣へなんて書いてあるんだ、みないで。
「…ココくん、静かなとこに行きましょうか」
ゲーセンをでる。さっきまで熱かった体はもう冷えてしまっていた。
「ココくん」
「……」
「これ、俺にですか?」
「っ、そうだよ、悪ぃか」
「悪くないですよ!俺、期待してたんです」
「は」
「イヌピーくんが言ってたんで」
「…っ、イヌピー…」
「イヌピーくんが、ココくんのチョコ食べたって聞いて嫉妬したんです、俺、ココくんの事好きなのに、ココくんは手作りしてまで誰にあげるんだろうって」
「へ」
「だから、今日予定空いてるって聞いてもしかしたらって、期待して…これ、ココくんが作ったんですよね」
「ち、が」
「俺宛ですよね、これ」
「ちがう」
「違くない、だって花垣へって書いてある」
また顔が熱い。恥ずかしい。こいつは、花垣は俺が好きって言ったのか?
「開けますね、わ、ブラウニーだ」
「…」
「いただきます」
「花垣っ」
「ん…うま……めちゃめちゃ甘くて、重くて美味しいです」
「っ」
「ココくん」
「なんだよ…っ」
「俺、ココくんのこと好きなんです、付き合って下さい」
「っ、俺も、花垣が…」
この先の言葉は甘い甘い花垣の口の中に吸い込まれていった。