浩賢(再掲)布団の上で素足が絡む。 あったかい。 この普段よりあったかく感じる足の裏は、多分眠たいんだろう。
「寝ていいよ」を言おうと口を開きかけたところで、浩一が先に俺を呼んだ。 後ろから抱きしめられているような体制なので、耳のすぐそばで心地好い低音が鳴る。 この声に名前を呼ばれるのが好きで思わず口元がゆるんでしまうのを、見られなくて良かった。
「賢吾くん、誕生日、なに欲しい?」
「ん? 別にいらないかな」
「そればっか」
「じゃあ、肉か寿司」
「毎年食いもんじゃん」
「食うの好きだもん、一緒に食お」
「……欲しいもんないの?」
「ないよ」
「俺にはいろいろプレゼントしてくれるじゃん」
「そうだっけ? 覚えてないや」
嘘をついた。 二つも。
腹にまわされていた腕に力が入り、ぎゅっと抱き寄せられる。 困ったなあ、離れたくなくなるじゃん。 俺は整理したいのに、さ。
浩一はきっとプロになる。 それも、大活躍する選手になる。 その隣に相応しいのは俺じゃない。
俺は今、お別れを育てている最中なんだ。
だから、もらった物を見る度に浩一の温度を思い出すなんて嫌だ。 綺麗な思い出だけ、お揃いの思い出だけあればいい。
そう考える一方で帽子とか財布とか、身に付けるものばっか、毎日使うもんばっかプレゼントしてる。 ずるいよね。 自分を思い出してほしくてわざとやってんだ、馬鹿みたいだろ。
「賢吾くん」
「んー?」
「なんか、さ。 別れる準備、してない?」
「…………してねーよ」
カンが鋭い恋人は厄介だなぁ。
「ねぇ? してない?」
「してねぇよ」
「俺、あげたいものある」
「なに?」
「なんかアクセサリー。 指輪とか、お揃いの」
「は? そんなんもらっちまったら別れ、……いや、」
「もらっちまったら、何?」
「身に、付けたく、なるだろ」
「それが狙い。 って言ったら、引く?」
「……引くわけないべや」
あぁ、幼馴染みが恋人って厄介だなぁ。 俺の性格も全て読まれている。
ずっと一緒にいられたらどんなに幸せだろう、って思うよ。
鼻の奥がツンとする。 万が一にも顔を見られたくなくて、敷き布団に顔を擦り付けて遠ざけた。
「賢吾くん、こっち見て」
「やだよ」
「お願い」
「いまいい感じに収まってるから動きたくない」
脚が離れる。 離れて気付いた。 そう言えばいつの間にか同じ温度になっていた。 浩一が肘をついて上体を起こしたのが布団のズレと音で分かる。
目の前に浩一の左手が降りてきて、男から見ても鍛えてる立派な腕だなと思えるソレに捕まって身を捩った。 浩一は俺と天井の間で俺に蓋をするように被さるから……そんなに真っ直ぐ見下ろされると、どこまで筒抜けなのか心配になるよ。
「別れないよ」
「そう?」
「別れるつもりないから」
「うん、よろしく」
浩一は無表情を崩さない、から、俺も笑顔を崩さない。 三つ目の嘘がバレない日々を、祈ってるよ。