この男は花の匂いがすると思う。けれどそれは、調合されたものとも、醸造されたものとも違う。かと言って、庭師に手づから世話を焼かれて咲いたものとも違う。人工的なものではない。それが、正気を失って人の形をやめたせいなのかは分からない。ただその匂いは、甘ったるいというより、もっと森林の中を強かに生きるような、媚びるだけでない、湿った匂いがする。

飴玉「男の人って、どうしてああ独善的なもの言いをするんでしょう」
　何故そんなことをここで言うのか、全くわからなかった。俺としたことが言葉に詰まってしまったが、咄嗟に「俺たちは優しくするよ」とウインク出来たことを褒めて欲しい。相手の女性は赤面して黙ってしまった。握手会という場面でそんなことを言われたのは、生まれて初めてのことだった。
「それは災難でしたね」
　アスランがいないから昼食は簡単に済まそう、と言うと、じゃあそうめんがいいです、と言われた。スーパーで麺と薬味と、ついでに麦茶を買ってきた。東雲がメニューに希望を出すなんてめずらしい。しかもそうめん。夏らしい。
「なんで握手会でわざわざそんなこと言ったんだろう」